コロナ期来場者急増最大原因は「休眠ゴルファー再開」だった

コロナ期来場者急増最大原因は「休眠ゴルファー再開」だった
現在、ゴルフ練習場では入場から打席エントリー、料金支払いまでを「カード」で自動的に一括管理する動きが進んでいる。その目的は自動化、経費節減、ポイント付与など、施設運営のマーケティングを高度化するところにある。 実は、ICカードやリライト型プリペイドカードには、定額プリペイドカードにない「高機能」が潜んでいる。全ての顧客の全来場記録が自動的に蓄積され、個別ゴルファーの練習量の長期変化(ゴルファーの成長記録やゴルフ熱変化記録)が追跡、集計可能であり、個別練習場の集客対策にとっては無論のこと、「ゴルフマクロ需要」の時々刻々の変化をアンケート調査ではなく「実記録」から把握できる唯一の装置である。現在、これを導入している施設は全体の15%、約330センターと筆者は推測するが、問題は、宝の山と言えるこれらの記録が、殆ど活用されていないことである。 筆者はこの10年間、複数施設のカードシステム全来場記録を分析する機会に恵まれ、ゴルフマクロ需要生成・変動の貴重な知見を得た。2023年5月にそれらをまとめ「特許番号7303508号ゴルフ練習場の顧客構成分析方法」として認可を得ている。 本稿の内容は、その特許分析方法に基づく。(特許は複数のゴルフ練習場から提供いただいたカードシステム顧客来場履歴データ分析より得た知見であり、特許はその方々との共有名義である)

コロナ期来場者急増分析

2019年から4年間のゴルフ需要大変動は、コロナ禍という特殊な状況が影響したもので、今後二度と起こらない異変であろう。その経過詳細は、今後のゴルフ需要減少に備える貴重な知見である。データの提供施設は少数ながら、コロナ期4年間で1度でも来場した、すべての顧客5万8840人のカードシステム顧客来場履歴データの提供を受けた。これをサンプルとして、ゴルフ需要全体のコロナ期変化を分析することが本稿の目的だ。 提供いただいたサンプルデータは〈表1〉である。 [caption id="attachment_79719" align="aligncenter" width="1184"] 表1[/caption] ・ 重複のない顧客番号 ・ 登録年(最初に来場した年) ・ 性別 ・ 来場時年齢階層 ・ 年間合計来場回数 以上に限定され、保護の必要な個人情報は含まれていない。

サンプルデータとマクロ需要のリニアリティ検証

 サンプルデータにはすべての来場が記録されているが、限られた少数ゴルフ練習場における実績である。そこで、このデータで需要全体を推定できるかを検証する必要がある。特定サービス産業動態調査・稼働1打席あたり利用者数の12か月合計推移と突合させた。〈グラフ3〉 ・2021年対2019年の増減率が近似している。サンプルデータにより需要全体を推理することは有意と考える [caption id="attachment_79721" align="aligncenter" width="1000"] グラフ2[/caption] [caption id="attachment_79723" align="aligncenter" width="1000"] グラフ3[/caption]

サンプルデータ基本集計結果

[caption id="attachment_79720" align="aligncenter" width="1000"] グラフ1[/caption] このデータを常識的に集計すると〈表1・グラフ1〉が得られる。 コロナ期の需要ピークである2021年を2019年と比較すると、 ・ ゴルフ需要増加率119% ・ 実動顧客数(ゴルフ人口)増加率120% ・ 活動率増加率変わらず ・ ゴルフ人口増加は25~29歳が中心(サンプルデータから確認〈グラフ3〉)  ゴルフ産業界の認識は、これら年間合計値のみを観察して、 ・ コロナ期のゴルフ需要急増は若者を中心とする新来ビギナーの急増である。  と結論したが、果たしてこれで今後のゴルフ市場活性化に必要な実態が十分に掴めているのだろうか?筆者はそこに疑問を覚える。  そもそもゴルフマクロ需要は「ゴルフ人口×活動率」によって決定される。需要変動は、 ・ ゴルフ人口の増減 ・ 活動率の増減  により発生し、たまたま合計値が増加しても、様々な理由によりゴルフを断念したり、休眠、回数減少を余儀なくされたゴルファーが常に存在する。そのため、合計値の増加に「隠れた減少要因」も把握しなければならない。

来場回数と安定・成熟ゴルファー

[caption id="attachment_79722" align="aligncenter" width="1000"] 表2[/caption]  筆者は、これまでの複数施設におけるカードシステム全来場記録分析から「年間12回以上来場する顧客の翌年継続来場率は80%以上で安定する(ゴルフを止めなくなる)」という法則を発見、紹介してきた。不安定ゴルファーが安定ゴルファーに進化することは、年間練習回数が増加することである。そこで筆者は、年間12回以上の来場顧客を「安定ゴルファー」、12回未満を「不安定ゴルファー」と定義した。その結果、すべての顧客にコロナ期4年間に、 ・ 来場なし ・ 不安定来場 ・ 安定来場 という、その年の来場状況「(ゴルフ熱)3種類の符号」が付与でき、そのサンプルデータを〈表3〉にまとめた。 さらに各顧客が2019年(コロナ前)から2021年(コロナピーク時)において、来場階層(ゴルフ熱状態)をどのように変化させたかが「2019・2021階層連結」に集約・表現される。来場回数の増減量も追加計算した。 [caption id="attachment_79724" align="aligncenter" width="1000"] 表3[/caption]

コロナ期ゴルフ需要増減要因明細

〈表3〉を「2019・2021階層連結」別に集計し〈表4・グラフ4〉を得た。これがコロナ期の需要増減要因最終明細である。 [caption id="attachment_79725" align="aligncenter" width="1000"] 表4[/caption] [caption id="attachment_79728" align="aligncenter" width="1000"] グラフ4[/caption] ① ゴルフ需要増加最大要因は休眠からの再開者 ② ゴルフ人口増加は若者 ③ コロナ期、ゴルフ行動減少ゴルファーも多く存在する 増加要因の年齢構成比較を〈グラフ5・6〉とした。

休眠ゴルファー対策の重要性

[caption id="attachment_79726" align="aligncenter" width="1000"] グラフ5[/caption] [caption id="attachment_79727" align="aligncenter" width="1000"] グラフ6[/caption] コロナは余暇時間の急増により休眠ゴルファーのゴルフ熱を刺激したのである。休眠ゴルファーは常に発生している。サンプルデータの5万8840人は、4年間一度でもゴルフ練習場を利用した合計人数であり、ゴルフ界がゴルフ人口と定義する「過去1年間にゴルフ場、ゴルフ練習場を1回以上利用した総人数」は、サンプルデータの各年実動顧客数と同義である。とすれば休眠人口を含めた広義ゴルフ人口は倍増する。そもそも休眠させないことを含め、休眠ゴルファー対策の重要性をゴルフ界は深く認識しなければならない。なぜなら、未経験者をゴルファーにするよりも、休眠ゴルファーの再開を促す方が、市場活性化において遥かに効果的だと考えるからだ。

練習場データの死角

練習場カードシステムのゴルフ場来場記録は、ゴルフ用品POSデータ等も及ばない有用性があるとご理解頂けたと考える。しかし一方で、 ・ 複数のゴルフ練習場を並行利用する需要が漏れている ・ ゴルフコースラウンド行動が漏れている という欠陥を有する。複数施設の並行利用は、対象施設が多くなれば無視できるであろう。将来的には多数の施設データの統合を期待したい。 次号では「ゴルフ産業需要変動モデル」を想定し、需要変動指標として観測必要な項目を検討する。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年12月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら