Q1 ゴルフ界は、気候変動対策のリーダーになれる!
先頃、地球温暖化対策を検討する「第28回国連気候変動枠組条約締約国会議」(COP28)がドバイで開催されました。世界の平均気温が観測史上最高となった7月、グテーレス国連事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が来た」として危機感を露わにすると共に、9月の「気候野心サミット」では「温暖化で世界の危機と不安定さが増す中で、我々の行動は全く足りていない」と発言しています。
そこで、ゴルフ界の気候変動問題への対応を振り返り、今後の展望について、大石さんのお考えを教えてください。
A1 ご質問、ありがとうございます。2015年に国連総会で採択された「SDGs」が、2030年まで残すところ7年となったにも関らず、課題解決が遅々として進まないと感じているのは私だけでしょうか。
地球温暖化については、2021年8月に「IPCC」(国連の気候変動に関する政府間パネル)の第一作業部会が、産業革命以降の世界の平均気温の上昇が今後20年以内に1・5度に達するとの科学的予測を盛り込んだ報告書を発表し、「人間の活動が地球温暖化を引き起こしていることは疑う余地はない」と断定して、30年以上続いた論争に決着を付けました。世界の気温が1・5度上昇すると、グリーンランドの氷河や北極圏の氷などが解け、世界の平均海面水位が今世紀末に最大55㎝上昇する可能性があるようです。
端緒は「京都議定書」から!
ゴルフ界の気候変動対策の端緒は、「京都議定書」が実行段階に入った2008年でした。縣和一九州大学名誉教授の「大気と浄化と温暖化防止に寄与するゴルフ場」という研究発表により、ゴルフ場の温室効果ガス抑制機能が明確になりました。その後の研究も加わり、ゴルフ場の機能として「緑地としての二酸化炭素固定」「不耕起管理による土壌炭素の貯留」「里地里山としての生物多様性保全」が認知されるようになり、「ゴルフ普及によりゴルフ場の持続可能性が高まること」は、地球規模の環境問題の解決に貢献することが明確になっています。
特に、2015年のCOP21で採択された気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」、並びに、国連サミットで2030年を達成年とした「誰一人取り残さない」との強い決意のもとに制定された「SDGs」(将来の世代が必要とするものを損なうことなく、現代の世代の欲求を満足させる開発)により、世界の気候変動への取り組みが加速しました。
また、世界保健機関(WHO)は「スポーツ・アクティブなレクリエーションなどの身体活動はSDGsの達成に寄与する」としています。
ゴルフ場は、異常気象による直接的な被害に加え、気温上昇などによるコースコンディションの劣化、熱中症の危険など、年々増大する課題に直面しています。
2018年の「G20大阪サミット」における「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を受け、「ゴルフ界も廃プラ削減に取り組もう!」を宣言、2021年の「プラスチック資源循環促進法」により、プラスチック製品の削減を促進しています。
「4パーミル・イニシアティブ」とゴルフ場の「土壌炭素貯留機能」
2023年、公益財団法人都市緑化機構が実施した「首都圏のゴルフ場芝地における土壌炭素蓄積量に関する研究」により、「ゴルフ場の芝地には、海外の研究事例と同様に二酸化炭素の吸収源として高いポテンシャルがある」ことが、明確になりました。これは日本ゴルフ場経営者協会も協力して、国連気候変動枠組条約事務局に提出する「国別温室効果ガスインベントリ報告書」の精度向上のために実施したものです。
ゴルフコースは「不耕起」により管理されます。これにより土壌中の有機物の分解速度が穏やかになり、一部が分解されにくい有機態炭素となって長期間土壌中に貯留されます。「不耕起」によって土壌炭素の貯留量を増加する国際的運動が、COP21でフランスが提唱した「4パーミル・イニシアティブ」です。
人間の経済活動によって二酸化炭素が年間約100億トン排出されており、樹木などが吸収する57億トンを差引くと43億トンが純増しているとのこと。土中炭素は、1兆5000億~2兆トンで、そのうち表層の30~40cmに約9000億トンあるとされています。この表層の炭素を年間0・4%増やせれば43億トンの大半を帳消しにできる。これが「4パーミル・イニシアティブ」です。
「サーティ・バイ・サーティ」
社会・経済全体は、過去50 年間に 「自然環境」から得られる「生態系サ ービス」に依存して豊かになったが、 回復力を超えた利用によって「生態 系サービス」は劣化傾向にあります。 その「生態系サービス」を持続させ るために、地球規模で生じている生 物多様性の喪失を止め、回復軌道に 乗せる「ネイチャーポジティブ」に 向けた行動が喫緊の課題だとして、 2022年「国連生物多様性条約第 15 回締約国会議」(COP 15 )で採択 されたのが、2030年までに陸域 と海域の 30 %以上を健全な生態系として保全を目指す「サーティ・バイ・サーティ」です。
我が国は、従来からの国立公園などの保護地域の拡張に加え、民間の取り組みなどによって生物多様性の保全が図られている区域を「自然共生サイト」として認定することで、この目標を達成する方針としました。この「自然共生サイト」に、ゴルフ場が「里地里山といった二次的自然環境に特有な生物相・生態系が存する場」として認証されれば、生物多様性の喪失という地球規模の課題解決に積極的に取り組む産業として評価される可能性があります。
「負の外部性」への対応は
環境問題のような「負の外部性」 (ある経済主体の活動が、その活動と は直接関係ない他の主体や社会に損 害や費用を発生させる)は、個人や 個別企業の活動だけでは限界があり ます。COP 28 では「損失と損害(ロ ス&ダメージ)」に対応する国際的な 支援基金の拠出について議論が行わ れました。合わせて我が国では「カ ーボンプライシング」による「排出 量取引市場」の形成が進められよう としています。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年1月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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