月刊ゴルフ用品界2017年7月号に掲載された「現場放浪記 第2回」をWebにアップしたものです。
なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
▼第1回はこちら
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まずはワックス作り
チタンドライバーの鋳造をするためには、金属を流し込むための鋳型(いがた)を作る必要があります。ロストワックス鋳造法ではその鋳型を作るために、まずは「ワックス」を作ります。実は、ワックスといっても整髪料のようなジェルではなくて、ロウソクのロウ(蝋)と言い換えたほうが分かりやすいかもしれません。
前回お伝えした「金型」は手で運べる重さ(1kg以下)なので、手で運んでワックス成型機にセットします。成型機にはドロドロに溶けたワックス(温度は50度~60度)が流れています。金型を架台に手でセットして、スタートボタンを押せば、自動的に左右から金型にワックスの流れるパイプが接続され、溶けたワックスを注入してくれます。
約20秒ほどで金型の全ての箇所に注入が終わるので、自動動に接続パイプも外されます。「金型」を手で取り出して分解すれば、中には製品と全く同じ形のワックスが出来ているわけです。
でも、その取り出しには注意が必要です。金型を分解する際、変形しないようにしなければならず、また空洞部分や凹んでいる部分には「抜き子」と呼ばれる分解パーツも入っているので、慎重に取り除かないといけません。この作業にも熟練の技が必要です。傷を付けたら全く使い物にならないからです。
このように、ドライバーヘッドの形をしたワックスが一つひとつ出来上がっていきます。実際の作業では、熟練の作業員一人につき二台の機械を同時に操作していて、自動注入の20秒の間に別の機械の金型からワックスを取り出す作業をしていました。
江西省、龍南新晶の謝さんによると、ワックス製造は17人の従業員で、1日あたり2500個を製造出来るとのことです。
ワックスのツリー?
ワックスは一つひとつドライバーヘッドの形をしていますが、鋳造の鋳型(いがた)はそれを複数個まとめて一気に鋳造します。そのため「ツリー」と呼ばれる集合体を作ります。ウッドなら24個でひとつの集合体になります。
ツリーの作り方ですが、それぞれのワックスを繋げるための同じロウで出来た「幹」の部品をあらかじめ準備し、それにワックスを溶着する方法を取ります。
専用の「電熱コテ」で幹とワックス双方の接着面を加熱して少し溶かし、冷めないうちに接合してくっつけるのです。一つのツリーに多くのワックスがつくのでまるで大きなブドウのようです。モタモタしていては冷めて溶着出来なくなるので熟練の技が必要です。こうしてできたツリーは35立方㎝の大きさです。
同工場では13名がこの作業を担当しています。
鋳型作りはまるで天ぷら?
次の工程はいよいよ鋳造の鋳型(いがた)作りです。まずはドラム缶のような回転槽に水ガラス(ケイ酸ナトリウム)やシリカ(二酸化ケイ素)の粉末をドロドロに水に溶かしておき、沈殿しないように回転して撹拌しておきます。その中に先ほどのツリーを手で持って、ドボッっと漬け込み、取り出します。まるで天ぷら粉に付けるようです。
それを今度はすぐに砂(ケイ砂)の入った槽に入れ、バサバサッと砂をまぶします。まるでパン粉をまぶしているようです。まぶしたら、専用の乾燥台に吊り下げて乾燥させます。最初は24時間の自然乾燥です。
工場では専用の乾燥室を設けて温度・湿度をコントロールし、空気をファンで強制対流させて、乾燥ムラの防止。残留水分のコントロールをしており、これには独自のノウハウがあるようです。
このドブ付け~砂まぶしの工程を何と9回半(最後は砂無し)も繰り返し、この工程だけで6日間もかかります。なお、同工場ではこの工程を24人の作業員で行っています。
中身を取り出してコロモだけに
乾燥された鋳型はまだ中身のワックス(ろう)が残っています。これを加熱機に入れて、中のワックスを溶かして抜き取ります。具体的には約400℃の電気炉に入れて、1時間ほどで中のワックスは完全に溶けてなくなります。周りのコロモはケイ砂ですから、溶けずに残るわけです。電気炉から取り出したら放冷し、鋳型の完成です。
専門的にはこの鋳型を「シェル」と呼びます。天ぷらの衣だけ残った状態のこの白い鋳型は、「殻」のように簡単に割れるので、このような呼び方になったのですね。
さぁ鋳造、その前に。
次に、完成した鋳型に金属を流し込んでいよいよ鋳造するわけですが、その前にその鋳型を加熱します。加熱しないと、溶けた金属が鋳型に触れた瞬間に固まって、隅々にまで流れていかないからです。チタン鋳造の場合は1060℃になるように電気炉に鋳型を入れ、チンチンに加熱します。約4時間も加熱し、加熱ムラが出ないように注意します。
これでいよいよ鋳造の準備ができました。次回はいよいよ鋳造の本番と、その後の工程について紹介する予定です。お楽しみに。
※ワックス種類
柔らかいワックスは割れにくい為、製造効率が上がるが、薄物では変形が問題になる。堅いと割れるので工場独自のノウハウで堅さ(溶解温度)選定しているようです。
※鋳型の「コロモ」「砂」の種類・粘度・粒度
使う砂の粒の大きさ。コロモのドロドロ具合、水の配合割合は企業秘密でした。天ぷら屋と同じ?