ボール市場で急成長を遂げるボルビック 第二工場竣工で「世界3位のボールメーカーを目指す」

ボール市場で急成長を遂げるボルビック 第二工場竣工で「世界3位のボールメーカーを目指す」
ボルビックの勢いが止まらない。同社が世界で初めて開発したマットカラーボール『VIVID』は世界中でヒットを遂げている。その勢いに乗って、2018年にリニューアルしたウレタンカバーのツアーパフォーマンスボール『S3/S4』の評判もいい。   そういった背景もあり、同社は5月13日、ソウル近郊に第二工場を設立、世界の販売関係者などを集めて、竣工式を開催した。第二工場の稼働により、同社の生産キャパは大幅に拡張するが、文慶安会長はこれを機に「世界第3位のボールメーカー」を目指すと宣言した。 [caption id="attachment_57983" align="aligncenter" width="788"]第二工場の竣工式でスピーチするボルビックの文慶安会長 第二工場の竣工式でスピーチするボルビックの文慶安会長[/caption] 今、世界で一番勢いのあるボールメーカーといえるボルビックだが、その生産背景や歴史などを知る日本の関係者は少ない。そこで今回、本誌はソウルに飛び、同社の経営幹部や開発責任者などを取材、その勢いの源に迫ってみた。

世界3位のボールメーカーを目指して

ボルビックは5月13日、待望だった第2工場の竣工式を開催した。当日は同社の創業記念日、しかも創業40周年という節目の日でもあった。  韓国の首都・ソウルから車で90分ほどのウムソン郡に国内外の取引先200名ほどを招き、新たな門出をともに祝った。そして、その晴れの舞台でボルビックの文慶安会長は、 「世界第3位のボールメーカーを目指します!」と高らかに宣言した。 [caption id="attachment_57984" align="aligncenter" width="788"]第二工場のエントランス前で新たな門出を祝う 第二工場のエントランス前で新たな門出を祝う[/caption] ボルビックは周知の通り、世界で初めてマットカラーボール『VIVID』を開発、従来にないユニークなマットカラーが受け、世界中でヒットしている。そのニーズを埋めるためには第一工場の生産キャパだけでは足りず、第二工場の操業が急務であった。 第一工場に隣接する第二工場は、全自動化システムを導入したという。実際に工場の中を見せてもらって感じたのが、作業員の少なさ。 「年間の生産キャパは第一、第二も同じですが、第二の作業員は30名。第一の4分の1です」(文会長) この自動化された第二工場では近年ニーズが増えているカスタムオーダー(ロゴプログラム)を主に生産、それによって空いた第一工場のキャパをプロパー品の生産に充当していくという。新たな生産体制が整ったことで年間生産量が従来の倍になった。 「グローバルなボール市場で1位がタイトリスト、次いでキャロウェイ。3位以下は団子状態と言われています。今回当社の第二工場が稼働したことで3位に食い込める生産キャパを実現し、世界3位のボールメーカーを現実的に目指せる様になりました」 実際、同社のボールは世界で3万店舗と推定されるゴルフ取扱店のうちの3分の1に当たる1万店舗で販売されているという。 [caption id="attachment_57985" align="aligncenter" width="788"]全自動化システムを導入した第二工場内。作業員の少なさが際立つ 全自動化システムを導入した第二工場内。作業員の少なさが際立つ[/caption] そこで気になる日本の展開だ。 「販売代理店のFDRに頑張ってもらっていることもあり、着実に実績が出てきていますが、目標は2020年までに日本でのボールシェア3%を目指します。 そのために必要なこと?そうですねぇ、『VIVID』は順調に推移しているので今後はウレタンカバーのツアーパフォーマンスボール『S3/S4』にフォーカスし、ツアープロも認めるゴルフボールとしての認知を上げて行くことが必要。 そのために日本で藤田さいきプロと下川めぐみプロと契約していますが、契約選手はもっと増やしていくことも考えています。また、将来的には、女子ツアーの試合も開催したいですね。これが実現すれば、ブランドをもっと強く訴求できると思います」 ボルビックは2016年~18年の3年間、米LPGAツアーで「ボルビック選手権」を開催した実績を持つ。これにより、米国でのブランド認知が広がり、加速度的に販売が伸びたともいう。その手法を日本にも取り入れれば、一気呵成に市場でのプレゼンスを高められると文会長は語る。 第二工場の稼働により、世界3位のボールメーカーを目指す生産体制は整った。あとは攻めるのみ。文会長は常に柔和な表情を浮かべるが、心には大きな野心を抱いているのだ。

2ピース全盛の時代に3ピースの開発で狼煙を上げる

創業当時のメンバーで 現在も開発顧問を務める ファン・インホン氏 創業当時のメンバーで現在も開発顧問を務めるファン・インホン氏 それにしても凄い躍進ぶりだ。数年前まではボルビックという名前すら知らなかった日本のゴルファーも多いはず。そのボールメーカーが世界3位を目指せるポジションまで来ている。そこで気になるのが、ボルビックとは一体どんな歴史を辿ってきたのかということだ。それを紐解く。 同社の前身となったのが、1980年にソウル近郊のシウンという町に設立された一也実業という会社だった。往時はゴルフボールの生産ではなく、ボールの研究所として立ち上げられたと語るのは、設立メンバーで現在も開発顧問を務めるファン・インホン氏。 「150平米の小さい事務所にボール作りの設備を入れて研究を始めました。当時は2ピースが全盛の時代でどのメーカーも2ピースばかり作っていましたが、新興のうちが同じものを作っても誰も見向きもしてくれない。そこでデュアルコアの3ピースボールの開発を手がけたのです。 [caption id="attachment_57987" align="aligncenter" width="788"]創業当時のファン氏手書きによるディンプルのスケッチ 創業当時のファン氏手書きによるディンプルのスケッチ
[/caption] 当時は他メーカーもデュアルコアを開発していましたが、うちの特徴は内側のコアを硬くして外側を柔らかくしたもの。打感がソフトになりスピンもよくかかる。そして直進性もいいというのが特徴でした」 そこでデュアルコアに関する特許を取得、製品化するための投資を得て生産工場を作ったという。ただ、当時は自社ブランドの販売をせず日本のゴルフ関連企業やメーカー向けにOEM供給から開始したという。また、同社のデュアルコアを高く評価した某米メーカーにコアだけを出荷していたという実績もあるとか。 そして、OEMで稼いだ資金を元手に1997年に自社ブランド『ボルビック』の製品を初めて作った。その際、会社名もボルビックに変更したという。 [caption id="attachment_57988" align="aligncenter" width="788"]現在のディンプル製作はコンピュータの中で行われる 現在のディンプル製作はコンピュータの中で行われる[/caption] しかし、「機能性は評価されたのですが、あまりにも宣伝力がなかったのでブランドとしては認知されませんでした」 自社ブランドは立ち上げたものの、販売実績にはつながらなかったとファン氏は述懐する。

攻撃的なマーケティングが始まった

世界初のマットカラーボール『VIVID』 その厳しい冬の時代に転機が訪れたのが2009年。現会長の文氏がボルビック社の経営に入ってからだ。 「文会長が経営に加わってから会社が一気に変わりました。『こんなにいいボールが売れないはずがない。とにかく宣伝力が足りないのでマーケティングにもっと力を入れよう』という文会長の号令のもと、攻撃的な販売促進活動を開始し始めたのです」 戦略的にはプロ契約によるトップダウンで市場の認知を高めることだったが、同時に販売価格も1ダース1000円から一気に4000円へ引き上げた。 「プレミアムゾーンに打って出たわけですが、ただ単に値段を上げたわけではありません。値段なりの価値を説明しなければ市場は納得しないので、開発にも従来以上に力を入れました。そこで生まれたビスムスやジルコニウムカバーなどの特許は今でもうちの財産です。 ちなみに、ビスムスはボールを成型する時に冷却してボール周辺を硬くすることで膨張させる技術。また、ジルコニウムカバーは、カバーにジルコニウムを混入することでスピン性と耐久性を向上させるものでした。双方ともに現在でも当社の核となるテクノロジーです」(ファン氏) プロの使用契約によるブランドの認知向上と独自の製品力で販売実績も上がってきたボルビックだが、さらにその勢いを押し上げたのが2016年に発売した世界初のマットカラーボール『VIVID』だ。 その工程は企業秘密ということで、今回の取材で詳しく教えてもらえなかったが、カラーボールの新たなスタイルとして誕生したマットコーティングが市場を創造した価値は大きい。他社が追随していることでも、その価値は理解できるだろう。

世界ツアーで使用者急増!『S3/S4』の革新性

世界ツアーで使用者急増!『S3/S4』の革新性 ボルビックの躍進は、開発力とマーケティング力がその源ということが分かったが、今年同社が最も力を入れるのが、2018年にリニューアルしたウレタンカバーのツアーパフォーマンスボール『S3/S4』だ。すでに多くのツアープロが同製品を使用、その性能を高く評価している。 ボルビックは2013年に初代『S3/S4』を発売、今作はそのモデルチェンジとなる。そこで気になるのが、前作との違い。その点について同社開発責任者のパク・サンウク理事が説明する。 [caption id="attachment_57990" align="aligncenter" width="788"]開発責任者のパク・サンウク理事 開発責任者のパク・サンウク理事[/caption] 「前作との違いを話す前に、『S3/S4』にも採用されるデュアルコアについて説明します。これは当社が特許も取得しているものですが、基本的な考え方は外柔内剛、外重内軽です。外側のコアを柔らかくして打感を優秀にしながら比重を高め、中心の内側のコアは飛行時の揺れを防止するために強くしながら比重を下げたものです。 外側が重く内側が軽ければ慣性モーメントが増加してスピンが長く維持されます。これにより、ボールが飛行時に緩やかな傾斜で下降することになります。飛距離を増大するための重要な要素です」 [caption id="attachment_57989" align="aligncenter" width="788"]Volvik S3とVolvik S4の構造図 Volvik S3(右)とVolvik S4(左)の構造図[/caption] 要するに、デュアルコアによってツアープロが欲する柔らかい打感と飛距離を両立したというわけだ。なるほど合点がいく考え方だが、この基本的なデザインを踏襲しつつ、今作はよりツアープロのニーズにフィットする修正点を加えたとのこと。 「まず、一点目が新たに開発した『UV‐Xウレタンカバー』の採用です。これは前作よりもカバーの厚さを薄く大幅に柔らかくすることでスピン量を飛躍的に高めることに成功したものです。 一般的にはカバーを薄くして硬度を下げると耐久性が弱まりますが、ボルビック研究所はこれらの制限を完全に克服しました。また、顔料沈殿を防止し、粒子の均一さを維持することも一貫したスピン性能の高さにつながっています」 [caption id="attachment_57996" align="aligncenter" width="788"]ボルビック研究所で使用されるロボット ボルビック研究所で使用されるロボット[/caption] 同社の技術力によって、薄くて強い、そしてスピン性能の高いボールが完成したという。実際、同社のロボットテスト(ロフト52度のウエッジ)では前作に比べて400rpmほどスピンが増えたという結果も出た。 『S3/S4』の改良点でもう一つ注目されるのが打感だ。 [caption id="attachment_57995" align="aligncenter" width="788"]ヘッドスピード40m/sの新旧S3のロボットテストのトラックマンのデータ。NEW S3の方が前作よりもボールのバラつきが少ない ヘッドスピード40m/sの新旧S3のロボットテストのトラックマンのデータ。NEW S3の方が前作よりもボールのバラつきが少ない[/caption] 「前作よりもコンプレッションを10以上下げ打感を変えました。前作はどっしりとして力強い打感でしたが、今作は気持ちの良い快適なフィーリングが出るように変更しています。コンプレッションが下がると反発力が落ちて飛ばなくなることもありますが、『S3/S4』は前作で定評のあった飛距離性能を維持、打感の変更だけに成功しています」 打感は人によって好みもあるが、どっしりと重いフィーリングだと何となくインパクトの抵抗感がありボールも飛んだ気がしない。軽快な打感の方がスパッとボールを打ち抜けた感じがして、飛んだ気分にもなる。気持ちよくプレーできるという点についても前作からの進化としては注目されるべきだろう。 [caption id="attachment_57997" align="aligncenter" width="788"]ヘッドスピード31m/sのロボットで52度のSWで新旧S3/S4のスピン量を比較したGCクアッドのデータ。新作の方が400rpmほどスピン量が増えている ヘッドスピード31m/sのロボットで52度のSWで新旧S3/S4のスピン量を比較したGCクアッドのデータ。新作の方が400rpmほどスピン量が増えている[/caption] また、『S3/S4』は変色に強い素材を使うことで前作よりも黄変の時期を3倍以上に伸ばしているという。ボルビックは世界で初めてマットカラーを開発するなど色に対する意識が高い。よって、同社にとって変色は商品力の低下に他ならない。細かい部分ではあるが、ボルビックのこだわりが伝わるモノ作りの姿勢でもある。

多様化するニーズへの対応力

[caption id="attachment_57992" align="aligncenter" width="788"]Volvik S4を使用する下川めぐみプロと藤田さいきプロ Volvik S4を使用する下川めぐみプロ(左)と藤田さいきプロ(右)[/caption] パク氏の説明でも分かるように、『S3/S4』は前作から大きな進化を遂げた。 ツアープロが様々なシチュエーションで高いパフォーマンスを発揮できるボールに仕上がったといえるが、その性能はツアープロだけに与えられたものではない。アスリート志向のアマチュアゴルファーがワンランク上のゴルフを目指せる性能ともいえるだろう。 [caption id="attachment_57993" align="aligncenter" width="788"]LDA世界ロングドライブ選手権で活躍するボルビックの契約選手たち LDA世界ロングドライブ選手権で活躍するボルビックの契約選手たち[/caption] また、ボルビックで注目されるのはツアーパフォーマンスボールだけではない。LDA世界ロングドライブ選手権の公認球として愛用者も多かった『VIVID XT』が『VIVID XT AMT』として2019年にモデルチェンジされた。 新開発コアを採用し、前作より飛びと直進性がさらにアップ、飛距離の優位性を武器にスコアアップを図りたいゴルファーに最適なモデルに仕上がっている。 [caption id="attachment_57994" align="aligncenter" width="788"]LDA世界ロングドライブ選手権の公式使用球  『VIVID XT AMT』 LDA世界ロングドライブ選手権の公式使用球 『VIVID XT AMT』[/caption] そして、『VIVID』シリーズの拡充も遂げている。 マットカラーの視認性の高さでアマチュアゴルファーから人気の『VIVID』を軸に、ヘッドスピードの遅いゴルファーのために軽量化を図った『VIVID LITE』、ウレタンカバーボールにマットコーティングを施しソフトなフィーリングとカラーが楽しめる『VIVID SOFT』など、ゴルファーのヘッドスピードや好みに応じて選べる豊富なラインアップを揃えた。 ゴルフのプレースタイルが多様化したことで、ゴルファーのボールに求める価値も多岐にわたるようになった。その市場でボールメーカーが勝ち抜くには、ゴルファーのあらゆるニーズに応えなくてはいけない。 正に、開発力とマーケティング力の勝負だが、今回の取材でボルビックにその「力」があることが分かった。そのパワーがさらに拡散されれば「世界3位のメーカー」が見えてくるかもしれない。