「ゴルフ産業Q&A」ゴルフ界「人手不足」の大元と リアルな課題を考える

「ゴルフ産業Q&A」ゴルフ界「人手不足」の大元と リアルな課題を考える
Q1  深刻な人手不足からの脱出を考える ポストコロナ社会に移行して、日常生活に活気が戻ってこようとしています。このような状況の中、コロナ禍の自粛で業務内容の縮小を迫られた飲食業や宿泊業も、業況の回復を目指した活動を再開しています。しかし、その矢先に深刻な人手不足に直面。慢性的な人手不足に悩むゴルフ場業界の雇用情勢も、深刻さが増しているようです。 人手不足から脱出するにはどうすればいいか? 大石さんのお考えを聞かせてください。 A1 ご質問、ありがとうございます。 ご質問にお答えする前に、7月26日に発表された本年1月1日現在の日本人の人口について確認しておきます。1968年の調査開始以降初めて、全都道府県で人口が減少し、かつ、年間最大の80万人減となって、1億2242万人余となりました。この原因は、2022年の出生者数が77万人(1968年の調査開始以降最小)であったことに対し、亡くなった方が157万人(1979年の調査開始以降最大)となったためです。 政府は、「少子化は日本が直面する最大の危機。2030年代に入るまでが、状況を反転できるかの重要な分岐点だ」として、児童手当の所得制限の撤廃や期間延長・出産に関する支援・貸与型奨学金の減額返還制度の変更・育児休業取得の促進などを主な内容とする「こども未来戦略方針」(本年6月に策定)に基づき、子ども・子育て政策を強化する方針です。しかし少子化の原因は、若い世代が将来の社会・経済の展望に希望が持てず、子育てに対する負担感を感じていることだと言われています。金銭的な政策だけでは、解決が困難と感じているのは私だけでしょうか。 この状況と同一なのが、本年4月に帝国データバンクが実施した「人手不足に対する企業の動向調査」で、51・4%の企業が人手不足と回答した問題です。 一般的に、人手不足が及ぼす悪影響は「時間外労働の増加・休暇取得数の減少」「従業員の働きがいや意欲の低下」「能力開発機会の減少」「離職者の増加」などの進行によって最悪の場合は廃業に至ります。慢性的な人手不足となっているサービス業は、非正規雇用率や短期離職率が高く、処遇面・仕事量・報酬面に課題があると言われています。

ゴルフ場業界の人手不足対策は?

バブル経済崩壊後、デフレスパイラル的な低価格化競争が起きました。企業は収益力低下への対策として、正規雇用から非正規雇用にシフトしたり、人材投資を控えるコスト削減策を実施。ゴルフ場業界も例外ではなく、ゴルフ界の将来展望にネガティブなイメージを持つ若者が増えているように思われます。 ネガティブなイメージが強い業界は、一般的に人手不足に陥り易いと言われています。 したがって、ネガティブなイメージを払拭するため、ゴルフ場の社会的存在意義を明確にし、魅力ある将来像を示さなければ、我々が未来を託す人材の確保は不可能ではないかと思います。 2022年、「一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会」は、ゴルフ産業の持続可能な発展を目的として、2030年を目標年とする中長期ビジョン「ゴルフ界はウェルビーイングな社会の実現に貢献する」を掲げ、活動する方針を決めました。「ウェルビーイング」とは、ポジティブに仕事などの活動に集中し、他者との良好な関係を保ちつつ、生きる意味や意義を自覚して目標に向かって取組んでいる状況で、精神的・社会的にも満たされている状態を表わす概念です。 よって、「中長期ビジョン」の目的は、マーケティング的には「ゴルフの普及によって、国民の生活が身体的・精神的に健康で豊かになること」であり、マネジメント的には「ゴルフ産業に従事する人たちの幸福感や満足感が高まることによる生産性の向上や離職率の低下が期待できること」で、最終的には持続可能な発展が実現されることです。 ここで、ファッション業界のマーケティングトレンドから、企業の在り方を考えてみたいと思います。ファッション業界は「計画的陳腐化」(短期間でデザイン・色・スタイルを変更して買替需要を喚起)と言う手法を使って売上げ拡大を目指す企業が多いのですが、大量生産と廃棄処分による温室効果ガスとエネルギー使用量の増大に対して批判が大きくなっています。この批判に対し、「地球が私たちの唯一の株主」だとして、2022年に全株式を環境危機と闘い自然を守るNPO法人に譲渡した「パタゴニア」の活動があります。 同社は1990年代半ばに全ての衣料品の素材をオーガニックコットンに転換、大量消費を喚起する「ブラックフライデー」に対抗して「このジャケットは買わないで」と持続可能な消費を呼び掛ける「グリーンフライデー」を展開。最近では「新品よりもずっといい」をキャッチフレーズに「修理」を呼び掛ける運動も行っています。 今やその活動は食品にも広がり、「リジェネラティブ・オーガニック農法」で栽培された野菜を原料にしたスープやフルーツに加え、なんと「カーンザ」と言う多年草の穀物(根が長く、植え替えが不要で炭素を多く吸収)を原料とするビールまで発売したのです。「リジェネラティブ・オーガニック農法」は、不耕起栽培・有機肥料・被覆作物の活用などで、より多くの土壌炭素を貯留でき、ゴルフコースの管理にも通じる農法です。 以上のように、目先の目標に捕らわれることなく、社会的役割を追求する企業が、就業先として選択され始めています。 超高齢社会を迎えた我が国の課題である「健康寿命の延伸」、地球温暖化防止や生物多様性の保全という課題解決に、ゴルフ場が果たす役割は沢山あります。それを丁寧に広報していくことで、業界の社会的評価の向上と就労者や求職者のモチベーションの上昇に繋がります。 今回は、ゴルフ場業界として「ネガティブなイメージを払拭する」ことについて述べました。次月以降は具体的な雇用促進ポイントや事例を紹介していきます。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年9月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら