建築家のアントニン・レーモンド(チェコ、1888~1976年)は、日本のゴルフ場と関わりが深い。なぜなら彼は、ゴルフ場のクラブハウスを多数設計したからだ。
1919年、帝国ホテル建設のため来日したフランク・ロイド・ライトの助手として初来日。その3年後に独立して、レーモンド設計事務所を開設する。
当時、東京ゴルフ倶楽部のメンバーであった彼は1932年、同倶楽部が駒沢から朝霞に移転する際に新しいクラブハウスの設計を任される。この白亜の建築物は当時、東洋一と謳われた。
2014年、朝霞市博物館は29回目を数える企画展「東洋一を目指して~朝霞が育てた日本人のゴルフ~」を開催。そこにレーモンドが手掛けたアールデコの建築様式によるクラブハウスの写真資料や模型が展示された。
ここでわたしは、プール付きのクラブハウスを見てしまったのだ! あの時代に、そんなハイカラなクラブハウスを造ったレーモンドが、日本の建築家に与えた影響は計り知れない。
1963年、東京ゴルフ倶楽部は再度移転した。現在の狭山のクラブハウスもレーモンドの設計で、昨年国の有形文化財に登録された。
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レーモンドと富士CCの設計図[/caption]
ゴルフ場のクラブハウスとしては2012年の富士カントリークラブ(静岡県)、2014年の門司ゴルフクラブ(福岡県)に続く3件目で、いずれもレーモンドの設計による。
門司のクラブハウスは①贅沢を避け質素に ②ハウス内の流れを機能的に ③必要なものが必要な場所になどの基本方針が忠実に守られている。
コース設計は上田治。ハウス良し、コース良しの「門司」は、わたしのイチ押しゴルフ場だ。
一方の「富士」は、東名・御殿場インターから3分ほどの立地にある。一枚の大きなガラス窓から、富士山を毎回違う絵のように楽しめる意図(ピクチャウィンドー)で設計された食堂と、3方向から火が入る珍しい暖炉が素晴らしい。
コース設計は赤星四郎。富士山が雲に隠れていても、赤星のコースがプレーヤーを十分満足させてくれる。富士山に頼りすぎないレイアウトが、わたしが太鼓判を押す理由でもある。個人的には、富士、門司、東京の順で、レーモンド作のクラブハウスをお薦めしたい。
もうひとつ、変わり種を紹介しよう。神奈川県藤沢市に残される旧藤澤ゴルフ倶楽部のハウスは通称「グリーンハウス」と呼ばれ、戦前に建てられたレーモンド設計の4ハウス(藤澤、我孫子、相模、東京=朝霞)で唯一現存する、スパニッシュ様式の建築物だ。
県所有で、現在は神奈川県体育センターの食堂として利用されているが、老朽化が著しい。きちんと補修・修繕して、歴史の「生き証人」でいてもらいたい。
この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2019年6月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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