「茶屋」+「クーリングエリア」で猛暑プレーを乗り切る
前号において、夏用コースマッピングを作成し【WBGT上昇ポイント】、【カート利用推奨ホール】、【クーリングエリア】などを示すことを提案した。本稿ではクーリングエリア(以下CA)について詳しく説明・提案したい。
一般的に、コース内売店(いわゆる茶店)は、5番ホール前後や14番ホール前後など、ハーフの半ばあたりに設置されていることが多い。ここに入るとエアコンが効いており、冷たいおしぼりを提供してくれたりするが、茶屋が無いゴルフ場もある。
今後の猛暑に備え、3ホールに1カ所程度のCAの設置を提案したい。具体的には、大型扇風機を配置し「1分間必ず風を浴びて下さい」との呼びかけのもと、各自でクーリングしてもらうと言うものである。
3ホールに1カ所の割合でCAがあれば、表1の様に定期的な暑熱低減が可能となる。ゴルフ場側は、CAでの4分間のタイムラグ(1分×4名)を考慮し、スタート間隔を調整する必要がある。また、クラブハウス前では大型扇風機を2台配置すれば、「スタート前クーリング」と「ホールアウト後クーリング」の両方に対応できる。
大型扇風機のサイズとクーリングの方法
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図1.授業用の大型扇風機[/caption]
筆者が所属する武蔵野美術大学では、2024年度より独自の「暑熱下授業ガイドライン」を制定し、スポーツ実技授業での運用を試みている。授業においても本稿で提言するCAを設置し、学生に風を浴びさせることを義務付ける。
本学で使用する大型扇風機のサイズは、幅1390mm×奥行540mm×高さ1320mmであり、図1のような大きさとなっている。
大型扇風機にはマグネット式のデジタルタイマー(キッチンタイマー)を付属し、ガイドラインに従い「1メートル程度の近距離で1分間風を浴びる」ことでのクーリングを促す(図2)。
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図2.大型扇風機の中央にデジタルタイマーを設置し1分程度のクーリングを行う[/caption]
冷たい風を強力に送るためのアイデアと検証実験
猛暑下では“熱風”が送られる懸念もあるため、2024年度の新年度開始にあたり、大型扇風機から送られる風の温度を検証した。送風の効果を高めるために、ペットボトルを凍らせ、扇風機の後側または前側に設置した際の温度の違いを観察した。
〈実験日時〉
・2024年4月7日、10時30分~10時40分
〈実験場所〉
・武蔵野美術大学グラウンド(東京都小平市)
〈実験時の環境〉
・気温24.3℃、WBGT21.3℃
〈実験の内容〉
1)送風なし
2)大型扇風機で風だけを1分間送風
3)大型扇風機の後側に凍らせたボトルを装備し1分間送風
4)大型扇風機の前側に凍らせたボトルを装備し1分間送風
〈実験の結果〉
結果としては「大型扇風機の前側に凍らせたボトルを装備」した送風方法が最も「冷風」となり、送風なしの場合と比較すると5.4℃低かった(表2)。
実験当日は、4月初旬の穏やかな日ではあったが、氷を前面に装着した風は体感的にもとてもクールに感じた。猛暑下においても検証が必要だが、凍らせたペットボトルを大型扇風機前面に付属させる方法は、おそらく顕著な低温効果が観察されるのではないかと期待される。
〈今後の検証〉
猛暑下でのラウンドプレー中にCAを利用した場合、着衣内温湿度がどの程度低減し、どの程度の時間経過で上昇に転じて行くかについて今夏検証する予定である。また、CAの効果を高める着衣の形状についても研究を進めてきたので同じく効果検証する。
得られたデータについては、この連載内でフィードバックしさらに精度の高い提言を示したい。
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図3.カゴとフックを利用して大型扇風機に凍らせたペットボトルを装着[/caption]
クーリングエリア設置・稼働のコスト
本稿で示した大型扇風機は、1台あたりの定価が13万6400円(税込)となっている。表1で示したように8台導入した場合、総額109万1200円となる。また、販売会社のホームページでは、1時間の連続稼働時の電気代は、約17.2円(50Hz)~約25.6円(60Hz)とされている。
凍らせたペットボトルを入れるバスケットは1個1580円であり1台に4個装着する(6320円)。これを8台分準備すると総額5万560円となる。ペットボトルは凍らせる必要があるが再利用すればコストをかけずに済む。
このように、初期費用は114万円少々かかるが、毎年5月~10月頃まで突発的な猛暑に備える必要があることを考慮すると、カートの改造や高額な冷風機を導入するよりも格安な対策ではないか。
以前の連載でも述べたが、クラブハウス前にだけ、扇風機やミストシャワーがあるゴルフ場を幾つも目にするが、ゴルフの熱中症対策としては殆ど効果が無いだろう。
※本稿の詳細は「大学体育123号」(公益社団法人全国大学体育連合、2024年6月15日発行)に掲載予定である。
・北 徹朗(2024)急がれるゴルフ業界を挙げた暑熱対策、GMACセミナー2024配布資料
・北 徹朗(2024)急がれるゴルフ業界を挙げた暑熱対策、月刊ゴルフエコノミックワールド(2024年3月号)
・北 徹朗(2024)ゴルフ場マネジメントにおける暑熱対策の具体例(1)―コストをかけずに今すぐできること編―、月刊ゴルフエコノミックワールド(2024年4月号)
・北 徹朗(2024)猛暑下における体育実技授業のガイドライン―武蔵野美術大学での試み―、大学体育123号(印刷中)
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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