キャディとゴルファーの会話 孫正義さん脱帽で「申し訳ありません!」

キャディとゴルファーの会話 孫正義さん脱帽で「申し訳ありません!」
私は某ゴルフ場でキャディをしているが、振り返ると、昨年はノーベル医学生理学賞を2018年に受賞した本庶佑さんにキャディとして付くという名誉な出来事があった。本庶さんはゴルフ愛好家で、記者会見では次の目標は「エージシュート」と語ったエピソードもあるほどだ。 ゴルフ場に勤務していると様々な著名人に会う。余程のことがない限り緊張しない私も、さすがに「ノーベル賞」にはおののいた。 しかし、挨拶も早々に「京都(京都CC上賀茂コース)では池で泳いでいる人がいるって、本当ですか?」と質問したところ、本庶さんは「泳いでいる、泳いでいる。」と笑いながら答えてくれた。 実は京都ゴルフ倶楽部には古式泳法の水泳訓練所があり、「泳いでいる人」とは、古式泳法の訓練をしている人たちのことだ。まだ行ったことはないコースなので、実際に泳いでいる人たちを見たことはないが、本庶さんとの会話のキッカケにもなったことだし、是非今年は上賀茂コースへ行ってみたい。 ルソーは『エミール』(1762年)のはじめに次のように書いている。「われわれが生まれたときには持っておらず、成長して必要とするものはすべて教育によって与えられる」―。 そしてその「教育」のための学習において、人はみな偶発的、個人的であって、一人として同じ経験を持つわけではない。経験とは活動を通した一人一人の学びである。情報化社会といわれる現代、質・量ともにルソーの時代とは比較にならないほど拡大しているメディアがある。 我々はメディアを通して知らず知らずのうちに価値観を形成している。メディアは情報を運ぶだけでなく人々のライフスタイルや社会のあり方も変えている。 そんな中、昔と変わらず対等な関係を築けるのがキャディとゴルファーの関係である。しかも私は、圧倒的な社会的地位のある人ほど人間的で温かく、周囲の人たちに余計な気遣いをさせることもないと感じている。 私が過去に付いたお客様の中で一番印象に残っているのは、元トヨタ自動車名誉会長の張富士夫さんである。 1番ホールのティショットの後、歩きながら聞かれた。「井手口さん、今、何を勉強している?」そんなことをキャディに聞く人は過去にはいなかった。「今どんな本を読んでる?」会話を続けると、張さんとは本籍が同じであることがわかり話が弾んだ。 当時の私は張さんが何者かもわからず、(失礼ながら)面白いおじさんだと思って話をしていたので、後日正体を知ったとき、驚愕したのは言うまでもない。 孫正義さんとのエピソードで忘れられないことがある。 私は野球ではソフトバンクのファンで、ある年、横浜との交流戦を観戦した2日後に孫さんに付いた。スタート前に交流戦を観に行ったけどホークスが負けてしまったと話すと、孫さんは帽子を取って「申し訳ありませんでした!」と深々と頭を下げた。オーナー自らの深謝は「予想外」の出来事であった。 2020年も様々なゴルファーとの出会いが私の経験と学びになり、成長につながる一年でありたい。
この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2020年1月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ用品界についてはこちら