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新しい年とゴルフ界

ニュース 松尾俊介

新年を迎え多くの人が新たな気持ちで仕事や生活を始めていきます。「あけましておめでとうございます」といって新しい年を迎える日本の新年の日常的な光景です。

この「あけましておめでとうございます」という言葉ですが、よく見てみるとなぜ年が開けるとおめでたいのか、という素朴な疑問に突き当たります。月が変わっても、いや今日から明日に変わっても「おめでとう」とは言わないですよね。

ある意味日本は年に1回だけ新しい年がくると全てをスクラッチにして新たな気持ちで進み始める。もしかすると大きな災害が来たり、突然の不幸が降って湧いてくるようなことが起こるかもしれないのに「おめでとう」と言って新たな年を迎えるのです。気持ちの切り替えが大切であり、何かよくないことがあっても、どこかでその影響を断ち切って新たな気持ちで再出発する、というメンタリティだとすると、これは凄い習慣なのかもしれません。

もう少し冷静に考えると言霊の世界が現在でも日本人の心に中に深く入っている証でもあるのです。ポジティブな言葉だけが採用され、ネガティブな言葉は「縁起が悪い」といって採用されることがないからです。

そのような視点で見ると何があっても、よくても悪くても一度ゼロに戻して再出発できるやり方は日本人の強さ、良さの一つだと感じています。

やり方を変える時期に来ているゴルフ界

それだけの資質がありながらどうしてゴルフ界はスクラッチできないのでしょうか?

少子化とそれに伴う人口の減少化、そして高齢化という2つの大きな波が市場に押し寄せているのに一度スクラッチにして時代に合わせた変革をしようとしないのは、大きな判断ミスを起こす可能性をより高くしていると思えるからです。

人口が減少する、ということは消費活動が縮小することであり、その中でビジネスを継続的にしていくには減収増益体質に変化させていかなければ持たないからです。人口が増加しているときは増収増益体質、つまり「効率と便利さ」を優先させるやり方が正解であるのに対し、人口が減少する経済活動は減収増益であり、それは一人ひとりの顧客に丁寧に向き合い「嬉しさを創造する」ことでモノやコトにお金を喜んで支払ってもらうやり方が人口減少傾向という時代のやり方なのではないでしょうか。

既製品を大量に生産し、量販やネットで大量に販売できる時代はもう過去のもので、このやり方をまだ続けているとモノが市場に溢れ出し価格が維持できなくなって小売業は行き詰まり、モノ自体も付加価値がなくブランドも失墜するのです。

では具体的にどのようなことをすれば良いかと言えば、今まで無視をしていたニッチな市場まで目を向けることや販売方法のドラスティックな見直しです。

効率と便利さから嬉しさの創造へ

例えば左用のクラブの販売とカスタムクラブの発売時期が良い例です。

日本では左利きの人の人口に占める割合は約11%と言われていて世界の約10%とから比べてもわずかに高いのです。しかし、左用のクラブは右用に比べても選択肢が限られ、女性用、ジュニア用といったアイテムは選択肢がない状況です。

なぜでしょうか? 効率が悪いからです。小売サイドからすれば在庫負担が大きく発注対象から外れるからです。

日本のゴルフ人口が仮に800万人とすれば約80万人が潜在消費者と見るべきで、この数字は競技ゴルファーの数字より大きなものです。

逆にこの市場にもう少し光を当てて、在庫負担を強いらずに売り上げを増加させていくには選択できるアイテムを右と同じように増やすことと、試打用のクラブを充実させ、カスタム(特別注文)で受注を受けることが「嬉しさを創造する」行動になるのです。

開発部分で言えば現在はコンピューターで設計をするために、右と左は数値を逆に入れ替えるだけで設計はできるのです。金型を起こしてミニマム数量を製造してカスタム受注体制をとれば済むことではないでしょうか? 米国メーカーは基本的には左はほぼ右と同じだけのヘッドを用意して受注できるようにしています。

左利きの男性ゴルファーはもちろん女性やジュニアも無理して右に転向しなくても良いからで、むしろ選択肢がある分だけそのメーカーの信頼度は増してロイヤルカスタマーになる可能性は高いのです。

カスタム製品の受注体制も新製品が発売されてから2週間後からの受注では本末転倒です。新製品をカスタムで購入しようとする顧客は最高の顧客なのにどうして最低のサービスを提供し続けるのでしょうか? 彼らこそ最高のインフルエンサーになってくれるだけでなく、カスタム(特注)という付加価値の高い、販売価格も高いものをリスクをとって真っ先に購入してくれる人たちです。

製造に2週間かかるのなら、どんなに早く発売日にカスタムオーダーをしても新製品を手にすることができるのは発売後1ヶ月後となります。どう見ても変だと思いませんか? カスタム品の発注状況を見れば新製品がどのような人たちがどのようなスペックを希望しているかもわかり、今後の販売戦略も立てやすくなるはずです。

組み立てに必要な日にちを考慮して発売3週間位前からフィッティングの受付をして注文してもらい、正式発売日に合わせて納品したらどうでしょう。

プロには発売前のかなり早い段階で新製品を渡して新製品の良さをアピールする材料に使うことをするなら、お金を支払ってくれ、しかも真っ先に価格も高いカスタム品を注文してくれる顧客をロイヤルカスタマーとして対処すべきことです。

1993年からゴルフ市場は収縮現象が続き現在はピークの半分近くまで落ち込んでいる状況なのです。それなのに未だ当時と同じ手法でビジネス展開をしている姿は異常です。変化が顕著になった時期からすぐにでもやり方を変えて対処しなければならないのに、問題を先送りして相変わらず予算は昨年対比105%とか110%などあり得ない数字を提示してセールス活動を続けている姿は日本郵便の年賀状販売に重なって見えませんか?

改善と改革

やり方を変える方法として変革と改善という言葉があります。

現在の状況におおむね満足しているなら改善であり、現在のやり方では減少傾向が続いているのなら改革と言われています。もう一つ経営のやり方として成長期にある経営戦略と縮小期にある経営戦略は全く異なるものです。逆の見方をすると経営者は上り調子に適した経営者と縮小傾向に適した経営者がいて、状況によって使い分ける必要があります。

人口が減少し生産年齢人口も減少していく日本経済は、景気が良くなるということはドラスティックな政策変更をしなければあり得ないことです。

それはメーカーやゴルフ場が率先して行うことで減収増益体制を早急に敷かなければ働く人たちに無理がたたり、会社はもちろん社会全体までもが不健康になってしまいます。地方自治体や国の財政にも大きな負担が生じるのです。

ゴルフ場利用者数から見えるもの

ゴルフ場も同じことが言えます。先ごろ日本ゴルフ場経営者協会が発表したゴルフ利用税から見るゴルフ場の利用状況は、日本の将来のゴルフ市場を暗示していると読めるのです。ジャーナリストの喜田任紀氏の分析によると、2018年度のゴルフ利用者数は8487万4869人で、前年度と比較すると66万2739人少なくなり、減少率は0.77%で微減です。

少子化と高齢化が同時進行で進み、ゴルフマーケットにもマイナスの影響が出ると懸念されていましたが、減少数はわずかで、率にすると5%未満の落ち込みであり、減少した翌年にはぶり返しもありプラスに転じる年もあります。

数パーセントの幅で増減が繰り返されているような感覚になりがちですが、10年前と比較すると591万1000人の減少で、減少率は6.5%です。

市場規模の縮小が起きているわけですが、市場原理も働いており、ゴルフ場数は10年間で194コースが市場から撤退し、ゴルフ場数は7.9%少なくなっています。

減少率の差は1コース当たりの入場者数の改善という結果を生んでいますが、入場者数の減少が続く限りゴルフ場数の減少という市場圧力が働き、一見、1ゴルフ場で考えると経営環境が改善されているような錯覚に陥りますが、負のスパイラルに陥ったマーケットは、減少を繰り返すだけです。

この動きを止めるのは、需要の創造しかありません。需要創造はマーケティングの実践しか対策はありません。今ある需要層のニーズに応えるだけでは市場規模の拡大はできません、と述べています。その通りだと思います。

もう一つ注目すべき点があります。ゴルフ人口が減少しているのに入場者数は微減ということは、一人あたりのプレイ回数が多いことになります。誰でしょうか?

定年退職した60歳以上の人たち、その中でも非課税対象者の70歳以上の人たちです。神奈川県を例にとると県でのゴルフ場数は52コース、年間の総入場者数は約257万人です。1コースあたりの平均入場者数は約4万9400人でそのうち70歳以上の入場者数は約30%の1万4820人となります。

年齢別ゴルフ人口を見ると今後5年後はこの半数の7410人がゴルフをやめてしまうというデータがあります。毎月に換算すると618人です。平均単価を1万円とすると600万円以上の減収となってしまうことになります。当然、ゴルフ用品市場にも大きな影響が出ることは明確です。

ゴルフ場も、いやゴルフ場こそ率先して改革の行動に出る時期に来ています。

ゴルフ場のやり方を押し付けるのではなく、市場調査を行い、市場のニーズに応えていくことがいまやるべきことです。つまりゴルファーの選択肢を増やすことが「嬉しさの創造」につながるからです。自分たちのやり方を前面に出したいならプライベートコースとしてより閉鎖的にすべきで、誰でもいつでも予約が取れることは止めるべきであり、メンバーからの収入で回していけるようにすべきものです。

それができないのなら、思い切ってパブリックコースに転換するか、それに近い内容を前面的にアピールしてメンバーにもそれを了解してもらうくらいの強力なやり方が必要です。あと5年以内に大きな入場者の減少が始まる前にです。

「今でしょう!」行動は

危機はかなり前から叫ばれていても、「自分のところは大丈夫」という心理に陥って何もしないまま現在に来ていることは、嵐の前の静けさだと気づくべきです。ゴルファーにとっては今、安くプレイでき、どこでも予約ができる最高の環境かもしれませんが、ゴルフ場があっての話で、近い将来はそれができなくなるか、ゴルフ場がなくなってしまう可能性があるからです。

そうなれば、ゴルファーにとっても大変なことが起こることになります。

令和の時代になったから、新年を迎えたから「おめでとうございます」などと流暢なことを言っている場合ではなく、改革の行動を起こす時が来ています。

急な改革は大きなエネルギーと忍耐が必要ですが、少なくとも「嬉しさを創造する」ことをコンセプトに変革していけば、減収増益方向にシフトすることになり、市場から遊離することなく確実に変革の方向に進んでいくと信じます。

改革の第1歩は進むべき目標を設定し、それに向かって確実に行動を起こし、その結果を検証しながらさらに先に一歩ずつ進んでいくことからだと思います。

来年こそ「あけましておめでとうございます」と真に言えるように。


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ライター紹介 ライター一覧

松尾俊介

松尾俊介

1949年12月23日生れ  神奈川県出身
東海大学工学部航空宇宙学科卒、在学中は体育会ゴルフ部副将および関東学生ゴルフ連盟の連盟委員を兼務。パイロット志望から一転してゴルフ用品販売業務に携わる。ゴルフ工房を主宰しながら1988年からフリーランスゴルフライターとしても活動。国内外合わせて25のゴルフクラブメーカを取材し、記事として各誌に掲載する。「良いゴルフクラブとは何か」をテーマに取材活動を続ける。1989年米国キャロウェイゴルフの取材と掲載記事をきっかけに親交を深める。

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