月刊ゴルフ用品界2017年10月号に掲載された「現場放浪記 第5回」をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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ゴルフヘッドの一大生産拠点である中国の工場現場から、チタンドライバーはどうやって出来るか、鋳造(ちゅうぞう)ドライバーヘッドを例にお伝えしています。前回までは研磨工程まで終わりピカピカのヘッドの形になりました。今回はその続きです。
⑮塗装の前にIP加工
ドライバーヘッドには黒色や金色、最近ではブルーや七色に輝くIP(イオンプレーティング)加工が施されています。これはアイアンに施される湿式メッキとは異なり、真空中でプラズマを発生させ、付着する金属イオンが飛んで、直接ヘッド表面に固着させる製法です。
今回2013年から多くのゴルフヘッドのIP加工を手掛け、大手ベンダーからも受注している広東省東莞市中堂にある日信真空科技有限公司を訪ねました。
⑯まずはキレイに洗浄
ヘッド研磨工場から届いたピカピカのヘッドは、まず輸送中で発生した傷の有無や外観表面をチェックされます。納入されたヘッドはキレイに見えても表面や内部には研磨の金属粉や研磨剤のカス、手の油など様々な不純物が付着しています。
それを専用の洗浄装置機で除去してゆきます。工場のSAM社長によると、「高品質を維持するには受入検査と洗浄が重要。これひとつのせいで、全部ダメになることもある」とのこと。
洗浄機には1m×70cm(深さ1m)程度の洗浄層(プール)が8~14層あり、酸や超音波洗浄水層、イオン交換水(純水)の層に分かれています。専用の治具にセットされたヘッドは順番に脱脂や酸洗い、超音波洗浄のプールに順番に浸かって行きながら洗浄されます。
ひとつの治具にはドライバーなら20個程度が取り付けられ、各プールには3分程度浸かって、次のプールに入っていきます。
まるで熱いお湯と水風呂に交互に入っているようです。
なお同工場では大型の洗浄機を使っていて、中国製で一台1500万円ほどするそうです。工程は全自動化されているとのことでした。洗浄されたヘッドには内部に水分が残っていることもあるため、乾燥炉で水分を飛ばします。
⑰専用治具へ取付け
洗浄後のヘッドはIP加工の装置に入れる為に専用の治具にセットします。いわゆるツリー状にヘッドを手で取り付けていきます。一つの治具にはヘッド最大12個が取り付けられ、その治具自体が装置の中でクルクル回るようになっています。これでまんべんなく表面に金属が「乗る」わけです。
⑱真空釜へセット
治具に取り付けたヘッドをいよいよIP加工装置にセットします。装置は大型のもので高さ1.2m、内径1.6m程度の真空釜とその付属装置から構成されています。
真空釜の正面のハッチを開けると、先ほどのクルクル回る治具が11~13本取り付けられるようになっていて、そこにヘッドを取り付けた冶具を差し込んでいきます。真空釜は施工中に高温になり、正確に温度制御する必要があるために、周囲に水冷機構が設けられ、常に水が流れています。水温、流量が常にコントロールされているわけです。
⑲真空引き
次に真空釜のハッチを閉じ、内部を排気して真空にします。実はこの真空引きに時間がかかり、装置の性能によって完了までの時間が前後するそうです。
日信真空科技では、真空引きには1時間程度かかっているとのことです。
⑳本IP加工
真空引きの後、高周波装置によって内部にプラズマを発生させます。付着させる金属は電子線照射気装置によって蒸発させ、このプラズマ雰囲気中でプラス荷電したイオンにします。一方、冶具に固定されたヘッドはマイナスにしておくので、イオン化した金属はどんどんヘッドに付着していきます。
もちろん冶具にも一緒に金属が付着していくので、色がついていきます。
施工の時間は付着する金属の種類や厚さによって異なり、約1時間~2時間とのことでした。
「加工自体は装置がやるから自動だけど、それまでの準備をいかに丁寧にやるか、それがIP加工屋のノウハウなんだよ!」とSAM社長は力説していました。
表面に付着する金属はチタン、金、プラチナなど。ゴルフヘッドの場合は付着する金属の様態によってTiN(金色)TiCN(黒)などに加工するそうです。
このようにして同工場ではIP加工を専門に請け負い、月12万個程度の処理能力で大手ベンダーへ納入しています。
これで残る工程は最終の塗装と組立のみになりました。次回はその工程を紹介します。どうぞお楽しみに。