ゴルフ場マネジメントにおける暑熱対策の具体例(3)―手掌冷却できるパターグリップ 開発提案―

ゴルフ場マネジメントにおける暑熱対策の具体例(3)―手掌冷却できるパターグリップ 開発提案―

手のひらを冷やすと深部体温を効率的に下げる

[caption id="attachment_81579" align="aligncenter" width="788"] 図1.手掌前腕冷却(参考文献1より)[/caption] 身体の体温、特に深部体温を下げる効果的な方法として、手掌冷却あるいは手掌前腕冷却という方法が注目されている。これは、手のひら、あるいは、手のひらと前腕を冷水に浸けて、身体外部から冷却をしていく方法だが、手のひらには、動脈と静脈が直接連絡している特殊な血管(動静脈吻合血管:どうじょうみゃくふんごう)が存在する。動静脈吻合血管は、通常の血管より多くの血液が通過するため、手掌冷却または手掌前腕冷却を行うことで、冷却された血液が深部に戻り身体が冷却される。手のひらと前腕は、体幹部に比べて容積に対する表面積の比が大きく、熱を身体の外へ逃がしやすい構造となっている(図1)。

12℃での30分前プレクーリングが効果的

[caption id="attachment_81581" align="aligncenter" width="788"] 図2.プレクーリングによる深部体温上昇抑制効果(参考文献2より)[/caption] 環境省近畿地方環境事務所が公開している資料によれば、手掌冷却の最適温は12℃とされる。また、図2のように、活動30分前のプレクーリングが深部体温の上昇を顕著に抑制することも示されている。

武蔵野美術大学のゴルフ授業でのプレクーリング方法

武蔵野美術大学身体運動文化研究室では、2024年度から新たに定めた「暑熱下授業ガイドライン」に基づき、スポーツ実技授業に際しては、プレクーリングのためのプラスチックボトル(300ml)を準備し猛暑に備えている。具体的な使用方法としては、水を入れて冷蔵庫で冷やし、授業開始時の出席確認や導入の説明時などに学生に握らせてプレクーリングを促すことになっている。 ボトルを冷蔵庫で冷やすと約9℃となる。これをグラウンドやテニスコートなどの教場に運び、学生に握らせる経過の中で、エビデンスとされる温度(12℃)前後の最適温度になるのではないかと考えている。日々、このボトルは使い回されるため、キャップの色は黒を用い、汚れが目立たない製品を準備した(図3)。 [caption id="attachment_81582" align="aligncenter" width="788"] 図3.手掌冷却(プレクーリング)用のボトル(参考文献3より)[/caption]

ゴルフ場でスタート30分前にやっていることは何か?

ゴルフ場でスタート30分前にやっていることと言えば、多くはパッティンググリーンでの最終調整ではないか。そこで、『パッティング練習をしつつ手掌冷却もできる』アイテムが切望されるわけだが、現状、各メーカーからは「冷感グローブ」ならば既に販売されている(図4)。 単純に、これを改良して『12℃に保てる(手掌冷却できる)ゴルフグローブ』が開発できないものかとも思われるが、手掌冷却を主眼に置いた場合、両手袋が必要となるためコストが倍になることや、暑い中で両手に手袋をする煩わしさもネックとなることが考えられる。 [caption id="attachment_81577" align="aligncenter" width="1000"] 図4.
各社から販売中の冷感グローブ(GDOのサイトより)[/caption]

「パターは素手派」が多い?

また、パッティングの際に手袋を外す人が多い印象があるが、実際のところはどうなのか。 ALBA.Net編集部(2020)の566名を対象とした調査によれば、パッティング時に手袋を「外す46.0%」、「外さない46.0%」で同数だったとしている。意外にも手袋をつけたままパッティングをする人が多いようだが、それにしても半数は外しているので、これらを考慮したアイデアが求められる。

ゴム系メーカーが支える日本のゴルフ用品業界:「冷えるグリップ」開発への期待

モノの多くは温めると膨張し冷やすと縮むが、ゴムは逆(温めると縮み、冷やすと伸びる)であることが知られている。例えば、東北大学の研究グループが2023年1月に発表した論文では、ゴムが伸び縮みする際に熱を発したり吸収したりする現象を使って、効率的に冷却する技術が開発されたりしている。 日本のゴルフメーカーを代表する、ブリヂストン、ダンロップ(住友ゴム)、プロギア(横浜ゴム)などの企業は、タイヤを作る技術をゴルフボールやゴルフクラブの製造に応用したところから始まったことはよく知られている。現状、グリップ性の高いものや抗菌グリップなどのアイデア商品は存在するが、ゴムの特徴を応用した「冷えるグリップ」が開発できないものか。国内のゴム系メーカーにおける暑さ対策製品の研究開発に期待したい。 ※ 本稿の詳細は「大学体育123号」(公益社団法人全国大学体育連合、2024年6月15日発行)に掲載予定である。 1) 日本スポーツ振興センター(2020)競技者のための暑熱対策ガイドブック【実践編】、https://www.jpnsport.go.jp/jiss/Portals/0/jigyou/pdf/shonetsu2.pdf(2024年5月16日確認) 2) 環境省近畿地方環境事務所(2021)「新しい暑熱対策」―適温12℃の蓄冷材による手掌部冷却(シャープ株式会社資料)、https://kinki.env.go.jp/earth/(2024年5月16日確認) 3) 北 徹朗(2024)猛暑下における体育実技授業のガイドライン―武蔵野美術大学での試み―、大学体育123号(印刷中) 4) ALBA.Net編集部(2020)ゴルファーに聞いたパッティング時の手袋事情 予想以上に「つける人」は多かった!、https://www.alba.co.jp/articles/category/golf-life/post/column-16631/(2024年5月16日確認) 5) Gael Sebald et al.(2023)High-performance polymer-based regenerative elastocaloric cooler, Applied Thermal Engineering, Volume 223, 25, March 2023 6) 東北大学(2023)プレスリリース・研究成果:ゴム伸縮時の弾性熱量効果を利用した冷却機構の高効率化に成功 フロンを代替する環境にやさしい空調の実現に期待、https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2023/01/press20230124-02-cooler.html(2024年5月16日確認)
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年6月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら