チタンドライバーが出来るまで ~その① 金型ってなんだ?~

チタンドライバーが出来るまで ~その① 金型ってなんだ?~
月刊ゴルフ用品界2017年6月号に掲載された「現場放浪記 第1回」をWebにアップしたものです。 なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
初めまして。ゴルフクラブや各種ゴルフ用品の製造卸に携わっている日幸物産の松浦です。仕事柄中国の工場へ通う頻度が高く、その様子をレポートしてもらいたいとの要請を受けて、本号から「現場放浪記」と題して、製造現場を紹介することになりました。 近年はネット環境があれば仕事を進められ、わざわざ「現場」に出向いて部品を見たり触ったりする機会が減っています。たしかにITは便利ですが、「現場」から疎遠になると物作りの嗅覚が衰えるような気もします。そこで、この連載では「現場観」にこだわりましょう。初回は「チタンドライバーヘッドができるまで」です。

精密加工と手作業のコラボ

チタンドライバーができるまで ~その①カナガタってなんだ?~ まずはヘッド形状の大元といえる「金型」です。中国江西省の鋳造メーカー「LONGNAN XINJING TITANIUM INDUSTRIES INC.」(龍南新晶?業有限公司)の謝健さんによれば、 「金型は、ヘッド製法の違いによって意味が異なり、ヘッド製法は大別して鋳造と鍛造に分けられます」――。今回は、多くの製品で採用される鋳造製法(ロストワックス精密鋳造)の金型を見ます。  

基本設計

クラブメーカーはまずドライバーのコンセプト、想定ユーザー、ロフト・ライの構成やヘッド体積、素材などの基本スペックを決定し、ヘッドのデザインを決めます。ヘッド全体の外形デザイン、重心調整機構や可変機能、ロゴの配置や大きさ、ヘッドの色や加飾、スコアラインなどです。この情報を基にクラブ製造工場に発注するという流れが大半です。  

マスター作り

次はマスターの作製です。マスターは製品の最終形状通りに模したモックアップで、素材は木型や樹脂型、アルミなどがあり、材料から削り出したり3Dプリンタを使用します。 この工程はメーカーのコンセプトや設計者の意図が現れるのでとても重要。メーカーと製作工場の間でやりとりが繰り返され、数か月かかることも‥‥。費用は最低数十万円程度です。マスターが完成し、最終チェックが完了したら、その外形を3Dスキャンしてデータ化します。  

面貼りと内部設計

スキャンしたデータは3次元的な点の集合体で、これを3D・CADを使って面貼りという作業により「曲面のデータ」を作成します。3D・CADのソフトは「ProENGINEER」や「SOLID WORKS」といった高額(100万円以上)な3Dソフトを使います。これはヘッド製造工場とクラブメーカーで共通化している場合が殆どです。 次に内部構造の設計をします。これは単に各部の肉厚を決めるだけではなく、補強のためのリブ、重心調整のための重量ネジ、荷重物やフェースの肉厚、クラウンなどの内部構造を設計します。 謝さんによると、外形と内部構造を決める3D・CADでの作業には、10年以上の経験が必要ということです。なぜなら、机上論で性能を求めればいいわけではなく、その構造が製造工程で不具合を起こさないよう「製造技術」を熟知する必要があるからです。 具体的には補強リブや溶接ための耳、湯溜まり、湯流れなどの知識です。ただ、内部構造の設計以後は、製造工場から金型専門メーカーに移管される場合が大半とのことでした。 チタンドライバーができるまで ~その①カナガタってなんだ?~  

設計の完了

 ヘッド内部と外部の設計が終わったら、製品の重心位置、CORやその分布が決定されます。場合によってはFEM解析や打球音の音響解析をすることもあります。その結果によって設計の変更・手直しを何度も繰り返し、最終的なヘッド構造が完成します。  

製造金型としての設計

ヘッド構造が完成しても、それで終わりではありません。ロスワックス鋳造の金型製作は、ワックスを流し込むための設計も必要です。鍛造製法とは異なり、鋳造の金型にはワックスを流し込む経路や溶けた金属が貯まる場所(湯溜まり)、空気の抜き孔やバイパス経路についても設計します。 また、金型は分解してワックスを取り出す必要があるので、分解するための部品配置、「抜き子」と呼ばれる内部空洞の金型を抜く部品などの設計も行います。  

金型製造

その後、CADデータを実際に工作機械に合ったデータにするためにCAMというソフトを通し、工作機械のプログラミング言語に変換します。使う工具の種類や工具の送る速度、回転スピードや加工の順番などを決めていきます。  その後NC工作機械を使って材料のブロックを削り、金型を製造していきます。なお、鋳造の金型(ワックス金型)はアルミのブロックから製造します。これが鍛造の金型と大きく異なる点です。 また、金型は複数(多いときは10個以上)のパーツが組み合わさる構造のため、各パーツが完成したら仮組し、すり合わせと研磨を施しますが、実は、これは手作業で行います。非常に精密な作業であり、経験10年以上の職人でないと任せられません。手の感覚だけで0.02mmほどの凹凸の修正をします。 以上の作業を終えたら、各パーツを組み立ててワックスを流すテストをします。全ての箇所にきちんと流れるか、段差等の不良はないか、内部構造は確保されているか、作業性の良さなどをチェックして問題がなければ完成です。謝さんの工場では外形データ受領後、約3週間で完成するそうです。
如何でしたか? 金型は多くの部品で出来ていること、手作業が多いことにも驚かされます。実は金型は1モデルにひとつではありません。ワックス射出成形の作業効率を上げるために、同じモデルで複数個作ります。こうしてできた金型は一組数十万円もします。次回はこの金型を使い、ワックスの射出成形からチタンを鋳造するまでの工程を紹介しましょう。