人は何故、歌をうたうのか?小泉文夫は「音楽の根源にあるもの」(青土社、1977年)の中で、次のように述べている。
「人間は、誰でも初めからリズム感があったわけではなく、一緒に力を合わせて食糧を捕獲するために、必然的にリズムを獲得するようになった。」
小泉は民族音楽を研究する過程で、エスキモーたちの生活習慣によるリズム感の違いを見つける。内陸に住みトナカイを追う者は単独行動だ。
彼らに歌を歌わせると、リズム感が悪く合唱にさえならなかった。一方、湾に迷い込んだ鯨を集団で囲い込む海側の住人たちは、リズム感がよく歌も上手い。共同作業で鯨を追い込む彼らには普段から心を合わせる訓練が必要だった。
つまり、呼吸やリズムを合わせるために、「歌」が必要だったのである。人は何故、歌をうたうのか?その答えは、「生きるため」だった。
ところが現代社会において、歌や音楽は日常に溢れてはいるが、それが生きるために必要とされているかといえば、必ずしもそうではない人間がいることも確かだ。
来年、生誕250年を迎えるベートーヴェン(1770~1827年)は、「音楽があなたの人生の重荷を振り払い、あなたが他の人たちと幸せを分かち合う助けとなるように」という言葉を残している。生きるための「歌」は、新たな役割が課せられたのだ。
8月末、東京都ゴルフ連盟(以下、TGA)は津堅典子競技委員長のもと「小中学生大会」を開催した。小学4年生から中学3年生まで男女52名は、付き添いの父兄と一緒に参加する「ルール&マナー講習会」が目玉で、45分という限られた時間ではあったが、それぞれスタートの前後にGMG八王子ゴルフ場のコンペルームに集合した。
実はこの大会、第3回と銘打ってはいるが過去2回は台風で中止となり、実質的には今大会が第1回といっていい。念願の講習会付きの大会を企画した津堅委員長に大会の経緯を伺った。
「ジュニア育成に積極的に取り組んでいるKGA(関東ゴルフ連盟)から、TGAでもジュニア教室をやってみては?と打診されたことがきっかけです。ラウンド中にルールやマナー、エチケットなど、わからないことはその場で帯同している競技委員に質問できるように1~2組に1人の委員を配置しました。
講習会は保護者も一緒に参加しますので、これを機会に今まで以上に親子でゴルフのルールや歴史に興味を持って頂けたらと思っています。」
また、無事に講習を終えられたのはボランティア委員の協力があってこそだという。
「TGAは財源がなくて充分なジュニア教室〜ティーチングプロによる技術指導等、所謂『スクール』が出来ません。それを埋めるために参加人数を制限して、委員が子供たち一人一人に目が届くような体制を整えて臨みました。マンパワーで乗り切っています。」
実は私も講習会で講師を引き受けた一人。私が話を始めると、集まった子供たちの目がキラキラと輝き始めた。きっとゴルフには、音楽や歌とは違うやり方で人を元気にする力があるのだろう。教育とは他律から自律への移行である。子供たちがゴルフを通じて少しずつ自律していく姿を見守っていきたい。
この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2019年9月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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