日本人は、質問や議論が苦手な人種だ。小中高の教育を通じて「集団行動」を徹底的に叩き込まれ、少しでも主義主張を唱えればイジメや陰口の対象となる。
わたしは以前、アメリカへの留学経験があるが、大学で授業を受けたとき、周りの学生が一斉に先生を質問攻めにしている光景を目の当たりにして、カルチャーショックを受けたことがある。
ある時など、インドから来た友人と先生の質疑応答でほぼ授業の大半を費やすほどの大激論になったが、ほかの生徒も加わり、お互いに感情的にならず建設的な結論を導けた時、「日本ではこうならないだろうな」と悲しくなった。
社会に出ても、状況は改善されていないと感じる場面が多い。企業では、会議の場で議論せず、密室の中で限られた上層部のメンバーによる意思決定がなされている。議論はそれぞれの価値観や考え方の違いを認識する素晴らしい機会であり、人を攻撃したり、人格を否定したりするものではないはずなのに、だ。
LPGAの放映権問題
2017年の8月に日本女子プロゴルフ協会(LPGA)がトーナメント主催者会議で放映権の帰属を主張したことから端を発した、放送権の一括管理を巡る話し合いが紛糾している。LPGAは、サッカーやプロ野球のように競技団体が放映権を持ち、その収益をプロの生活の充実や、協会の振興に充てたいと考えている。
また、ここ数年、スポーツでネット中継が視聴できるサービスが続々と登場している中、放映権が一括で管理されていないことから後手にまわってきたゴルフのネット中継についても実現性を帯びてきた。
LPGAを大きく育てた主催者やテレビ局は、十分な協議がなされず、2018年に行われた主催者説明会においてLPGAが一方的に方針を説明し、質疑応答が行われなかったことを問題視している。改革に痛みを伴うのは当然だが、議論が足りなかったと言わざるを得ない。
競技継続と開催を望む声を聴かずに、一方的に「開催中止」と発表された「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン」を主催するミヤギテレビは、LPGAに対し開催を前提とした協議の再開を申し入れたというが、発表前に話し合いができなかったのだろうか。このあたりにも、自由闊達な議論を得意としない日本人の体質が表れているように思う。
ビールメーカーの実験
「価値観の違う人と仲良くなれるか?」をテーマに大手ビールメーカーのハイネケンが実験を行った。「新右翼VS左翼」「トランスジェンダー VSアンチトランスジェンダー」など、初対面の二人が一つの部屋で、いくつかの質問に答えながら、話し合いを通じてお互いの価値観の認識を深めていく。
そして最後にハイネケンのボトルが用意され、お互いが全く別の信念を持っていることが発表されたあと、「退室するか、残ってビールを飲みながら話し合うか」の二者択一を与えられる。なんとも洒落た実験である。
カウンターに座って飲みながら話し合うことがどれだけ重要かは、ノミュニケーションが得意な日本人ならわかるだろう。会議室でも感情抜きの議論ができれば、未来はきっと変わるはず。わたしはそう信じている。
この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2019年2月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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