歌謡曲でみるゴルフの大衆化―近年急増する「ゴルフ」を歌う楽曲― 武蔵野美術大学教授 北徹朗

歌謡曲でみるゴルフの大衆化―近年急増する「ゴルフ」を歌う楽曲― 武蔵野美術大学教授 北徹朗
1901年7月に六甲山頂に4ホールのコースが作られて以降、その後の約100年間において国内には2400カ所を超える凄まじい数のゴルフ場が建設された。 だが、1990年代初頭には日本のゴルフ人口はピークアウトしており、1999年にはゴルフサミット会議が「ゴルフをみんなのスポーツへ」をスローガンに掲げ、「ゴルフをより大衆化させる」ことの必要性がこの当時叫ばれ始めている。 歌謡曲の歌詞にはその時代の世相が反映されていると言われることがあるが、この間「ゴルフ」を歌う楽曲はどんな風に歌われ、どのくらいの楽曲がリリースされてきたのだろうか。本号では「ゴルフ」を歌詞に含む楽曲の調査を試みたので、調査結果の特徴を紹介したい。

ゴルフを歌った最古の楽曲は「麗人の唄」(1930年,河原喜久恵)

今回の調査において「ゴルフ」を歌詞に含む日本最古の楽曲であろうと思われたのが、1930年5月にコロムビアレコードより発売された「麗人の唄」(歌・河原喜久恵、作詞・サトウハチロー、作曲・堀内敬三)である。 この曲がリリースされる少し前の時代(1920年代)には、新宿御苑内に皇室専用コースが作られ、この曲がリリースされた年の4月には有馬GCと室蘭GC、8月には別府GC、10月には我孫子GC、11月には藤澤CCが設立されている。そして、翌1931年にはゴルフコース設計者のアリソンが東京GC、広野GCなどの設計を手がけるなど、この時代は日本におけるゴルフ場建設の黎明期であった(JGA,2001)。 だが、この楽曲の発表後の約30年間、ゴルフを取り上げた楽曲はリリースされていない。

1960年代~1980年代の30年で「ゴルフ」を歌ったものは8曲

1960年からの約30年間では8曲がリリースされていた。この時代に「ゴルフ」を歌っていたアーティストは、石原裕次郎、植木等、小林旭、チューリップ、BOØWY、ハナ肇とクレイジーキャッツ、関敬六、などである。 表1は各年代から1曲ずつ「ゴルフ」が含まれる歌詞部分を抜粋したものである。この当時の「ゴルフへのあこがれ」、「つきあいゴルフ」など、時代の様相が歌詞から何となく垣間見える。全てYouTubeで視聴可能なので、是非聞いてみて頂きたい。

1990年代~2010年代は112曲に急増:中でも「ゴルフ」の楽曲を最も多く手がけたのは吉幾三

1990年代~2010年代の30年間には112曲もの「ゴルフ」が歌われていた。誌面に限りがあるため、全ての情報は紹介できないが、日本人なら誰でも知っているような有名アーティストの楽曲にもゴルフが多く取り上げられている。例えば、長渕剛、THE BOOM、槙原敬之、B'z、ユニコーン、NOKKO、広瀬香美、水木一郎、Mr.チルドレン、吉幾三、井上陽水、クレイジーケンバンド、せんだみつお、秋川雅史、RAG FAIR、和田アキ子、藤木直人、あやまんJAPAN、矢島美容室、ケツメイシ、電気グルーヴ、さだまさし、はなわ、等々、多くのアーティストが楽曲をリリースしている。 なお、全ての年代を通して「ゴルフ」を含む歌詞の楽曲が最も多かったのが吉幾三(5曲)であった。具体的には、「これが本当のゴルフだ!」(1999年)、「その後の…お・じ・さ・ん」(2002年)、「お・じ・さ・ん」(2004年)、「うちのかみさん」(2016年)、「これが本当のゴルフだ!! パート2」(2012年)の5曲で、作詞・作曲は全て吉幾三であった。

「ゴルフ人口」と「ゴルフ楽曲数」は反比例の関係

日本の歌謡曲において「ゴルフ」を歌詞に含む楽曲数の推移を図1に示した。いわゆるゴルフ人口がピークに達したのが1992年とされているが、「ゴルフ」を歌詞に含む楽曲は1990年代から急激な右肩上がりを続けており、反比例のような関係性になっている。 近年、ポピュラーな楽曲内でゴルフが多く歌われるようになっているということは、「一部の人の娯楽だった時代」から「大衆化」が進んでいる、とも読み取れないだろうか。なお、この図には含まれていないが、2020年代においては「ゴルフ」を含む楽曲が13曲(2023年現在)リリースされている。 [caption id="attachment_84538" align="aligncenter" width="926"] 図1.日本の歌謡曲において「ゴルフ」を歌詞に含む楽曲数の推移
   (武蔵野美術大学教授・北 徹朗,2024年12月調査による)[/caption] 参考文献 1) JGA日本ゴルフ協会(2001)特集ゴルフ場の100年,https://www.jga.or.jp/jga/html/about_jga/vol65/1p.html(2024年12月13日確認)