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    タイガー・ウッズはモダンゴルフの犠牲者なのか

    鈴木 タケル
    1976年 静岡県伊東市生まれ/ライプチヒスポーツ科学交流協会理事/武蔵野美術大学非常勤講師/国際武道大学大学院(修士:体育学)/日本プロゴルフ協会A級ティーチングプロ/左右打ち練習方法「スイッチゴルフ」提唱者
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    今年4月の「マスターズトーナメント」で、タイガー・ウッズは奇跡といえる復活優勝を遂げました。これにより、ウッズのメジャー優勝は通算15勝となり、ジャック・ニクラウスの最多記録18勝にあと3勝と迫っています。 プロデビュー当初のウッズは、それまで見たこともないスイングスピードから放たれる圧倒的な飛距離を武器に優勝を重ねました。ウッズのスイングやトレーニング法は次世代のプロ達を大いに刺激し、近年ツアープレーヤーのパワー強化が加速しています。 その一方、ウッズ自身は近年、腰痛に悩まされ続け3回の腰椎手術を受けるも完治せず、本来のプレーができない状態が4年続きました。それでも、4回目に腰椎固定術を行い上記の復活を遂げたことで、多くのファンがウッズの一層の活躍を期待していると思われます。 しかし、最近気になる医学論文(引用1)が発表されました。ウッズの病歴を紹介しつつ、近年のゴルフ打法のもつ腰椎損傷のリスクについて論じたもので、これを読むとウッズの今後は、決して盤石とはいえないことが察せられるのです。
    1) Corey T.Walker, Juan S.Uribe, Randall W.Porter.(2019). Golf: a contact sport. Repetitive traumatic discopathy may be the driver of early lumbar de-generation in modern-era golfers. Journal of Neurosur-gery: Spine
    そこで、神経外科分野では極めて稀な、このゴルフに関する医学論文の内容を紹介しながらスポーツ科学的に現代スイングと腰痛の関連について説明します。

    ゴルファーと腰痛

    プロとアマの隔てなく、ゴルファーのスポーツ障害はしばしば背中や腰に起こります。プロでは55%、アマでは35%がそのような損傷に至っていることや、プロの腰椎椎間板障害の発症年齢は一般人口よりも低い(若い)ことなどが報告されています。 ウッズも2013年の37歳時あたりから腰痛に苦しめられ、次第に試合の欠場や棄権が増えていきました。 このような近年のプロゴルファーの腰痛に対し、2019年2月に神経学研究で名高いバロー神経学研究所(アリゾナ州、USA)のグループが、「ウッズに代表されるX-Factorの大きい現代スイングが腰椎椎間板損傷や腰椎変性促進の原因になっている」可能性を指摘した論文を発表しました(引用1)。

    X-Factor(エックスファクター)とは?

    X-Factor(エックスファクター)とは? トップオブスイング時のX-Factor(この場合約45度)
    X-Factorとは、スイング中における腰に対する肩の回転を表す角度のことで、一般的にはトップオブスイング時での腰に対する肩の角度のことを言います。 肩のラインと腰のラインがXの字体になっていることからそう呼びますが、アメリカのゴルフインストラクターとして有名なJim McLean氏が1992年に最初に使用したとされます。 2000年にPhillip J.Cheetham氏らは、トップオブスイング時のX-Factorだけでなく、ダウンスイング開始直後に、関係する筋肉繊維をストレッチさせることでX-Factor が増加することを発見し、この現象は、X-Factor stretchとして知られています(引用2)。
    2) Cheetham, P.J., Martin, P.E., Mottram, R.E. and St. Laurent, B.S. The importance of stretching the X Factor in the golf downswing. In: Book of Abstracts 2000 Pre-Olympic Congress. International Con-gress on Sport Science Sports Medicine and Physical Educa-tion. Brisbane Australia 7-12 September 2000
    この研究によれば、熟練したゴルファーでは、トップオブスイング時X-Factorが48度、ダウンスイング直後では57度に達し、約19%(約9度)の増加が確認されました。これに対し、非熟練者でのX-Factor増加率は13%に留まり、熟練者と非熟練者との間には差があることが報告されました。 さらに別の研究で、スイング中にX-Factorが最大化する角度(Peak X-Factor)が、クラブヘッドスピードの速さと高い相関があることも発見されました(引用3)。
    3) David W. Meister, Amy L. Ladd, Erin E. Butler, Betty Zhao, An-drew P. Rogers, Conrad J. Ray, and Jessica Rose. Rotational Biomechanics of the Elite Golf Swing: Benchmarks for Ama-teurs. Journal of Applied Biomechanics, 2011, 27, 242-251
    このような研究結果やウッズの活躍を背景に、モダンゴルフにおいては飛距離でのアドバンテージを求め飛距離を伸ばすための方法としてX-Factorを最大化することにフォーカスした打法(より捻る)や、トレーニング法(より捻れるように)が次第にプレーヤーのみならず、指導者の間でも重要視されるようになっていきました。

    現代スイングが腰椎椎間板損傷の原因?

    ウッズは、X-Factor stretchを大きくすることで飛距離を獲得してきた代表的な存在といえます。 ウッズ自身がこのことを意識してスイングしていたかどうかはわかりませんが、結果として、ダウンスイング開始時のX-Factor stretchの大きさは、これまでのレジェンドプレーヤー達とは異質なものになりました。 ニクラウスやホーガンは、大きなバックスイングからリラックスしたダウンスイングで、X-Factor stretchを過度に強調して行うスタイルとは異なっていました。 ウッズの出現以来、ウッズのようなスタイルのプレーヤーは近年では増加しています。そういった意味で、X-Factor stretchが大きいスイング=現代スイングと定義できそうです。
    X-Factor stretchでの腰椎のねじり(第4、第5腰椎間の例) X-Factor stretchでの腰椎のねじり(第4、第5腰椎間の例)
    ウッズに代表される現代スイングでは、ゆっくりとしたバックスイングの後に爆発的なスピードでの腰部の回転を引き起こすために、腰部と胸部の回転方向を分離させ、筋肉繊維の伸張‐短縮サイクル(Stretch-Shortening Cycle:筋肉を伸ばした状態から収縮することで出力が大きくなる)を最大限利用してクラブヘッドスピードをより高速化させます。 また、大きな捻りでも身体を安定させ、さらにより大きく筋力を発揮するため、ウッズは早い段階から身体各部の筋力トレーニングも採用しました。 ウッズの場合、①X-Factor stretchが大きい②筋力トレーニングを行った、以上のことで「ストロングスイング」を手に入れましたが、論文では、それは同時に腰椎椎間板に継続的な、以前にはなかった負担を日々与えることになり、結局は椎間板損傷を起こしてしまったという仮説を提起していると思われます。はたしてウッズはモダンゴルフの犠牲者なのでしょうか? 一方で、医学では椎間板の強度には個人差があるとされています。筆者は、ウッズ自身の椎間板強度を知る術がない以上、彼が現代スイングの犠牲者といってよいかはわからないと考えます。 ただ、復活したとはいえ、一度病んだ腰椎に現代スイングの負荷をかけ続ける結果については「時のみが知る」とする論文の一節は大いに気になるところです。
    ダウンスイング時の右手側への側屈による椎間板の圧迫 ダウンスイング時の右手側への側屈による椎間板の圧迫
    また、論文では、この打法ではトップオブスイングから切り返しの時に、腰椎のねじれを意図的に強めるため一部の腰椎椎間板への負担が大きくなってしまうことに加えて、インパクト付近では右手側への側屈(サイドベンド)角度が大きくなって、腰椎椎間板を利き手側優位に強く圧迫することになる、これが片側性の腰椎変性及び骨棘形成を誘発するとしています。 しかし、プロゴルファーの腰椎椎間板の非対称性損傷は、1997年に日本から報告されていて(引用4)、現代スイング特有の現象ではないとも言えます。
    4) Sugaya H, Moriya H, Takahashi K: Asymmetric ra-diographic findings on the lumbar spine in elite and pro-fessional golfers. Orthop Trans 21:312–313, 1997
    プロのゴルフスイングでは、ダウンスイング時に7500ニュートン(約765kg)もの圧縮力を背骨が受けるとされ、これは、アメリカンフットボールでのタックルの衝撃に相当すると推定されています。プロの1日の練習量を300球とすると、毎日300回のタックルを受けていることになり、しかもそれは、年余にわたり継続されていきます。 そう考えれば、腰椎を痛めること自体は以前からプロフェッショナルの宿命なのかもしれませんが、モダンゴルフの風潮がそのリスクを高めているという論文筆者らの主張には大いに耳を傾けるべきと思われます。

    モダンゴルフへの警鐘

    1. 過度のX-Factor増加を目指す打法及び指導方法
    2. 腰椎の損傷を早める程の筋力増大
    論文では、以上2つのことを腰椎損傷のリスクとして指摘しています。実際に、腰椎椎間板の損傷による神経障害が発症した場合は、神経を圧迫している部分を切り取る減圧手術(ウッズは3回おこなった)では、術後に同じ負担を継続すれば再度繰り返すことになり完治は望めません。 現代スイングをする限り、一度椎間板を大きく痛めると競技復帰はほぼ不可能である、が実際かもしれません。 ウッズが4回目におこなった固定術は、再発のもとになる椎間板成分を摘出して、代わりに骨を移植して数ヶ月かけて上下を骨癒合させるものです。これまで、動いていた椎間を永久に動かなくしてしまう脊椎固定術は、スポーツ選手にとっていくつかのデメリットがあると考えられていました。 患部となった椎間板は局所的によく動くから頼られて負荷をさばいていた→最初に傷んで腰痛が始まる→そこを固定したら前のようには動けなくなる→結局は腰痛は治ってもアスリートとしてのパフォーマンス低下は避けられない、という危惧などです。 そのジレンマを超えて固定術を決断し、わずか7ヶ月で完全復活したウッズからは各方面が学ぶべきものがありそうです。 一方、脊椎脊髄外科専門医師である譲原氏からは、ウッズの固定がL5/S1(腰椎と骨盤のつなぎ目)であったことに注目して、この部の固定術は腹筋の一部の切開で済むもので背筋や体幹筋の温存が期待できるが、別の部位となるとそう簡単なことではなく、ウッズが復活を果たしたからといって椎間板を損傷したプロゴルファーに固定術をするかは難しい判断であり続けるだろう、さらにウッズを含め固定術後にほかの椎間板に代償性に負担が移り「隣接椎間板障害」が起きてまた腰痛ほかが再発するリスクも心配される、残念だがウッズは出場試合数を制限したほうがよいのではというコメントをいただきました。 ウッズの病歴は現代風に見えてプロフェショナルゴルフの本質なのかもしれません。 ウッズに腰痛が始まったのが37歳として、今20歳台で活躍する世界のツアープロたちは、あと15年後にこの論文の正しいことを証明するかもしれません。だとすると予防法はなにか? ゴルフを科学する者にとって、重い問題を提起してくれた論文でした。 【著者・鈴木 タケル(すずき たける)】 1976年12月4日 静岡県伊東市生まれ/ライプチヒスポーツ科学交流協会理事/武蔵野美術大学非常勤講師/国際武道大学大学院(修士:体育学)/日本プロゴルフ協会A級ティーチングプロ/左右打ち練習方法「スイッチゴルフ」提唱者 【監修・譲原 雅人(ゆずりはら まさひと)】 1958年12月21日 神奈川県横須賀市生まれ/1983年3月 東京医科歯科大学卒業/日本脳神経外科学会専門医/日本脊髄外科指導医/亀田メディカルセンター 脊椎脊髄外科部長
    この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2019年11月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ用品界についてはこちら
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