鋳造ボディの製造で冷えたら「大切!」

鋳造ボディの製造で冷えたら「大切!」
月刊ゴルフ用品界2017年8月号に掲載された「現場放浪記 第3回」をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
ゴルフヘッドの一大生産拠点である中国の工場現場から、チタンドライバーはどうやって出来るのか。鋳造ドライバーヘッドを例にお伝えしています。前回までは鋳造に欠かせない鋳型「シェル」の製造までをお伝えしました。今回はその続きです。 ▼第2回はこちら [surfing_other_article id=44179]  

⑥真空鋳造機で鋳造

400℃の加熱炉で2時間ほど加熱した鋳型(シェル)をチタン用の鋳造機にセットします。高温で加熱しているので、常温では白い「コロモ」だった鋳型が真っ赤になっています。チタン用の鋳造装置には真空釜があり、内部に鋳型(シェル)を4つ同時にセットできる回転機構があります。鋳型をセットして回転させ、遠心力を使って隅々にまで溶けたチタンを行き渡らせるわけです。単に溶けたチタンを流し込むだけではないのですね。 江西省のチタン鋳造工場、龍南新晶の謝 健さんによると、メインのチタン用鋳造機では一回の鋳造工程でドライバーヘッド96個が鋳造可能とのこと。その際に一度に使うチタン材量は重さ80㎏にもなるそうです。 クラウン部品(別体の場合)など薄物を鋳造する場合はもっと小型の装置を使ったり、大量の鋳造の場合はもっと大型の装置を使ったりします。最も大きな鋳造機では一度に144個のドライバーが鋳造できるそうです。 一回の鋳造にかかる時間は、まず釜を真空引きして内部の空気を抜き、それから溶けたチタンを回転している鋳型(シェル)に流し込み、放冷して取り出すまでに約42分。意外に早く出来るのが印象的でした。 龍南新晶工場では、1日で2000個のドライバーヘッドの製造キャパがあり、多くの大手ブランドのヘッドを鋳造していました。  

⑦チタン材料って何使う?

代表的なチタン材料は純チタンに6%のアルミニウム、4%のバナジウムを配合した6―4チタンですが、少量のクロムや錫を加えたベータ系チタン、よりアルミ製成分を多くした軽比重のメーカー独自のチタンを使うことがあるとのこと。 特に近年では、ヘッドにカチャカチャや錘ネジといった付属品があり、鋳造後の機械加工(CNC加工)のため加工性も重要な要素とのことでした。  

⑧鋳型を壊して剥離

鋳造後、真空釜を開けて大気開放し、自然放冷します。取り出したばかりの鋳型(シェル)はまだ熱いですが、工具を使って、作業員が殻を割るように砕いてしまいます。つまり鋳型(いがた)は一回コッキリの使い捨てです。窯から出した陶器を割るように、簡単に割れて中からチタンのドライバーヘッド本体が姿を現します。  

⑨冷えたら「大切?」

鋳造したヘッドは24個がブドウのように連なっているので、それを房から切断します。これを中国語では「大切」(ダー・チエ)と呼ぶそうです。でも作業は豪快そのもの! 大きな電動ノコギリでヘッドを房から切り落としていきます。 切り落としのとき、熱を持つのでヘッド本体に影響が出ないように切断位置は少し離していました。  

⑩粗研磨と溶接

切り離したヘッドにはまだ切断面のバリ、湯溜まりなどの不要部分が残っているので、それを研磨機で落としていきます。工場では回転ベルト研磨機を使って研磨しますが、非常に重労働。猛烈な音と振動で作業者の負担は相当なもの。しかも立ち仕事が殆どです。  

⑪完成へ

最後に鋳造したヘッドのピンホールの修正をします。鋳造製法ではどうしても不純ガスの巻き込みでピンホール(微細な穴)が出来ることがあり、表面に穴が見えていて、比較的小さな穴の場合はスポット溶接で埋めて、その後研磨して修正します。また、仕様によってはヘッドや部品をレントゲン撮影して、内部に不良がないことを確認します。中に空間(巣)があると強度的にNGとなり製品になりません。 またソールのロゴも鋳造で綺麗に出ていない場合は、機械加工でロゴを彫り込んで修正します。 最後に、全体にサンドブラストをかけて表面を均一にして完成です。この工程によって表面は光沢がなく、ザラザラした状態になっています。  

ヘッド製造工場へ

こうしてようやく鋳造したドライバーヘッドの本体部品(アズキャスト=AC)が完成しました。これが中国各地や台湾、ベトナムなどに所在するヘッド製造工場に出荷され、フェースなどの部品を取り付け、溶接、メッキ、塗装といった「後工程」に回されるとのことでした。 次回以降はこの「後工程」について、ヘッド製造工場からレポートします。いよいよドライバーの最終形に近づいていきます。お楽しみに。