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コロナ禍と大学授業 ―ゴルフ授業再開へ向けてのガイドライン―

ニュース 北徹朗

停滞する経済に追い打ちをかけたコロナ

いわゆる団塊の世代が2018年から「健康寿命」に到達しはじめています。人口ピラミッドでの分厚い層(200万人出生世代)の最後の塊が健康寿命に達するのは2023年です。私はこれを「18‐23問題」と定義して、5年以上に渡りゴルフ業界に対して解決策とともに警鐘を鳴らしてきました。

今日、一般企業においても雇用環境は厳しさを増しています。上場企業の昨年(2019年)の早期希望退職者募集数は前年の3倍増の35社、8000人を超える事態となりました。具体的には、オンワードHD、ダイドー、オンキヨー、ファミリーマート、LIXILグループ、ノーリツ、味の素、サンデンHD、スペースシャワーネットワーク、日立金属、レナウン、東芝、中外製薬、鳥居薬品、コカ・コーラボトラーズジャパンHD、アルペン、カシオ計算機、等々。対象が45歳以上とされている場合が多く、私と同世代の多くの人が決断を迫られています。

東京商工リサーチが7月3日に発表した2020年上半期(1~6月)に早期希望退職者募集を実施した上場企業のデータを見ると、現点で41社となっており、2019年1年間の件数(35社)を既に上回っています。

大学市場も確実に縮小する

大学業界では長く「2018年問題」が言われてきました。2年前にその渦中に突入したものの、一見、平穏な日が続いています。しかしながら、この状況はさらに深刻になることは数字が示しています。大学の再編・淘汰の波は、今後数年以内に確実に大きくなっていくものと思われます。

これよりも先に、想像していなかったコロナ禍が来てしまいました。企業のコロナ倒産が相次いでいるのも報道されている通りです。戦後最大の経済危機は避けられないとされる中、大学市場への影響も早まることは必至でしょう。現在の60代くらいまでが社会保障の「逃げ切り世代」と言われてきましたが、それももはやもうどうなるかわかりません。まして、私の様な40代以下の世代の老後は、今とは全く異なる発想で生きて行かなければならなくなるのではないでしょうか。

社会情勢が厳しくなれば大学受験者も減るでしょうし、大学で行われる授業の内容や、教員の質にもますます厳しい目が向けられるようになるでしょう。どんな科目が必要で、何を学ばせるのか、ということを、より明確なものにしておく必要に迫られると思います。

「●●のためにゴルフを」は本質的でない

私は、ゴルフ業界で散見される「社会人がマナーを身に付けるためにゴルフをしよう」とか、「認知症にならないためにゴルフをしよう」といった訴求の仕方に批判的です。これらの価値は、体験者自身が決めることであり、オーソリティが押し付けるようなものではありません。

「ゴルフの本質」(単純に広大な場所でボールを打つ楽しさ)を体験できる「環境」(ゴルフ場での遊び方のバリエーションを増やすこと)をもっと考えるべきであり、それ以上のことに踏み込むべきではないと思います。実際、前述のようなお題目を掲げた施策をいくつも目にしますが、一時的に賑やかされても、ゴルフ市場活性化という大枠では上手くいっているとは言えません。

大学体育授業でも同様です。大学には「体育科目はコミュニケーション力向上が主目的だ」とか「健康や生涯スポーツの推進のための科目だ」という主張があります。しかしながら「●●のために」というスポーツ論は本質的ではありません。
ゴルフは隆盛期においても「仕事や付き合いのため」とか、あるいはゴルフはしないが「投機目的での会員権購入」など、「●●のためのゴルフ」という考え方で発展してきた一面があります。現在のゴルフ市場活性化策の動きを見ても未だに「●●のためにゴルフは役に立つ」という発想に頼ろうとしている部分があるように感じられます。

敢えて言いますが「役に立たないゴルフ」をするためのゴルフ場が、日本の狭い国土にこれほど多く(約2200か所)あることは素晴らしいと思います。いま「ビジネスとアート」の思考や切り口で解説された類いの書籍が売れているそうですが、成熟した社会においては、これまで「役に立たない」とか「無駄」と見られて来たようなモノや場所が見直されたり、尊敬されたりしています。

大学には実社会ですぐに役立つと言われることの多い、医学部や法学部、工学部などがある一方、すぐに役立つとは考えにくい美術や音楽学部などもあります。例えば、アートセラピーを引合いに出して「美術は医療に役立つんですよ!」と学生を集めようとしても、美大への受験動機にはなり難いでしょう。「何かの役に立つから」ではなく、楽しい、気持ちいい、好きだ、上手くなりたい、など、そのものの感覚やイメージが逆に価値を高めています。

大学学部の一般的なイメージ

ゴルフの場合も「すぐに役立たないから素敵なんだ」というスタンスであるべきだと思います。ゴルフ場での遊び方のバリエーションを増やして、ゴルフに取り組みやすくすることで体験者が増えれば、彼ら自身がゴルフの付加価値をそれぞれ見出してくれるようになるのではないでしょうか。

ゴルフ市場活性化策も大学体育も、何かの下請け的な目標を掲げるのではなく「本質の追求」を目的にするべきだと思います。

「スポーツそのものの魅力を学ぶ科目」であるべき

Zoomによるゴルフ講義(2020年7月、自宅より)

仮に「体育はコミュニケーション力を高めるための授業である」という内容が主要目的であるとすれば、教材はゴルフでなくても達成可能です。バスケットボールやバドミントン等々でも密なコミュニケーションは生まれるでしょう。極論すれば、体育でなくても音楽でもよいのかもしれません。個々での練習、息を合せて合奏や合唱をしたり、間や空気も読まなければなりません。それなりに体力も使います。我々、体育教員が好んで使う言葉である「ノンバーバル・コミュニケーション」(非言語コミュニケーション)の機会もあるでしょう。

近年では経産省の「社会人基礎力」について、体育科目に限らずシラバスにもそれの要素のいずれか記載することが推奨されています。しかしながら、例えばゴルフの授業で、
・「ゴルフの打ち方を覚えたから、いつかコースに出たい」
 と思う学生と、
・「ゴルフは全く上手くならなかったけど、社会人基礎力がついた」

という学生のどちらを育てたいでしょうか。運動技能は向上すること自体に楽しみがありますし、技能を修得すれば世界が広がり、人と交流する機会も増えます。スポーツを継続すれば、自ずとコミュニケーション能力も高まり、社会人基礎力もつくのではないかと思います。

私が教授を務めている、武蔵野美術大学身体運動文化研究室では、科目の目的、授業の目的、到達目標など、研究室である程度は方針を示すことが必要だと考えています。大まかな科目の方向性はありますが、本学に限らず、各授業については基本的に授業担当者に委ねられています。大学によっては週替わりで異なるスポーツ種目をやらせる授業もありますが、大学体育は「スポーツそのものの魅力を学ぶ科目」であるべきですし、1種目を15週に渡り実施されることが望ましいと考えます。なお、フィットネス系科目については「健康のため」という目的でよいと思っています。

オンライン授業は手探り状態

Zoomによるゴルフ講義(2020年7月、自宅より)

高等学校以前の体育の印象や思い出は、大学体育の履修有無やイメージにも影響を及ぼします(北、2020)。特に、学校体育で扱われてきたような種目や内容(バスケットボールやバレーボール等々)には、拒否反応を示す学生も多くいます。ゴルフの場合、学校体育で殆ど扱われないため、9割以上の学生がゼロからのスタートであることや、個人での取り組みが中心であったり、運動強度も高くないことから、手を出しやすい授業であると感じています。

本学では、ゴルフに限らず2020年度前期の体育実技はZoomによるオンライン授業で実施しましたが、全体的に見ても【体育実技】と言うにはほど遠いものだったと思います。すなわち、限りなく講義(スポーツ論)に近かったということです。単にスポーツ論であるならば、私たちの科目群(研究室)を独立させて置く意義も薄れてくるでしょう。多くの大学では、スポーツ科目群と教養科目群は分けられていますが、教養科目群の中でスポーツに触れる講義が幾つかあれば充分だ、ということになりかねません。

現在、大半の大学では、オンライン授業に切り替えて授業実施が行われていますが、環境整備が不十分であったり、オンライン環境での教授方法が確立されていない中での実施となっており、まだまだ手探りの状態です。こうした課題改善への糸口を探るため、今月(2020年8月8日)、大学教養体育研究者が集い、オンラインでの実技授業を通して体育の本質に触れるためにはどのような方法があるか、Zoomでのウェビナー開催(大学教養体育研究会、代表:小林勝法文教大学教授)が予定されています。

武蔵野美術大学ゴルフ授業のCOVID‐19感染防止ガイドライン

授業再開に向けてフェイスシールド500枚を準備

緊急事態宣言の解除後、地方では既に対面授業に戻している大学が多くあります。東京の大学においても今後徐々に対面に戻されていくとは思いますが、第二波、第三波が確実視されていることや、東京都は感染者数が全国で一番多いとされる地域のため、感染防止対策には細心の注意を払わなければなりません。

国や団体のガイドラインを参考にしつつ、エビデンスに基づく対応や、本学の教場環境や受講定員数に応じた対応を検討中です。また、フィジカルディスタンスを保つ等、従来よりも授業展開にも工夫が必要になります。以下、8月4日に再開されるゴルフ授業に向けた『武蔵野美術大学ゴルフ授業のガイドライン』の概略を紹介したいと思います。なお、8月の授業は学内グラウンドで行われる通信教育課程スクーリング(集中授業)となっており、9月からの後期授業においても基本的には以下の方針が踏襲される見込みです。

〈授業開始時〉
1)非接触型体温計を用いて全学生を検温する。
2)37・5度以上の発熱が見られた場合、10分程度時間を置いて※再度計測する。二度目の計測でも37・5度以上の場合は保健室に連絡後、直ちに帰宅させる。
※真夏の高温環境下で登校直後の場合、体温が一時的に上昇している可能性もあるので、10分程度置いて再度測定する。
3)「味覚および嗅覚」のチェック項目に「あり」と回答した学生は保健室に連絡後、直ちに帰宅させる。
4)これ以外のチェック項目への「あり」については、学生の体調に応じて見学などの対応にする。
5)新型コロナウイルス感染症は学校保健安全法の「学校感染症」に新たに指定されているため、帰宅させたり出校停止をさせた学生がいた場合、学生に不利益のない様に対応する。

〈教室での授業時〉
1)教室で授業実施の際には、前方2列は使用しない。そして隣と2席の間隔を空けて座るように指示する。
2)教室での授業実施の際にはZoomも併用し、オンライン受講者の受講場所は自由とする。
3)教員は常時マスクを着用する。対面接近の際にはフェイスシールドも併用する。
4)パソコン操作卓および教卓には飛沫飛散防止のための遮蔽ボードを設置する。
5)移動の際にはフィジカルディスタンスを徹底し、授業前後の手洗いの励行を促す。

〈学生の更衣室〉
1)更衣室は5名以上の同時利用はしない。満員の場合はフィジカルディスタンスを取って室外で待たせる。
2)更衣室内のロッカーは使用禁止とする。ロッカーは体育館内廊下のものを使用させる。
3)更衣室では感染防止の対策として私語厳禁とする。
4)更衣室内のシャワーは感染防止の観点から使用できる数を制限する(男子:2台、女子3台)。そのため、シャワーの利用は極力控えさせる。希望する学生には使い捨てのボディタオルを提供する。
5)シャワー使用の場合は5分以内とし、シャンプーや石鹸の利用は不可とする。
6)更衣室内には換気のために扇風機を設置している。ロッカー上方へ向け、換気するようにセットされているので、風向は変えない。
7)更衣室の使用時間の重なりを避けるため、授業ごとに更衣室使用時間を下記とする。
・フィットネス 9:30~ 9:45
・テニス 9:45~10:00
・ダンス 10:00~10:15
・ゴルフ 10:15~10:30

〈グラウンドでの実技授業の展開〉
1)説明等を聞かせる場合はマスク着用、運動実施の際はマスクを外すよう指示する。(運動時のマスク着用はサチュレーションが低下する恐れがあり危険であるため)
2)教員各人は基本的にフィジカルディスタンスを保つ授業展開の工夫をして頂きたいが、学生同士の対面距離が短いなどの懸念がある場合は、学生にフェイスシールドを着用させても構わない。
3)また、学生が不安を訴えた場合、大学で準備しているマスクやフェイスシールドを提供しても構わない。
4)外出自粛により例年に比べて暑熱順化ができておらず運動不足も顕著であると思われる。熱中症になりやすい状況なので、緩やかなプログラムでの授業計画が望まれる。但し、「いい加減な授業」にならないよう計画性と緊張感をもって行う。
5)クラブはナンバリングし専用クラブを決めさせる。授業中に学生同士でクラブの貸し借りや交換はさせない。
6)授業準備(仕切りネットによる打席づくり、マット、ボールカゴ準備)の際には、軍手を着用する。準備が終わったら使用した軍手は洗濯カゴに入れさせる。
7)打ちっ放し練習の際、ボールはクラブまたは足で扱う。
8)簡易ラウンド時についてはホールアウト後、ボールは手でピックアップ。ラウンド後よく手を洗わせる。
9)教員はマスクを着用する。個別指導などで接近する場合はフェイスシールドも併用する。
10)グループ活動やラウンドの際には、フィジカルディスタンスを充分に確保させ、大声での会話は控えるよう指示する。

〈授業後の後片付け〉
1)ボール拾いの際には、新しい軍手を着用させ拾わせる。授業内で二度三度とボール拾いの時間がある場合は、その都度、新しい軍手に替えさせる。授業終了時の最後のボール回収の際には、回収後、軍手をはめたまま仕切りネットなど打席の撤収も行わせ、使用済み手袋を回収カゴにドロップさせる。
2)片付けの際には、学生にクラブのグリップの消毒・拭き取りを各自行わせる。消毒作業の際には、使い捨てのビニール手袋を着用させ、噴霧された消毒液をタオルで拭き取らせる。
3)タオルと軍手は洗濯・乾燥して使い回すが、洗濯が間に合わない場合は新しいものを使う(大量購入済)。
4)雨天時や暑熱回避のため屋内施設で授業を実施した場合は、床に消毒液を噴霧し、使い捨てのモップ(ダスター)で拭き取る。
5)授業後には「手洗い」および「顔洗い」の励行を促す。
6)汗を拭くための使い捨てタオルやウエットティッシュ、ペットボトルなどのゴミは感染防止のため持ち帰らせる。
7)他の授業と終了時間が重なった場合、更衣室が混雑する可能性があるため、5名以上の入室を避け、順番待ちをするように促した上で終了する。(後期授業では終了時の更衣室使用時間を授業別に定め更衣場所を増設予定)

体調チェック表

武蔵野美術大学では、体育科目を含む「文化総合科目群」(全学共通科目)は2020年度後期もオンライン授業の継続が決まっています。但し、体育実技科目のみ、感染防止対策を充分に講じた上での対面実施許可を得ており、オンライン型授業と対面型授業の混合(ハイブリッド型授業)での運営も計画中です。慣れない状況が続きますが、ゴルフ授業がさらに進化するよう、工夫して行きたいと思っています。

※注:この記事は2020年7月15日に書かれており、誌面発行時のコロナ情勢により状況が変わっている場合があります。

■参考文献
・北 徹朗(2020)カリキュラム過渡期にみる教養体育の在り方についての学生の意識―選択科目化直後における必修再履修者と自由選択履修者が混在するクラスでの調査―、大学体育115号、pp.94–97
・北 徹朗(2018)ゴルフ産業改革論、(株)ゴルフ用品界社


この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2020年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

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北徹朗

北徹朗

<現職>武蔵野美術大学身体運動文化教授・同大学院博士後期課程兼担教授、サイバー大学IT総合学部客員准教授、中央大学保健体育研究所客員研究員、東京大学教養学部非常勤講師

<学歴>博士(医学)、経営管理修士(専門職)、最終学歴:国立大学法人東京農工大学大学院工学府博士後期課程

<主な社会活動>ゴルフ市場活性化委員会委員(有識者)、公益社団法人全国大学体育連合常務理事、一般社団法人日本運動・スポーツ科学学会常任理事、日本ゴルフ学会理事・代議員、日本ゴルフ学会関東支部事務局長、一般社団法人大学ゴルフ授業研究会代表理事

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