「脱・神の手」が新たなミウラ主義? 鋳造飛び系で新境地開く三浦技研

「脱・神の手」が新たなミウラ主義? 鋳造飛び系で新境地開く三浦技研
笹生優花の2週連続優勝で、三浦技研では笹生フィーバーが続いている。彼女が使用する軟鉄鍛造アイアン『TC-101』のカスタム仕様は、納期2か月待ちというから嬉しい悲鳴だ。 その三浦技研は10月23日、「もっと飛距離が欲しい」「もっとやさしいアイアンが欲しい」というニーズに応えてラージサイズ&ディープポケット形状の『EI-801』アイアン(通称イージーエイト)を発売する。 ミウラといえば「鍛造の雄」だが、このモデルは鋳造ボディで「飛び系」というのが興味深い。同社リリースにはこうある。 「『Easy-8』は『ミウラらしくない』と言われるかもしれません。ヘッド開発のきっかけは、 当社スタジオに来ていただいた特定カテゴリーのプレーヤーのフィッティングデータにみられる飛距離の低下や、ミスヒットの多さなど共通の悩み事に着目したんです。 それらのプレーヤーへ、最適なヘッドを提供できないか? という考えからスタートしました。 『打感』『形状』に強いこだわりのある軟鉄鍛造のミウラが『飛距離』と『やさしさ』を最優先し、鍛造製法では作ることが出来ない形状にミウラらしさを盛り込んで届けます」――。 そこで同社は『Easy-8』の使用者層を明確化して、ヘッドスピードが 38m/s未満の低速域をターゲットに据えた。この層の特徴は、飛距離を求めるあまりすくい上げて打とうとする意識が働き、フェース面の下部でヒットするケースが多く、ミート率の低下に加え打球の高さが確保できない。 その結果、飛距離ロスが大きくなる傾向があるという。 そこで『Easy-8』は同社史上最大ソール幅(30㎜)の超低重心&ハイロフトでワイドスイートエリアを実現。ソール面には形状にこだわるミウラらしいショートディンプル形状を施し、振り抜きの良さをもたらしたという。

対象者を広げるミウラの狙い

素材にもこだわっている。フェースには飛び系アイアンで使用されるカーペンター社のバネ鋼を鍛造でつくり、ボディ部分は8620軟鉄を精密鋳造している。 ロフトはハイロフト設定。#6アイアンでロフト角は24度、以下、#7=27度、#8=31度、#9=35度、PW=40度、GW=45度の設定となっている。 リリースの最後を次のように締めくくっている。 「今回は数多くのフィッティング データを基に『飛距離』と『やさしさ』を最優先とし徹底研究したひとつの結論が『Easy―8』です」 ミウラのアイアンはアスリートの使用者をイメージするが、同社は今後、「初心者からアスリート、プロまで」をターゲットに対象者の領域を広げる構え。 特徴は「ミウラらしくない」という点だが、その「らしくない」に多くの工房が期待しているようだ。リフレックスゴルフ(愛知県春日井市)の丸山恭生代表は、 「ミウラとしてはメインの製品ではありませんが、そこへのチャレンジは興味深い。シニア、飛距離減退傾向のゴルファーは確実にいるので、ミウラのアイアンの中に1モデルくらいあっても良いと思いますし、期待できますね」 これに同調するのは、練習場内で工房を営むゴルフバーン(埼玉県川越市)の吉井謙一代表だ。 「今回の『Easy-8』はシニアだけではなく、女性もターゲットになります。大手クラブメーカーの飛び系アイアンはグースが強くて違和感を持つゴルファーが多い。 一方で『Easy-8』はストレートなので、引っかかるイメージはないけど、しっかりとつかまる。こういうチャレンジは必要だと思いますし、遊べるアイアンになるはずです」 さらに吉井代表は、『Esay-8』は三浦勝弘会長の「色」を脱却する狙いがあるのでは、と憶測する。 「これまでのミウラの鋳造アイアンは三浦会長のデザインを意識したものが多かった。今回は異例だし、会長のデザインからの脱却も意図しているのかとも思います。想像ですがね(笑)」

親子の葛藤があった?

同社にとって鋳造ボディのアイアンは初ではない。直近では2018年の『IC-601』が鋳造の中空構造ボディと、弾き系素材455カーペンター特殊鋼をフェースに用いたアイアンだった。 当時、三浦会長が減退した飛距離を補うために作ったモデルだ。2017年の『CB-2008』も鋳造ボディだったが、ともに見た目はミウラのアイアンと一目でわかる形状だ。 三浦信栄社長は過去の取材で、鋳造製法について次のように語っている。 「10年ほど前、中国の鋳造工場で、あるドライバーの金型を見たんです。その金型は細かく分けると16パーツに分かれていた。一方で鍛造製法は基本的にこの何十年も変わっていない。鋳造製法にチャレンジすることで、新たな鍛造の可能性を見出したいと思ったんです」 それが今回の『Easy-8』につながっていることは間違いない。同氏はさらにこう話していた。 「このまま40~50歳代のゴルファーだけをターゲットにモノづくりをしていても将来は不安です。なので初心者から上級者、プロまで対応し、老若男女に受け入れられる方向性は大事。 打感や見た目より、結果重視のゴルファーにも対応していかなければなりません。軟鉄鍛造ではクリアできない寛容性を持たせながら対応していくことも大事なんです」 もちろん、社内には葛藤があったという。 「会長からすれば、アイアンは飛距離を刻むものなんですよ。飛距離が衰えたからと言って、ロフト立てて飛ばせば良いというものではない。そんな考え方だったから、当時は会長のその意識を覆すのには時間がかかりました」 信栄氏が社長に就任して10年。新たなチャレンジは、鍛造だけでもなく、上級者だけでもない。「らしくないミウラ」への挑戦が、ニューノーマルを生き抜くミウラの知恵なのかもしれない。 [surfing_other_article id=63200]