猛暑下の「シャツ出しプレー」は着衣内温度を下げない -40℃越えの鳩山町のゴルフ場での検証- 武蔵野美術大学教授 北徹朗

猛暑下の「シャツ出しプレー」は着衣内温度を下げない -40℃越えの鳩山町のゴルフ場での検証- 武蔵野美術大学教授 北徹朗

2019年にファン付ウエア市場が拡大し、東京五輪ではキャディ2名がダウン、2023年にはJGAが文書を公表

近年の猛暑は年々厳しさを増しているが、この傾向は2019年頃から顕著になりだした。例えば、2019年5月26日には北海道で観測史上最高の39.5度を記録し、道内ゴルフ場で男性(36歳)が熱中症の疑いで死亡しているが、北海道の5月の気候において熱中症死亡事故が発生したことには当時大きな衝撃を与えた。急激な暑熱環境の変化から、この年を境にファン付きウエア市場が急拡大している。 2021年7月に猛暑の中で開催された2020東京五輪ゴルフ競技(於:霞ヶ関CC)では、キャディ2名が熱中症でダウンしたことが報じられるなど、屋外で長時間に渡るゴルフの暑さ対策・安全対策の必要性について、様々検討されるようになっていった。 こうした経過を経て、JGA日本ゴルフ協会は、2023年7月25日に『真夏のゴルフを楽しむ皆さんへ』を発表した。この文書には、プレー前、プレー中、プレー後の対策のほか、準備するアイテム例なども示されている。この文書の公表後、一部のメディアが「JGAがシャツ出しを推奨」などと報じたことから、会員からの問い合わせに戸惑うゴルフ場も多いと聞く。 ただ、JGAが出した実際の文書(プレー中の対策)には、【ゴルフ場のドレスコードで認められているのであれば、短パン(男性)、スカート・キュロット(女性)の着用、またプレー中にシャツを外に出すことで体温の上昇が抑えられると考えられます。プレーするゴルフ場に確認の上、実践してください】とされており、JGAからゴルフ場への“お達し”ではなく、あくまでも暑熱対策の“参考”のメッセージであることがわかる。

実験検証により「本当にシャツ出しプレーが涼しいのか?」を問う

観測史上最高を毎年更新する状況下が続く中、2024年4月1日には「改正気候変動適応法」が施行され、2025年6月1日からは「労働安全衛生規則」が改正され従業員の熱中症対策を怠った企業は罰則の対象となる法律の改正があった。こうした動きもあり、猛暑下ラウンドにおいては「シャツ出しをするべき」と言う潮流が強くなっている印象を受ける。 しかしながら、「シャツ出しが涼しい」ことを示すエビデンス(学術研究)は実は存在しない。この話の起源と思われる資料は、実験環境や条件設定が不明瞭な記事であり、それを根拠にシャツ出し推奨が言われていると推測されることや、そもそもゴルフ場での収集データが全く存在していなかった。 そこで、筆者らは、8月の猛暑下のゴルフプレーにおいて「シャツイン群」と「シャツアウト群」の着衣内温度データを収集し、どちらが涼しいのかを検証することを試みた。

日本観測史上歴代2位の猛暑下での検証(埼玉県鳩山町のゴルフ場)

[実験環境] 2025年8月5日に埼玉県鳩山町のゴルフ場で実施した。実験開始時の環境は、WBGT32.9℃、気温37.4℃、湿度62.7%、風速0.18m/sであり、実験終了時の環境はWBGT34.2℃、気温42.8℃、湿度33.1%、風速0.51m/sであった。(気象庁によれば、実験当日、群馬県・伊勢崎で日本の歴代最高気温41.8℃を記録し、鳩山町はそれに次ぐ歴代2位の最高気温(41.4℃)であった。) [データ収集] 被験者には同じ規格の白ポロシャツ(ポリエステル製)を着用させ、温度センサーを前胸部に着用した。データは10秒間隔でデータロガーに収集した。被験者の健康を考慮し、前半9ホール(9時16分スタート)のデータのみを採用した。 [被検者] 健康な男性ゴルフ愛好者8名であった。実験にあたり主旨とデータの扱いについて文書と口頭で説明した。また、実験中に疑義や体調不良を感じた際には途中で実験を中止できること等を説明し被検者の同意の上で実施した。被検者をそれぞれ、シャツイン群4名(被験者A,B,C,D)、シャツアウト群4名(被験者E,F,G,H)とした(表1)。

猛暑下(40℃越えの酷暑日)ではシャツを出しても着衣内気候は変わらない

データを分析したところ、被験者1名(被験者H)の記録が、機器の不具合により全てのデータが収集できていなかったため、7名(被験者A,B,C,D,E,F,G)を分析対象とした。また、熱中症警戒アラートが発出される猛暑日であったため、被験者の健康を考慮し、前半9ホールのデータのみを採用した。プレー中の着衣内平均温度を比較したところ、両者ともに32.9℃であり、温度には違いが見られなかった(図1)。 [caption id="attachment_91930" align="aligncenter" width="584"]図1.暑熱環境下でのゴルフラウンド中における着衣内温度平均値[/caption] また、被験者別の着衣内温度推移(30分おき)を見ると、概ね31℃~35℃程度の範囲内で推移していた(図2)。 10時30分頃から外気温が急激に上昇したが、インとアウトで特異的な相違は見られなかった。 [caption id="attachment_91928" align="aligncenter" width="874"] 図2.気温と被検者別着衣内温度[/caption]

シャツ出し“プラスアルファ”で効果が高まる可能性

今回の実験環境(気温37.4℃~42.8℃、湿度62.7%~33.1%)におけるラウンドプレーでは「単にシャツを出しただけでは着衣内温度は低下しない」と言う結果となった。 しかしながら、例えば、6月頃の高温多湿の環境下の場合や、外気温35℃程度で推移した場合など、条件によっては着衣内温度に差が見られるのかどうかは未だ不明である。 また、着衣をパタパタと扇いだり、大型扇風機などを用いて意図的に着衣内に風を起こした場合には、着衣内気候(着衣内温湿度)に違いが生じる可能性がある。こうした場合には「シャツ出しの有用性」が考えられる可能性がある。 このように、 <①シャツ出し+人工的な風 ②シャツ出し+プレー中の所作> などの、猛暑下において着衣内温湿度を下げるためには「単なるシャツ出しプレー」のみではなく、シャツ出しに「何か」を加える必要がある。どんな方法やプレー中の所作の有用性が高いのかについて、その「何か」を探る検証が今後行われる必要がある。 追記:本稿の内容は「日本ゴルフ学会第35回大会」において口頭発表した。

参考文献・参考資料

北 徹朗ら(2025) 猛暑下の「シャツ出しプレー」は着衣内温度を下げない-40℃越えの北関東ゴルフ場での検証-、ゴルフの科学Vol.38,No.1、pp.40-41 (公財)日本ゴルフ協会(2023) 真夏のゴルフを楽しむ皆さんへ、JGAウェブサイト https://www.jga.or.jp/jga/jsp/jga_news/news_detail_21914.html (2023年7月25日公開) ※2025年7月30日にJGAニュースで上記の内容を再掲 https://www.jga.or.jp/news/jga_news/news_detail_21914/ (2025年7月30日公開)
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2026年1月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら