モグラ――。漢字で書くと「土竜」となり、力強さを感じさせる。
モグラの前足は意外と大きい。力強く土を掘り進めるその様を、新規事業のアパレルに取り組む姿勢と重ね合わせた。
7月4日、都内の撮影スタジオで来年春夏のアパレル発表会を開いた本間ゴルフ。舞台中央でプレゼンテーションを行った菱沼信之常務は、
「色々な困難や失敗を恐れずチャレンジしていく。モグラのように力強く掘り進めたい」
と、緊張の面持ちで話した。同氏は昨年11月、テーラーメイドゴルフからホンマに転職し、業界では少なからず話題になった。以後、初めてのプレゼンが今回だけに、「モグラのように」は自身の境遇と重なるのだろう。
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発表会は「穴倉」にて
発表会場は、イメージスタジオ109四谷スタジオ(東京都新宿区)。テレビドラマの撮影にも使われる場所で、薄暗い地下3階で商品プレゼンやファッションショーを行った。
同社は昨年、伊藤忠商事、タイの大手財閥チャロン・ポカパン(CP)グループと提携して、アパレル事業の土台を固めている。供給先は当面、日本と中国市場に絞り、双方半々の割合を見込む。
国内生産のクラブ作りにこだわる同社は、契約プロにもイ・ボミや谷原秀人などの顔触れが並ぶ。過去数年、ツアープロの活躍をブランド構築の要としてきたが、前期決算の内訳にもあるようにクラブ収益が8割以上を占めている。その意味で、アパレル事業への再参入は、総合化を志向する劉建国会長の肝入りといえるものだ。
「ロゴの『モグラ』はホンマにとって、非常に大事なキャラクターです。モグラは穴を掘って前へ前へ進んでいく。『穴』を通って新しいホンマの世界へ来てもらいたい。それがゴルファーに向けたメッセージであり、今回の演出はその点を強く意識しました」(菱沼常務)
展示会場の受付から、薄暗いエレベーターに乗ると、穴を掘るような効果音が怪しげに響く。地下3階の発表会場は迷路のよう。しばらくするとファッションショーが始まった。
この日、菱沼常務は午前と午後の2回に分けて、各12分間のプレゼンを行っている。商品は3ラインで、販路政策は総花的ではなく、商品のテイストに合わせて高価格帯は百貨店などの棲み分けをする。全体的には「ライバルはデサント」となりそうだ。
同社は直営店網を広げていることかから、ゴルファーの声を直接汲み取れる。アパレルの開発に際しては、「店長の意見」を定期的に吸い上げてきたという。
スコア向上につながる「パフォーマンスライン」
「パフォーマンスライン」はアスリートモデルの位置づけで、こだわりの機能を3つ盛り込んだ新生ホンマアパレルの代表的なモデル。
一つ目の機能は「ウルビルド4D(動体裁断)」
これは人間工学の研究者、中澤愈(なかざわ すすむ)氏によって考案された裁断方法で、ゴルフにおける様々な動きをスムーズに行える機能だという。ゴルフスイングにおいて最も運動量が多い背中部分の動きを妨げないよう、脇線を前側に配置することで、スイング時に起きる皮膚との摩擦を軽減し、背中の可動域を広げる工夫を施しているとのこと。
二つ目の機能は「インビジブルスタビライザー」
これはゴルフスイングで最も負荷のかかる腰部分に、医療用のコルセット素材を配置。パンツの裏側に配置することで、デザインを損なうことなくゴルファーの疲労をさりげなく支えるという意味合いから「インビジブル(invisible)」(見えない)と命名した。
三つ目の機能は「ストレッチウエスト」
これは、ゴルフの動きの大部分を占めるウエスト周りに、伸縮性の高いストレッチ素材を配置。プレー中のストレスを軽減してくれるという。
街でも着られるカジュアルさ「タウン&ターフライン」
「タウン&ターフライン」は、街でも気軽に着られるカジュアルの楽しさを追及したもので、明るい色を中心にポップな作りを意識したという。ただ、カジュアルな中にもハイパフォーマンスを盛り込んだとのことで、素材にコットンライクポリエステルを採用して吸水速乾を高めたり、真夏のラウンドを想定して接触冷感を使ったアイテムを多く盛り込んだとか。
上質な素材のハイエンドモデル「シグネチャーライン」
「シグネチャーライン」は素材や製法など、全てにおいて上質さにこだわったもので、「ゴルフウエアから見たラグジュアリー」を意識。アウトドアで使われるウエアからヒントを得た、通気性に優れたウインドブレーカーや、ホールガーメントという一枚仕立てのテーラーニットジャケットなどを取り揃える。
こだわりはパンツ
商品企画部の森下克司部長が語る。
「一番のこだわりは、とにかく『パンツ』です。3つの機能を盛り込んだほか、パンツの開発には当社のクラブ開発で培ってきた『道具作りの精神』を余すことなく入れました。ゴルフだけで使うにはもったいないくらい履きやすいパンツになっています。『ゴルフのパンツをゴルフ以外のシーンで』というテーマを拡散させたいと思っています」
グローブにもホンマならではの工夫
ウエアの陰に隠れているが、小物にもこだわったという。特にグローブ。一般的なプロゴルファーは天然皮革のグローブを使うことが多いが、契約プロの谷原秀人から「人工皮革で天然皮革のような素材感を出してほしい」との要望があり、ゴルフグローブで初めて人工皮革にコラーゲンを配合した素材開発に成功したという。
企画チームの土門憲マネージャー(ボール・グローブ担当)によると
「人工皮革にコラーゲンを配合しようと発想してから、製品化までには多くの失敗をしました。コラーゲンの配分を何度も試し、ようやく納得の一枚ができた時は本当に嬉しかったですね。来年春夏物ではレディスのみの展開ですが、いずれメンズ用も製品化できたらと考えています」
アパレル市場への参入はいばらの道?
実は、ゴルフアパレル市場は過当競争の渦中にある。トレンド系のファッションアパレル、ゴルフメーカーやスポーツアパレルの専業メーカーが機能性重視の開発をしたり、ユニクロなど大手の存在もある。これに、小資本メーカーが参入と退場を繰り返すなど、生き残りは容易ではない。
ホンマは当面、デサントをライバル視していくが、菱沼常務は「新しいことへのチャレンジ」を強調しながらも、創業時から変わらない「本間のモグラ」を意識するなど、原点回帰への想いも感じ取れた。
展示会の模様を動画で紹介