9月9日の深夜から未明にかけて関東地方を縦断し、大きな爪痕を残した台風15号。間もなく1カ月が過ぎようとしているが、まだまだ「被災地」の状況を脱していない地域も多く、一日も早い復旧が望まれる。
房総半島のほぼ中央に位置する夷隅郡大多喜町の「マグレガーカントリークラブ」でも大きな被害を受けた。以下は当日コースに宿直していた職員A氏による聞き書きである。
9月8日の午後11時過ぎから強烈な暴風雨となり、建物は軋み、窓ガラスには割れんばかりの強い雨が打ちつけ、恐怖で一睡もできない状況になった。そして午前3時過ぎ、突然「ガタっ」という音とともに周囲が真っ暗になった。
これが、房総エリア一体を襲った長期停電の始まりである。
同時に水道もストップし、トイレも使用不可に。とりあえず布団に入ったまま夜明けを待つが、荒天とあってなかなか明るくならない。午前6時半頃になってようやく事務所に向かうが、懐中電灯なしでは何も見えなかった。
クラブハウスの玄関はおびただしい木の枝や落ち葉で覆い尽くされている。事務所の電話も不通で、スタッフ同士の連絡は携帯電話だけが頼りだが、圏外になっているケースも多く、総じて繋がりにくい状況だった。

7時を過ぎ、やっと明るくなってきて何人かの社員が出社したが、途中の倒木などでだいぶ苦労してきたようだ。ハウス前の駐車場もかなり水嵩が増え、最深部は60cmほどになっており、これ以上深くなったらクルマの通行は不可能だったろう。
この時点ではまだ、コース内の状況は掴めていない。とりあえず数人でハウス前の清掃にとりかかる。
驚愕の光景が広がっていた

午前9時を過ぎ、コース内を点検してきたグリーンキーパーと合流。とにかく倒木と落ちた枝の散乱がひどく、地滑りも発生しているという。この頃になると天気は回復し、強烈な日差しが照り付けて一気に気温が上昇してきた。
炎天下の中、出社できたスタッフ7名ほどでインコースに向かう。
ティーからグリーンを眺めると緑色の芝の部分はほとんど見えず、地面はほぼ茶色に覆われている。それらは全て折れた枝や飛んできた葉のかたまりだった。
ティー周りからカートパス、フェアウェイ、グリーンと目につく大きな木の枝などを拾い集めて歩を進めるが、10番ホールだけで1時間近くかかり、この時点で意識が朦朧としてきた。次の11番グリーンも真っ茶色で、グリーン奥のカート道は倒木で通行不能になっていた。
休憩を挟みながら13番ホールに着いた時、驚愕の光景が広がっていた。

このホールの左サイドは30m四方の広い谷だが、そこに大量の雨水が流れ込み、大きな湖と化している。初めて見る光景に、全員が息を呑んだ。
風も凄まじかったが、雨量も尋常じゃなかったということだ。
3日目の朝に電気が復旧
13番ホールの惨状を目の当たりにして、クラブハウスへ戻り、昼休憩とした。
昼食にカップラーメンでもと思ったが、停電ではお湯も沸かない。仕方なくクルマでコンビニに向かう。幸い、この時点では食料品が枯渇しておらず、氷や冷たい飲み物も買うことができた。とにかく、しっかりエネルギーと水分を補給して午後の作業に備える。
昼の打ち合わせでキーパーからアウトコースの状況を聞いたが、4番ホールでは左右両方の斜面が崩れ、コース側に木が倒れ込んでいるという。また、16番ホールのグリーンサイドでは大規模な地滑りが発生し、倒木がグリーン上に覆いかぶさっていると聞き、急いで現場に駆け付けた。

またもや信じられない光景が眼前に広がる。斜面の一部がそっくり崩れ落ち、地層が剥き出しになっていて、その斜面に生えていた杉の木がそっくりグリーンを覆っているのだ。これはひど過ぎる。当分このグリーンは使用不可能だろう。
こうした大規模な倒木の撤去はコース課でも手に負えず、明日以降、専門の業者に依頼することになる。
あまりの衝撃に、その後の作業は余り覚えていないが、とにかく午後4時頃まで枝を拾い続けてその日の作業を終えた。
これだけ汗をかいてもタオルで拭うだけというのはかなりシンドイ。そうだ、事務所にある大型の製氷機の存在を思い出し、氷でタオルを冷やしてなんとか涼を取る。
翌日も同じように過ごし、コース内はだいぶ片付いてきたが、電気はまだ来ない。
PCが開けず、お客様にクローズの連絡もできないが、そもそも予約表が見られないのだからどんな方が予約されているのか把握できない。仕方なくクローズの告知はスマホ経由のフェイスブック頼りとなった。
そして3日目の朝、ようやく電気が復旧し、断水も解消された。今考えると他のエリアに比べて復旧は早く、かなり恵まれていた方だとしみじみ思う。ただし、ネットと電話はまだ不通。
再開初日に約50組が来場した
停電ではレストランのダメージが大きかった。冷蔵庫が止まって食材はほぼ全滅、大きな痛手を被った。
3日目の午後3時30分、ネットと電話が復旧して営業再開に向けた準備を始める。翌日もコースをクローズして開業に備え、5日目にして営業再開が決まる。当日は「13日の金曜日」だった。

コースのプレーエリアはほぼ通常通りで、あの16番グリーンの倒木も撤去し、奇跡的にグリーンへのダメージもほとんどなく通常使用できるという。ただし、レストランは食材の確保が難しく、再開初日はカレーライスのみの限定メニユーで対応した。
再開初日は、平日にも関わらず50組近い来場者が訪れてくれた。周辺のコースがクローズ状態のせいか、こちらにお客が集中したとみられる。翌日からの3連休も大混雑で、経営的にはクローズの損失を最小限に抑えることができた。
以上、被災から営業再開までを時系列で辿ってみた。当マグレガーCCは周辺のコースに比べてクローズ期間が最短で済んだ。倒木がプレーエリアにかかるところが比較的少なかったことが幸いしたのかもしれないが、コース課を始め全従業員の努力の賜物であることは間違いない。
停電が2週間近くに及んだ成田方面や、千本単位の倒木が出た千葉市郊外の林間コースなど、甚大な被害を受けたコースの一日も早い復旧を祈るばかりだ。