キャスコは12月13日、都内会場にて新ボール『BIO SPIN -TOCHU-』の発表会を開催した。会場内には今回の開発にも携わった
日立造船の谷所敬社長や
NEDOの開発担当の吉木政行氏、
大阪大学大学院にしてHitz協働研究所所長の中澤慶久氏が来賓者として同席した。

「今回、産学共同開発で杜仲原産の新素材で作られたボールを発表します。開発に4年間かけたこのボール、
2018年4月に発売し、初年度の販売目標は2万ダースを目指します」(キャスコの高橋芳彦社長)
発表された『BIOSPIN -TOCHU-』の特徴は、上述の高橋社長の言葉通り杜仲の木の種子から抽出した繊維をカバーに採用したこと。杜仲とは中国原産の落葉高木で、医薬品からお茶まで幅広い用途で使われている葉といわれており、発表会場にも卓の上に杜仲の種子が置かれ実際に手で触れることもできた。

これだけだとゴルフボールと無縁のように思えるが、産学連携でこの杜仲の種子を原料とした耐衝撃性バイオポリマーの開発に成功。
トチュウエラストマー®と名付けられた。今後、自動車産業や福祉(介護)用具産業などへの用途が期待される素材だが、スポーツ用品として初めてキャスコがゴルフボールに採用したわけだ。
『BIOSPIN -TOCHU-』は、トチュウエラストマー®をカバーの主成分とした3ピース構造の多層コアボールだが、キャスコでは過去のボールカバー材のデメリットを排除した画期的なボールと位置づける。
「まず、1910年頃から採用されたバラタは打感とスピン性能には定評がありましたが、傷つきやすく耐久性に問題がありました。次に、1970年頃から出てきたアイオノマーは耐久性と飛距離性能は向上しましたが、硬かったので上級者からは不評でした。ソフトタイプカバーも出ましたが、耐摩耗性が悪く、改善が必要でした。
そして、2000年頃から採用され始めたポリウレタンはバラタの2~3倍の耐久性があり現在でもウレタンカバーソリッドボールのカバー材として主流になっていますが、ヘッドスピードの遅い一般ゴルファーが打っても中々スピンがかからないという課題があります。
そこで今回のトチュウエラストマーですが、特徴は高い耐久性、ソフトフィーリングに加えて、ヘッドスピード(HS)が30~40m/sと比較的遅いゴルファーが飛距離を損なうことなく、スピンがかかること。我々は、そこが画期的だと自負しています」(キャスコ)
HSが遅くても、プロのようなキュキュッとしたスピンを掛けられるというのが、セールスポイントという。よって、製品対象者も上記の通り、HS30~40m/sのゴルファーと割り切っているのだ。
実際にテストしたゴルファーからは、「スピンがかかりにくい状況で、グリーンオン後の転がりが4ヤード程でよく止まった」(男子アマ、HS40)、「アプローチは低くても転がらない、バラタっぽいボールでスピンも良くかかる」(女子プロ、HS35)などのコメントを得たという。

キャスコでは、『BIOSPIN -TOCHU-』の製造にあたり、加熱すると変色しやすいという
トチュウエラストマー®の特性を考慮し、製法を従来のインジェクションから加熱を抑えられるコンプレッションに変更するなど大きなチャレンジも行った。この新ボールに対する同社の思い入れの深さが象徴される出来事だが、それだけ期待値は高いということ。
なお、『BIOSPIN -TOCHU-』はオープンプライスを予定するが、予想店頭価格は1000円/個とかなりのプレミアム。価格的にも性能的にも競合はない?その動向が大いに注目されそうなニューボールの登場といえるだろう。