フィンランドにおけるゴルフの社会的意義 武蔵野美術大学教授 北徹朗

フィンランドにおけるゴルフの社会的意義 武蔵野美術大学教授 北徹朗

フィンランドにおけるゴルフ

昨年(2025年)、PGAツアー秋季シリーズ最終戦であるRSMクラシックで優勝を果たしたサミ・バリマキ選手は、フィンランド人初のPGAツアーチャンピオンとして話題となった。 Golf Around the World(R&A)によれば、総人口約556万人のフィンランドには153のゴルフコースが存在し世界で29番目の多さとされる。ちなみに、フィンランドの国土面積は約33.8万平方キロメートルであり、日本(37.8万平方キロメートル)よりもやや小さい程度の国である。 Juliaら(2026)によれば、1957年に設立された「フィンランドゴルフ連盟/The Finnish Golf Union」(Suomen Golfliitto)は登録会員数においてフィンランド最大のスポーツ団体とされており、2022年の段階で154,415人の会員数であり、その後2025年現在にかけても4.7%の会員増加(161,635人)となっている。この数はフィンランド全人口の約3%にも相当し、ゴルフの高い人気がうかがえる。

ゴルフのSROIに関する研究

SROI(社会的投資収益率:Social Return on Investment)とは、活動が社会や環境にどれだけの価値をもたらしたかを金額(貨幣価値)に換算して数値化するスケールである。すなわち、投資額に対してどれだけの社会的成果が生み出されたかを比率で示すもので、米国のRoberts Enterprise Development Fund(REDF)によって開発された評価指標である。 2026年6月にスイスの学術誌Frontiers in Sports and Active Livingに『The social significance of golf in Finland in the year 2021 based on SROI analysis』(SROI分析に基づく2021年のフィンランドにおけるゴルフの社会的意義)(Julia et al., 2026)と言う論文が掲載されている。本稿では、そのエッセンスを紹介したい。

ゴルフの社会的意義を調べるための評価尺度枠組みの検討

著者のJuliaらは、フィンランドにおけるゴルフの社会的意義の定義について、現状、ゴルフにおいてどのような社会的成果をどのように評価すべきかについてコンセンサスが得られていないことから、この研究における「社会的意義」の範疇について、 ・ゴルフによって促進される幸福、健康、および体力ならびに医療サービスなどの社会のさまざまな分野への影響 ・ゴルフプレーヤーによる社会のさまざまな分野への経済的貢献 の側面から検討することとした。 そして、本研究のリサーチクエスチョンとして、 1)フィンランドのゴルファーはゴルフにどれくらいのお金を使っているのか、そしてその支出は様々な経済分野にどのように流れ込んでいるのか? 2)ゴルフへの投資額とゴルフによって生み出される資金流入、およびより広範な経済効果を比較した場合、ゴルフの社会的投資収益率(SROI)はどのくらいか? の2点について、2021年の消費行動を明らかにしようとした。調査対象はフィンランドゴルフ連盟の会員10,000名でありオンラインで実施された。その後調査対象者が4000名に絞られて分析・評価された。

フィンランド人はゴルフにどれくらいのお金を使っているのか

回答数は1,052件(回答率8%)、回答者の内訳は男性64%(54±16歳)、女性35%(56±15歳)であった。フィンランドにおけるゴルフ総消費額の推定値として最も支出の大きい項目は『プレーフィー(クラブ会費含む)』であり、回答者の4割以上が年間800~1,600ユーロ(約15万円~30万円程度)を費やしていた。2番目に大きい支出は『用具・用品』であり4割弱が年間200~400ユーロ(約4万円~7万円程度)を費やしていた。次に多かったのは、いわゆるゴルフツーリズム関連支出であり、回答者の約半数はゴルフ旅行をしなかった一方、19%が1回、14%が2回旅行したと回答した。他方、半数以上(53%)は練習やレッスンには一切費用をかけておらず、これらに費用を費やす人の場合でも年間200ユーロ未満(約3万円程度)しかかけていない。

ゴルフに費やされたお金はフィンランド社会においてどのように循環するのか

SROI分析の結果、2021年のフィンランドのゴルフ市場における主な支出は、会費やゴルフ場でのプレーに直接関連する費用(約1億5,000万ユーロ/約274億円)、ゴルフ用品の購入(5,900万ユーロ/約108億円)、ゴルフ旅行(5,000万ユーロ/約91億円)、クラブ内レストランやその他の飲食費(3,300万ユーロ/約60億円)であった。 Juliaらによれば、総消費額3億3,000万ユーロのうち、追跡できたのは約2億5,000万ユーロのみであり、輸入ゴルフ用品分を差し引くと、表に示したように、約2億2,000万ユーロがゴルファーを介してフィンランド社会に循環した。また、これら直接的な資金の流れに加えて、ゴルフは社会において様々な間接的な効果も生み出しており、その額は約8,000万ユーロ(約146億円)と推定している。

ゴルフによる健康と社会的なベネフィット

フィンランド人を対象とした先行研究では、運動不足がフィンランド社会に年間約32億ユーロの損失をもたらしていると推定されている。Juliaらの研究では、ゴルフ参加での健康の維持管理により、年間約8,090万ユーロの社会的なコスト削減と税収増に貢献しているとしている。コスト削減の内訳は、医療サービスの利用と医療費の削減(520万~640万ユーロ)、65~84歳の高齢者の施設介護費用(1,100万ユーロ)、労働欠勤と障害年金(950万ユーロ)に加え、労働参加率の向上による税収の増加(4,600万ユーロ)と失業給付支出の削減(50万ユーロ)が含まれる。このように、ゴルフが医療費の節約を超えて、税収増や失業支出減など労働生産性にも貢献するものであるとしている。

研究のまとめ

本研究では、ゴルフがフィンランドにおいて相当なSROIを生み出す可能性を示し、その比率は1.9(3億3,000万ユーロの支出から6億3,000万ユーロの利益)であり、経済乗数効果を組み込むと2.4に上昇すると結論づけている。 前述のように、フィンランドのゴルファーは、医療費や介護費等の削減を通じて年間約8,090万ユーロの社会的コスト削減の可能性が示されており、ゴルフへの支出が雇用、サービス、投資を通じてフィンランド経済に約2億2,000万ユーロのキャッシュフローを生み出していた。 Juliaらは本論文の最後に、標準化されていないSROI評価の方法論的限界や回収率の低さを挙げつつも、ゴルフが「健康」「経済活動」「社会福祉」に大きく貢献できるという有用なエビデンスが得られたとし、他のゴルフ大国においても、各国のデータソースを用いた疫学研究等から、ゴルフが保有する公衆衛生対策としての価値評価に取り組んで欲しいと求めている。 参考文献・参考資料 ・Julia et al.,(2026) The social significance of golf in Finland in the year 2021 based on SROI analysis, Frontiers in Sports and Active Living. 24 June 2026, Volume | https://doi.org/10.3389/fspor.2026.1832817
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2026年9月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら