全米ゴルフ協会(USGA)は3月12~13日、都内ホテルで「第5回ゴルフ・イノベーション・シンポジウム」を開催した。一泊二日の日程で、参加者は日本のゴルフ関係者を中心に180名。延べ37名の登壇者(日本人8名)が、ゴルフ市場の現状や最新のコース運営術等を発表した。日本では初開催。
USGA職員を含む米国の関係者は30名規模で、大学教授や調査・コンサルティング系の人間など、さながら「商業使節団」の趣があった。USGAの年間収益は2億2500万㌦(約247億円、1㌦110円換算)、その8割を全米オープンで稼ぎ出すという。邦貨にして198億円だ。
非営利団体のUSGAは、収益の大半をゴルフ振興に投資しており、大学との産学連携にも意欲的。特に近年、日本の多くの有名コースはコース改造(リノベーション)に着手しており、その大半は米国のコース設計会社に委ねられている。米国流の「再生術」を、疲弊する日本のゴルフ市場へ持ち込む商機を伺っているのか? さるゴルフ場関係者は「今回のUSGAの来日目的に、商機拡大の印象は否めません」
そこで、本誌はUSGAのマイク・デイビスCEOに単独取材を行った。「今回の来日は『第二の黒船』ですか?」――。終始温厚なデイビスCEOとの一問一答を掲載しよう。
なお、文末には12日夜に行われた元ハンマー投げ五輪選手の室伏広治氏と丸山茂樹のトークショーを動画で掲載。併せてご覧頂きたい。
今回の来日は「黒船到来」?
今回のUSGAの来日は、「商業使節団」として日本にビジネスチャンスを求める動きにも見えます。どうでしょう?
「それは、とても興味深い質問ですね(苦笑)。ただ、このシンポジウムはゴルフを世界で健全に発展させたいというシンプルな目的で行っています。日本は世界で2番目に大きな市場規模だし、ゴルフで100年以上の歴史もある。我々とJGAは長らく良好な関係にあるため、近代的なイノベーションの考え方を共有したいと考えたのです」
バブルの崩壊で多くのゴルフ場が民事再生になり、外資系ファンドが掌中に収めました。あれを第一の黒船とすると、今回は経営再建やコース改修、コンサルビジネスを持ち込む「第二の黒船」に見えなくもない。
「2年前、カナダでこのシンポジウムを開催した時にJGAも来てくれて、『日本でも役立つから是非やってもらいたい』と言われた経緯があるんです。
我々は、常にグローバルな視点でゴルフ産業を見ています。米国では過去12年間、閉鎖コースが開場コースを上回っている。日本のゴルフ界も様々な問題を抱えていると思いますので、危機感と展望を共有したかった。アジア諸国の関係者も多数来日しています」
各セッションを聞いて思うのは、データ分析に基づく考察の明瞭さです。日本の場合はゴルフ人口に諸説あり、「ゴルファー」の定義も曖昧など基礎的な数字が固まっていない。その点、米国はクリアですね。
「そう思いますか? 実は、米国も似たようなところがありましてね、NGF(ナショナル・ゴルフ・ファンデーション)が各種データを出してますが悩ましい部分も否めません。確かなデータがあればゴルフ場の経営問題、つまり雇用やメンテナンス、設備投資への道筋が見えてきます。
そこで今、期待しているのがUSGAのハンディキャップ・システムです。これが世界に広がれば、ゴルフ人口や技量のレベル、その他の詳細が把握できるようになるでしょう」
なるほど、実際の狙いはそこですか。ハンディの普及は「正統なゴルフ」の普及という、観念的な狙いだと思ってました。
「(ハンディシステムの普及には)もう少し時間が必要でしょうが、これが集まれば相当なビッグデータになるはずです」
USGAの収益は2億2500万㌦
そういった活動を含めたUSGAの事業規模は、どれくらいですか。予算規模の観点で。
「細かい数字は頭に入っていませんが(笑)、概算で2億2500万㌦です。我々は非営利団体だから収益はすべて使い切ります。全体の80%を『USオープン』の収益が占めており、これはテレビ放映権料、チケット販売、スポンサー料等が中心です」
凄い額ですね。それだけの金額を市場の研究や芝草の改良、アマ大会の開催など活性化原資に充てている?
「もちろん投資先は研究費だけではありませんが、過去5年間注力しているのは水資源の有効活用で、これには700万㌦規模の予算を投じています。
すでに効果は表れており、全体で1億5000万㌦の節約を実現しました。これ以外では芝生のメンテナンス、品種改良、ゴルフ場自体の経営環境改善を含め、大学との連携も行いながら意欲的に進めています」
最後にリオ五輪の反省について伺います。世界のゴルフ団体が一致してIOCに働き掛け、再採用が実現した。が、これによるプレー人口の増加は見られません。スポーツマーケティングサーベイ社によれば、2012年と比べた2017年のゴルフ人口は世界で2.4%減、英国が4.3%減、米国は7.9%減と、五輪効果は見られない。なぜですか?
「ゴルフは個人戦ということが、ゴルフをしない国民の関心を呼びにくい一因かもしれません。加えて米、日、英、豪などそれなりにゴルフ産業が成熟している国において、五輪効果はさほど大きく望めないと思っています。
むしろ、その他の国々でプレー人口の伸びがあることを期待したいですね」
以上、デイビスCEOとの一問一答を再現した。同氏は、世界的なプレー人口の減少を重く見ており、一方では水資源の問題など、米ゴルフ産業の疲弊を懸念している。
今回、ゴルフ場関係者が多くを占めた聴衆からは、「日本のゴルフ場経営で水問題はさほど重要ではない。むしろ日本では固定資産税やゴルフ場利用税等の問題があるため、日米で問題の質が異なっている」(日本ゴルフ場経営者協会・手塚寛理事長)との声が聞かれた。
なお、初日の夜には元ハンマー投げ五輪選手の室伏広治氏と丸山茂樹とのトークショーが行われたので以下に掲載する。