「ゴルフ産業Q&A」ゴルフ場の求人活動は的外れ? ピンポイントで攻める方法を考える

「ゴルフ産業Q&A」ゴルフ場の求人活動は的外れ? ピンポイントで攻める方法を考える
Q1  「雇用問題」の解決ポイントをどのように考える? 前月号で大石さんは、ゴルフ場業界の深刻な人手不足を解消するポイントとして、業界全体でゴルフとゴルフ場のネガティブなイメージを払拭することが大事であり、そのためにはゴルフとゴルフ場の社会的存在意義を明確にし、魅力的な将来像を示すことだと書かれていました。 [surfing_other_article id=79125][/surfing_other_article] 具体的には、2030年を目標年として、ゴルフ産業の持続可能な発展を目指す中長期ビジョン「ゴルフ界はウェルビーイングな社会の実現に貢献する」を掲げて、活動するべきだと。大局的な話ですが、このことを「雇用問題の解決」に限り、より身近な方法はあるのか? この点について聞かせてください。 A1 ご質問、ありがとうございます。まず、大局的な話として、本連載の17回目で「ゴルフ場の『パーパス経営』と、ステークホルダーを考える」と題した記事を書きました。その論旨は、会社経営で大事なことは、従業員を含む全てのステークホルダーが参画して共生を目指し、企業の「社会的存在意義を明確に示すパーパス経営」が不可欠になってくる、ということです。 そして前月号では、業界の中長期ビジョンに「ウェルビーイングな社会の実現に貢献する」ことが大事だと書きました。このウェルビーイングには「ゴルフ産業で働く人たちの『幸福感や満足感』が高まる状態」も含まれ、実現すれば生産性の向上や離職率の低下も期待できる。その結果、雇用促進が図れるのです。 ところが最近、ウェルビーイングの流れに反して、従業員への対応に失敗した残念な事例が頻発しています。そのひとつに、百貨店業界で約60年ぶりという労働組合のストライキがあり、ニュースでも大きく取り上げられました。 セブン&アイ・ホールディングスが傘下のそごう西武を米投資ファンド「フォートレス・インベストメント・グループ」(傘下に「アコーディア・ゴルフ」もある)に売却した事案です。これにより従業員は、雇用の安定性が損なわれる不安や、百貨店文化の喪失などを危惧してストを打ったわけですが、多くの企業は改めて、ステークホルダーとしての従業員の重要性を認識したのではないでしょうか。 ゴルフ場業界も90年代初頭、バブル経済崩壊後のデフレスパイラル的な低価格競争で、収益力が低下しました。これに伴い非正規雇用者の増加など、人材投資を抑制するコスト削減策が蔓延。そして、ゴルフ場の約半数が民事再生法や会社更生法等による法的整理に至り、ゴルフ場の金銭的価値を追求する「ハゲタカ」と呼ばれる外資系投資ファンドに買収されました。これにより、ゴルフ場業界にネガティブなイメージを抱く人が増え、現在の人手不足の遠因になったと思われます。 このイメージを払拭するためには、ゴルフが持つ国民生活上の有益な役割や、ゴルフ場が有する地球環境問題の改善に有効な機能などを広く訴求すること。それが人手不足解消の基本になると私は考えます。 その上で、より身近な改善点もありますので、次にこの点を紹介しましょう。全てのゴルフ場で深刻化している「コース管理職員不足」についてです。

業界の求人活動は届かない

過日、日本芝草学会に所属している農学部の大学教授と、以下の会話を交わしました。 大石「近年、ゴルフコースの管理職員不足が大きな問題になっています。直接雇用はおろか、コースメンテナンス専門企業の雇用状況も危うい状況です。現場では様々な募集活動を行っていますが、採用どころか、応募も無いに等しい。特に、芝草関連の学部を卒業し、将来のコース管理を担ってもらいたい『責任者候補』の採用が、皆無と言える状況です。先生のゼミ生などで、ゴルフ場に就職しようと考える学生はいないのですか?」 大学教授「学生は、ゴルフ場に自分たちが就職できる場所があるとは思っていないようですよ。もちろんゴルフ場の存在は知っているけど、就職先として意識してないのが現実です。その理由なんですが、ゴルフ場業界の求人活動が、まったく足りてないように感じるなぁ」 この話に私は慄然としました。人手不足を嘆きながら、我々は何をやって来たのだろう……。単純に言えば、我々の活動はまったく的を射たものになってないと言えるのです。 そこで、危機的な状況にある「コース管理部門」の求人活動について早急に行うべきは、近隣の「農学部・造園学部・園芸学部・バイオ学部」等を設置する大学を直接訪問し、ピンポイントで求人活動を行うことです。同時に、全国に367校・生徒数8万8650名が在籍(2018年現在)すると報告される農業系高校への求人活動も、積極化しなければなりません。求人メディアに広告を出しておしまいでは、事態は好転しないのです。 次の策は、女性のコース管理職への就労を目指す働き掛けです。実は、農業関係学部の大学生や農業高校の生徒には、驚くほど女性が多いのです。現状、女性のコース管理職員は非常に少ないのですが、彼女たちに就職先として選んでもらうためには、機械化(自動化を含む)や女性の就労に向けた設備の整備が重要です。諸々の施策で女性に選ばれる職業になれば、男性にとっても魅力的な職場になるのではないでしょうか。 また、超高齢社会におけるシニア層の雇用も重要です。2022年の総人口に占める「生産年齢人口」(15~64歳)の比率は、2000年比で9%減少していますが、厚生労働省の発表によれば、70歳以上でも働ける制度をもつ企業の割合は2022年で39%に達し、2012年の2倍ほど。定年が65歳以上の企業も12ポイント増えて25%になったそうです。高齢になるにつれて賃金が低下し、現役世代に敬遠される職種に就かざるを得ない課題もあるようですが、この点も考慮しながら高齢者雇用を考える必要があるでしょう。 もうひとつの課題である「外国人雇用」につきまして、一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会では、外国人のコース管理職への就労が早期実現することを目指し、各方面と折衝中。いずれ本稿で、その内容を詳しく紹介します。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年10月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら