2023年の賃上げ率は3.6%と、30年ぶりの高水準でしたが、物価上昇には追いつかず、実質的な伸びはマイナスの状態が続いています。政府は、緩やかな価格上昇の下に、それを上回る賃上げを実現して経済成長を目指すと叫んでいますが、雇用の7割を占める中小企業では、原材料費や人件費の上昇を4割しか価格転嫁できていません。
そのため、大企業側が原材料費などの上昇分の価格転嫁を認めない場合は、書面による回答を行うよう指導をしています。また、賃上げについては、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を策定して指導しています。
このような状況において、経団連は2024年度の経営側の春闘方針として「物価上昇が続くなか構造的な賃金引上げに貢献することが社会的責務」とし、「中小企業の値上げと賃上げは極めて重要なため、価格転嫁や価格上昇に対するネガティブな意識を社会全体で変革する必要がある」と発表しています。「値上げは悪」という意識の払拭です。
総務省の調査によれば、「モノの値上げ」はある程度実施されていますが、「サービスの値上げ」は遅れているとか。その理由は、原材料価格の上昇や円安による輸入コストの増大など「モノの値上げ」は理解が得やすいが、「サービスの値上げ」は節約志向が定着する中で理解が得にくいとされています。
雇用者の4分の3がサービス業など第3次産業に就労している現在、「サービスの値上げが進まないと多くの人の賃上げが低迷し、物価だけが上がることでサービス業における質・量の低下につながる恐れがある」と危惧されています。
さて、バブル経済崩壊後のゴルフ場のプレー料金表示は、デフレ経済下での生き残りをかけた値段競争により、「プレー料金」に飲食費やゴルフ場利用税・消費税まで含んだ「定額表示」が主流となりました。加えて、値引きの理由を明確にすることなく、周辺ゴルフ場との価格比較で改定が行われました。
プレー料金の値下げはゴルファーにとってありがたいので、誰も文句を言いません。ところが、値上げはそうはいきません。値上げの理由を明確に説明しなければ、理解を得ることは困難です。
「モノの値上げ」には、原因とそれを解消する施策や売り上げ増進策を丁寧に説明すれば、比較的理解を得やすいと思います。しかし「サービスの値上げ」は主観的な要素が加わるため、顧客満足度を高めなければ納得を得にくい。顧客満足度を高めるためには、企業のパーパス決定に従業員を参画させ、帰属意識の高い従業員を育成し、従業員満足度を高めることでサービスの質向上を図る必要があります。
最近、「キャディーフィを値上げするゴルフ場が増加」と題し、「4バッグ1万7600円のキャディーフィは一日の賃金としては高額過ぎる」との内容のネット記事がアップされましたが、筆者はこの記事に違和感を覚えます。プレーヤーが払うキャディーフィには、法定福利費やユニフォーム代・通勤交通費などの雇用コスト・賞与や退職金の財源なども含まれるため、当人に全額支払うわけではなく、「7割程度」と考えるのが妥当でしょう。
また、厚生労働省の「2023年賃金構造基本統計」の一般労働者の平均賃金約1万5100円(1日当たりに換算)と比べても、決して高額とは言えません。良いインフレを促すためには、コスト構造をきちんと説明して、プレーヤーと共有する姿勢が大事だと思います。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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