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  • 技術、数値管理、継承ーー。ゴルフギャレーヂの神髄がここにある

    吉村真
    1974年生まれ、長崎県出身。 パーツブランド、ゴルフ場経営、中古ゴルフチェーン、ゴルフ雑誌を渡り歩き、現在は「月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド」で地クラブの担当として取材、執筆。 国内を始め、中国、台湾、米...
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    唯一、正確な測定数値だけが基準となる。 そう語るのが、測定を極めた男・ゴルフギャレーヂ代表の中井悦夫だ。 正真正銘の“クラブチューンナップ・メンテナンス・リペア・オーダーメイド”を極めるために、 行き着いた測定器の開発と数値管理。 その管理が在ってこそ、新たなクラフトの世界が拡がる。 生業にして四半世紀を経て、継ぐ者の存在。 想いも継承されていく。

    神髄一 技術の存在が価値を生かす

    不仕合せなことに、用具販売が価格競争の激化によって多くの工房が世に表れた。大企業ブランドの用品は大量生産大量販売。大資本流通は多勢に安価を基本概念として、それを是としてきた。その潮流が生み出したのが、価格競争から距離を置いた地クラブ市場だ。パーツを組み立て適正な利益を、クラフト技術で成立させる。売り場として雨後の筍との如くゴルフ工房が表れた。しかし、それは必ずしも是ではない。  警鐘を鳴らすのが、ゴルフギャレーヂの中井悦夫だ。歯に衣着せぬ物言いだが、皆が憚ることを釈然と物申す。 「店舗で商いをしない処が散見される。業界の衰退の表れで、クラフト技術が足らないから部品だけでの販売、商いをする。道具で満足感を提供できないが故に、部品を安価に売らざるを得ない」―。  生きていくには多くを売ることが是とされる。しかし、多く売ることは必ずしも是といえるのか? 「売上上位が是ではない。部材が生きる売り方なら銘の価値は上る。しかし、数を是とすれば、その限りではない」  極論すれば、部材を作り付けて用具を成すのは、困難な仕事ではない。性能の良い接着剤さえあれば多くの場合、単純だと捉えられている。しかし、単純作業ではない。相対して一つ一つ創る。グリップ交換一つとっても、 「使い手の手のサイズや使い方の癖は千差万別。手を見て、シャフトを見て、グリップを見て、下巻きを整える」  手には厚みがある。長さもある。指と全体の対比もある。シャフトには先細りもあれば、平行もある。段もある。太さだけでも10 本の例。それを選り、合わせる。 「其処を持ち、振る。細ければ指に無駄な力みを生じ、太ければ上腕に力が入る。細すぎれば手打ち。太すぎれば捻転できない。本来のスイングに近くなるには何が必要か。どういう筋肉を使うのか。グリップ装着の方法ひとつも技術。商いの基礎になる」  ギャレーヂのグリップ交換は、10本の下巻きによる太さの違うサンプルの選択から始まる。交換作業も神経を尖らしている。 「まず、グリップ自体の装着長を計る。同じように伸ばし、同じ長さで装着する。装着時にグリップのチップが位置する部位に、下巻きをシャフトと垂直に貼る。これにより、グリップの口が拡がることがない」  長さを測り、規格を作る。それに技術が加わる。伸ばし方、入れる向き、重さ、バランス―。一つの作業に技術があるから、付加価値を生み、店で対面の商いができる。他を見て他と競う筋合いが失われる。そして、それは手間がかかる。付加価値を生むための手間。それを成し得る技。故に、量はあながち是とはならない。  中井が強調する。 「当方は世で言われる工房の成立要件とは異なる。量を追わずとも忙しく、それ以上だと人手不足。しかし、技術があるから利は多くお客は多い。それがあれば、雨後の竹の子の如く表れた売り場は死なない」  近年、ゴルフ人口は減少傾向にあり、趣味嗜好の多様化もある。量を追わずして商いを成す。肝が技であることは間違いない。

    神髄二 打ったものと売るもの

    例にもれず、ギャレーヂでの販売も試打を重要視する。ただ機械計測だけで事を済ませることはない。 「一度で決めることが間違いの始まり。決められるものではない」  それ以前に肝要なことがある。 「打ったものと売るものの違い」  そう中井は語気を強める。ゴルフギャレーヂにはウッドで試打クラブが100本以上は優に、アイアンセットは40数セット存在する。そのすべてが、自社開発した計測器たちで個体管理されている。試打クラブ、販売クラブの同一性、個体管理が肝心なのだ。シャフトの付き方、ヘッドの向き―。それら全てが明らかにされているのか。試すものと売るもの。等しい尺度、等しく精確であるのか。基になる概念に論理破綻は来たしていないのか。 「個体管理が可能な測定機材なくして、試すものと、そこから派生した売るものを作ることは不可能」  その管理は、使い手にも求められる。すなわち、試打評価表なるもので、3球のみの試打を8種類以上のクラブで数回アウトドアで行う。評価項目は多く、それなしでは、何も成せない。 「迷う時にスピン量など機械計測の数値を参考にするが、リアルロフトは何度なのか? それすら精確でなければ、何本試打しても意味はなさない」  供する側が精度高く理解していることが、全ての始まり。それが「良いもの」の原点となり、業界が健全に育つ。  中井が語気を強める。 「売るためだけではいけない」―。  そして、こう付け加える。 「戻る場所を作ること」  つまり、 「過去の数値を管理して、今に合う数値を管理する」  故に、チューンナップが成せる。過去の数値が基になってアジャストできる。 「何か不具合が起きた際、元に戻る場所があることが肝心要」  売るものを管理する。リアルロフト、フェースアングル、ライ角など、その数は無数。復元ポイントとなる。それを識ることは売る側の責務であり、クラブを渡してからがお付き合いの始まりと考える。  中井は以前、顧客である医師に言われたという。 「医療業界ではエビデンス・ベースド・メディスンという言葉があります。根拠のあるデータに基づいた治療のことです。ゴルフギャレーヂはエビデンス・ベースド・ゴルフですね」  ギャレーヂの玄関横には作業場が見える大きな窓がある。その下に開店当初から供えられた文字がある。 「クラブクリニック」―-。  正しいスイングをもとに、正しいクラブの提供。使い手、インストラクター、作り手の三者が満足を得ることが大切。そのため、以前から二人の所属インストラクターと契約し、所属以外に付き合うプロ、インストラクターの存在がある。正しいクラブを供しても、正しいスイングでなければ、中井の仕事は生かされない。インストラクションを受けるにも、 「上達が阻害されないクラブであることが前提で、スイングのパフォーマンスが最大限に生かせるようなクラブでなくてはならない。そこにも個体管理は必然」  その管理が軽んじられ、測定の精度さえ軽視されてきた風潮もある。精確に測ることの価値を見出せない処は、測定器の価値を見縊る。あまつさえ、価格に対しての認識さえ甘い。それでも中井は、「測ること」と「管理」されないことがひとつの「業界疲弊の要因」と考え、新たなメッセージを放つ。それが『ロフト・ライアングル測定器2ndバージョンevo』の精度を変えず、右専用の『ロフト・ライアングル測定器 ライトバージョン』。

    神髄三 精度を捨てず左を捨てる

    中井の想いはこうだ。 「最低限でも測る、管理する」  それが業界の民度を向上させることになる。ただ、市場が疲弊していることもあり、投資は並大抵ではない。そこで中井は「最低限」を守るため、左を捨てた。 「ウッドのフェースアングル以外で、オリジナルロフト、リアルロフト、ライ角、フェースプログレッションが正確に測定できる。ドライバーからハイブリッド、アイアン、ウエッジ、パターまで対応。そして左を捨てたことで、負担が軽くなった」  これまでの『2ndバージョンevo』は、46万2000円。それと比較して、二割五分ほど求めやすい価格になった。それでも躊躇はある。すでに工房がいう「最低限のアイアン専用の測定器」は備えているからだ。しかし、それこそが間違いの始まりだと中井は力説する。 「これまで流通している測定器と呼ばれるものはロフト・ライ角の測定時に、シャフトの側面に分度器をあてて測定し、且つアングル調整できる機材が当たり前と認識されている点です。特にスチールシャフトはステップのあるシャフトとステップレスでテーパーのついたシャフトがある。シャフト軸線と側面は平行ではない。そこには角度があって、軸線との誤差が生じる。その誤差は、ライ角やフェースアングル、リアルロフトに大きく影響する」  中井が高精度の測定を推奨するにはある想いがある。 「思うような弾道にならない。それは一流プロが持つクラブに対する悩みの根源です。しかし、クラブが曖昧な測定基準をもとに組み立てられ、調整されている。それでは、幾らやっても意味がない。だから、理に適った精度の高い測定器が必要なのです」  一般的なアマチュアゴルファーなら尚更だ。標記ロフトから掛け離れたヘッドのクラブを使い、その標記の間違いに気づかなければ、いつまで経ってもゴルファーは自己の技術力の低さを上達しない理由だと思い込んでしまう。ゴルフが上達せず、プレー継続の妨げとなる。その意味でも、正確な、そして論理の破綻を来さない測定器の存在意義は業界全体において、有意義であるといわざるを得ない。 「購入できる価格であることも重要だと思います」  それを左利き用クラブの測定を省くことで、求めやすい価格に落とし込んだ。 「最低限のスペックだけでも精密に測定、管理する」  いま工房は苦しんでいる。海外の大手クラブメーカーの勢いに負け、クラブの組み立て販売に苦戦している。苦戦の理由はほかにもある。中井に言わせれば、 「売るためのクラブ作りをしている。ゴルファーのためのクラブ作りではない」  精確な、理に適う測定ではないから、拠り所もなく、アフターフォローも儘ならない。それが故に、 「他で組んだクラブが正しく組まれていないという話が、業界中で後を絶たない。それが問題であるのは周知」  だからこそ、中井は妥協を許さず「偏屈」といわれても、目を背けず、戦いを挑んでいる。しかし、中井は寄る年波には勝てないとも零す。測り、管理することの重要性を必要最小限でも啓蒙しながら、クラフトマンとしての終活への仕込みも必然となった。そこには思わぬ伝承者が表れた。

    神髄四 一子相伝にあらず継承は数値

    昨年3月、パシフィコ横浜で姿を見せたのが、中井悦夫の愛娘、竹美である。専門学校を卒業後、美容師となった。それから十年。ホテル美容室の実質店長といわれるマネージャーまで昇進した。しかし、好きが故に苦労も絶えない。結婚を機に、美容師を引退。家業を継ぐ決心を告白した。  もちろん、中井には弟子がいる。中井に師事した門下生は10人を超え、業界でも独立し盛業中の組織化された実績もある。しかも、確固たる技術を有した店にゴルファーが集約される傾向も顕著だ。 「それぞれが忙しくさせてもらっていて、彼らには彼らの道がある」  竹美は負けん気の強い女性である。チャーミングでありながら、そう見える。大阪商人の素養も持ち合わせる。ただ、だからといって、愛娘だからといって、継がせることではない。中井悦夫の継承は、計測であり、管理である。それは精確な数値として、後継ぎにも寸分の狂いもなく引き継がれる。だから、継承が成せる。  もちろん、クラフトやフィッティングの技術などは修業が必要だ。数値を管理できても、具現化する技は一朝一夕に身につかない。それでも家業を継ぐには、職人を生業にして生きてきたもの同士の共鳴に他ならない。それは、技の価値であり、職人としての誇りでもある。それが求められることへの答えでもある。 中井が締めくくる。 「使い手に最善の結果が表れない道具は、作り手や売り手の存在価値が薄れ、我々の商いは必要でなくなる。ただ、我々は量産品に満足しない人たちの受け皿となり個別に設える窓口。求められることに応えることが存在意義」―。  開業から四半世紀を超え、測ることと管理することから寸分もズレない。業界が正しく成長するために、中井の学びと、その啓蒙はまだまだ続く。〈敬称略〉
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    続けてほしけりゃ放牧すべし
    2024年05月06日
    リサオ
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