2024年は春から高温傾向の見込み
気象庁が2024年1月23日に発表した3か月予報によれば、2024年2月~4月の気温は、寒気の影響が弱いため、北日本では「平年並か高い」、東日本と西日本では「高い」とされている。気象庁のホームページでは、その確率を図示しているが、2024年の春は例年よりも高温傾向と予測されている(図1)。
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図1[/caption]
また、日本気象協会からは、この高温の春の影響により、例年よりも早く夏物アイテムの需要が増加する見通しであることも示されている。
3月から熱中症への備えが必要
日本において昨夏(2023年の夏)の気温は1898年から統計開始以来過去最高を記録した(気象庁、2023)。国連の世界気象機関(WMO)は、地球全体の気温が今後5年で1.5℃以上上昇する確率が史上初めて50%を突破したことを発表するなど、気温上昇は今後深刻になることが予想されている。近年の例では、2019年5月26日に北海道佐呂間地区で道内観測史上1位となる39.5度の気温を記録し、同日に道内のゴルフ場での死亡事故も発生するなど、地域や時期を問わず、熱中症への注意が必要な状況となっている。
2018年に、日本において「気候変動適応法」が施行されているが、熱中症対策の強化のため2023年(令和5年)の第211回国会において「気候変動適応法及び独立行政法人環境再生保全機構法の一部を改正する法律(令和5年法律第23号)」が可決・成立し、同年5月12日に公布されている。そして、この法律は来月(2024年4月1日)施行されることになっている。
「改正気候変動適応法(2024年4月1日施行)」のポイント:ゴルフ業界も早急に追随を
国立環境研究所によれば、今回の気候変動適応法の改正ポイントとして、下記の4項目を挙げている。
1)従来の熱中症対策行動計画を「熱中症対策実行計画」として法定の閣議決定計画の格上げ
2)熱中症アラートを熱中症警戒情報として法に位置付け、さらにより深刻な健康被害が発生し得る場合に備え、熱中症特別警戒情報を創設
3)指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)として指定(市町村長が冷房施設を有する等の要件を満たす施設)
4)市町村長が熱中症対策の普及啓発等に取り組む民間団体等を熱中症対策普及団体として指定
このように、今回の法律改正自体が、ゴルフ場運営に直接的に影響を及ぼすものではないかもしれないが、法律やガイドラインなどでしっかりと国民の健康・安全を確保するための動きが、今後さらに加速し高度化して行くことが予想される。屋外での活動が4時間を超えるゴルフにおいて、業界を挙げた対応策が早急に示されるべきではないか。ゴルファーのみならず、キャディやコース管理従事者など、ゴルフ場で働く従業員に対する対策も急がれる。
唇や指先は熱さを感じやすい
カナダの脳神経外科医であったワイルダー・G・ペンフィールド(Penfield,1891-1976)は、1933年に運動野や体性感覚野と身体部位との対応関係をまとめ、有名な「ホムンクルス」(脳の中のこびと)と呼ばれる図を作った。この図は、顔、舌、親指が大きく描かれ、大脳の運動野や体性感覚野に体の部位を対応させて示されている。これは、ペンフィールドが、てんかんの手術の際に脳を電気刺激し、反応があった領域の面積に応じて体の各部分を大きく描いたものであるとされている。
詳細な図については「ペンフィールドのホムンクルス」でネット検索して頂きたいが、体性感覚野にいる小人の顔は唇が分厚い。これはつまり、唇の感覚を担当している領域が広い、すなわちたくさんの神経細胞が唇からの感覚情報を受け取っており、そのために唇が敏感になっていることを表している。また、指の中でもとくに人差し指が大きく描かれているのも、人差し指の感覚が敏感なことを示している。
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図2.ホムンクルス像(所蔵:武蔵野美術大学身体運動文化研究室)[/caption]
図2は、武蔵野美術大学に所蔵されるホムンクルス像である。右の像が感覚野を示す。
つもりと実際:カートで休息のつもりが尻から熱せられている
ゴルフをする人なら、近年の夏のプレーにおいて、バッグからドライバーを抜き取ろうとした際に「熱っ!」となった経験が1度はあるだろう。特に黒ヘッドのドライバーの場合は、それを感じやすいし、近年の猛暑においてはその場面は確実に増えている。熱い思いをしないように、ティーショットの際に慎重にクラブを抜いている人もいるかもしれないが、前述のように、指先は特に熱さを感じやすい器官でもある。
実は、ゴルフ場で最も熱くなるのは「カートの座席」である。2023年7月に実施した筆者らの実験(鈴木タケルら,2023)では、乗用カートの座面は70℃を越えており、ドライバーヘッドの温度(約60℃)よりも約10度も高温になっていた。
しかしながら、尻や腿裏は指先よりも熱さを感じ難いため、大半の人はショットを終えて、熱さ(暑さ)を気にせず、どっかりと着席し休息している「つもり」になっているかもしれない。しかしながら、「実際」には尻から身体が熱せられている可能性も大いにあり、座面の熱で体温を上昇させ、体力を消耗させてしまい逆効果になっているかもしれない。
プレー時間270分(4時間30分)のうち、実際に打っているのは2-3分である。夏場のプレーでは、日射を遮るために、カートに座っている時間も長くなっていることが考えられる。「休息が逆効果にならないための対策案」などについては、次号以降の連載でも提案して行きたい。
5月からの猛暑下ゴルフに備え、3月~4月は真夏の暑さ対策の作戦を練りながらラウンドを楽しんではどうか。
【参考文献】
・ 気象庁ホームページ:
https://www.data.jma.go.jp/cpd/longfcst/kaisetsu/?term=P3M(2024年2月14日確認)
・ 日本気象協会ホームページ:
https://weather-jwa.jp/news/topics/post1840(2024年2月14日確認)
・ 国立研究開発法人国立環境研究所(A-PLAT):
https://adaptation-platform.nies.go.jp/climate_change_adapt/heatstroke/hs-government/index.html( 2024年2月14日)
・ 鈴木タケル、北 徹朗ほか(2023)猛暑日におけるゴルフ場内各場所やゴルフ用具の表面温度変化についての実態調査、ゴルフの科学Vol.36,No.1,pp.40-41
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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