原点回帰――。 四半世紀の歳月を経て、新たな時代を創っていく。『カムイプロ300』のように上級者に向けた『カムイプロ』、そして万能を提供する『タイフーンプロ』――。
その時の流れのなかで、10年ぶりの『カムイプロ』が世に問われる。その名も『KP―01』――。歴史を顧みて、現代の最新技術を駆使する。変わらないことの良さ、変わることの良さ。そこにカムイの神髄がある。
遺風と革新 転ずる意義

四半世紀――。それが史実である。中条の業容が転じた瞬間。メーカーへの変身。世に問われたのが『カムイプロ300』。素材が変わり、新世界への船出の時期だった。土地柄、加賀百万石の殖産興業として発展した金属の業。鍛造で、そして上級者に向けたモデルが「カムイプロ(KP)」だ。以後、『カムイプロ310』『カムイプロ320』『カムイプロV』と系譜を繋ぎ、そして2011年の『カムイプロKP-X』と時代は流れる。
一方で、皆に受け入れられる鋳造の「タイフーンプロ(TP)」が2002年に生を受ける。以後、ブランドは鍛造で上級者に向けた「カムイプロ」と、鋳造で使い手を選ばない「タイフーンプロ」の両輪。そして時流とともに、幅広いゴルファーに好まれる「タイフーンプロ」を求めるゴルファーが多数を成した。
「『カムイプロ』は上級者に好まれ、ゴルファーを選ぶ。翻って『タイフーンプロ』は一発の飛距離。ともに飛距離を追求するものの、その意味するところは異なる」
そう、中条将也が静かに口を開いた。それでも中条が飛びの根本とする理論、「低重心比率60%以下」、「低スピン化」、「飛ぶボールは捉まるボール」ということは両者変わらない中条の拘り。求め方の隔たりが両者の味となる。とはいえ、10年ぶりの『カムイプロ』。何故にいまなのか。

開発に命を懸ける中条恭也が語気を強める。
「新たな時代を創る」――。
過去十余年、もの創りは困難を極める。素材が変わらず、体積にも限りが付けられた。反発性能も抑えられ、重箱の隅を突くことでしか、進化を進められない。故に、過去を顧みて俯瞰し、不全を補う。
「この数年、発売した製品には長所も短所もある。必要十分であるが、敢えていうなら、それはカムイのプロダクトとしては満足ではない。足らないのは遊び心」
これまで半世紀の間、稼業を引きいてきた中条佳市が何度も繰り返す言の葉がある。
「飛ばなきゃ、ゴルフは面白くありませんよ」
ゴルフ規則に雁字搦めにされ、翻弄された歴史。それだけではない。開発したいという欲を鎮めることなく解き放つ。その感情に従えば、相応しく変わることができる。正統派でありながら、新たなプロダクトを提供する。世界は未曽有の新型コロナウイルスに侵され、ゴルフ市場は混沌として実業も思う通りに行かない。しかし、手を拱いていては、存在の意義はない。故のチャレンジから生まれたのが『カムイプロKP―01』。
「そもそも『カムイプロ』がメインのプロダクト。故に、過去を踏襲しつつ、味付けをし、ストーリーを覆していく。それが中条」――。
伝統の形状でありながら、叩けるヘッドでありながら、必要なのは寛容性。時代と共に変わる上級者をターゲットに据える。その中条の開発力が神髄となる。
ボールひとつ分の重量 軽量ということの善

『KP-01』に求めたのは「カムイプロ」の形状であり、上級者が渇望するヘッドのやさしさ。開発の手法は千差万別だが、何を成すにも必要としたのが、常軌を逸した軽さ。それなしには、これまで積上げてきたノウハウも役に立たず、それの軽量化に挑むことも阻まれる。
「当初は付加する重量物以外で150gのヘッド重量を目指した」。
敢えて苦難の道を選ぶんだ。限りない余剰重量を生みだすことがはじめの一歩だった。それが成せれば、「カムイプロ」の姿でありながら、理想の重心の位置も探ることができる。製造の技術も進化している。
「10年前、『カムイプロKP-X』の余剰重量は12gしか生み出せなかった」――。
素材が変わり、加工技術も進歩を遂げた。トライ&エラーが繰り返される。軽さは薄さであり、薄さは鋳造でのチタンの湯流れが影響する。協力工場が音を上げる。それでも諦めることなく、薄く軽くても加工後の金属組織の均一性も求められる。
故に、「鋳造ボディの金型の湯口は多い」――。
常軌を逸した軽さと製造技術の乖離。しかし、開発は実際162gという常識と乖離した目方から始まる。
「成功するのは五分五分。しかし、肉厚が薄いゆえに耐えられない」

素材選びにも拘る。フェースに使えば弾きの強い「DAT55G」。しかし、比重は4.72と重い。選ばれたのは「ジルコニウムチタン」。比重は4.6。鍛造カップフェースで芯を広げるため、フェースの重量は全体重量の多くを占める。
「フェースの素材だけでも、差は4g。だからジルコニウムチタン」
それだけではない。上級者が求める打感。そして弾き過ぎるフェースの抑制。「DAT55G」は、ゴルフ規則の規制内に納まり辛い。それもジルコニウムチタンを用いた理由。吸い付く打感も上級者は重きを置く。
軽さは薄さだ。歴史を振り返れば、過去の「カムイプロ」はフェースもボディも鍛造だった。しかし、変わることを厭わず、『カムイプロKP―01』のボディは鋳造。軽量化を求めて、変化を是とする。それだけはない。ボディは湯流れを鑑み、比重も「6-4チタン」より軽い「Ti811」を採用した。そして、軽量化のためにケミカルミーリングも試みる。幾度となく挫折もあった。それも最終的には幾分かの余剰重量を勝ち取った。
生まれた余剰重量は31g。施せる技術、ノウハウは格段に広がる。そして、その余剰重量を大胆にもヘッド後方外側に配置した。想い描いた重心の位置を創るために。低く、深く――。
ヘッドの外側に重量を配置する不利もある。それはボディの剛性だ。しかし、そこでしか得られない重心位置がある。それは変わりつつある上級者が追い求める飛びの質。それを満たすのが「カムイプロ」の本分。そして上級者と対峙してきた中条の存在意義。そして、新たな飛びを提案する。故に、軽さは善。ひとつの、そして最大の答えだった。
棒球をつかさどる 直線上にある3つの点

カムイのヘッドの理想形は丸い顔。想起するのは太鼓の膜。それが「カムイプロ」の原点。当然、ゲンコツ型の形状でディープフェース、ディープバックのヘッド。だからフェースが占める重量は全体重量の多くを占め、結果、重心は浅くなる傾向が強い。ただ、全くもって浅重心を否定するではなく、
「強い球になるが、寛容性が乏しい。ディープフェース、ディープバックは一見、シビアな道具になるが、その形状を覆す機能的な易しさが必要」
それが軽量化で生み出された31gの余剰重量を「パワーアンカーウェイト」としてソール後方のディープバック部分に配置して低・深重心を実現。ただ、疑問は残る。徹底した低・深重心であるならば、ソールの最後方部が理想のウエイトを配置する場所だ。
「ただし、低・深重心でも上級者が好む棒球も追い求める。それを成立させるためのウエイトの場所」
重要なのは、フェース面上の重心、ヘッド内部重心、そしてディープバックに配されたウエイトの3点を、一直線上に配置する。飛球線のベクトルと、ヘッドが動くベクトルを一致させる。
「これによってボールへの力を余すことなく伝え、より遠くへ運ぶ。そして、寛容性も進化する」
それ故の軽量化であり、余剰重量であり、素材であり、ウエイトの配置である。伝統的な形状のなかで、想い描く重心の位置を実現する。二律背反を覆す。過去にもある。ゲンコツ型だが寛容性の高い『タイフーンプロTD―09D』、そしてシャローフェース、シャローバックだが強弾道の『タイフーンプロTP―09S』。愛好者や工房が知る、姿と性能の不一致。面白みでもある。
元来、ゲンコツ型は操作性に長けている。さらには、浅重心はエネルギー効率が高い。その常識に逆らい、深い重心でも飛距離を求める。それはカムイの、そして中条に課せられた責務。浅重心と異なる初速の創り方。それを実現したのが『カムイプロKP―01』。
加えて、深い重心特性はヘッドの慣性モーメントを増大させる。ミスヒットに強い。3点を一直線上に配して、ヘッドの挙動を安定させる。
「上級者でも最近は、余計な挙動を嫌うゴルファーは多い。大型ヘッドにあったスイングに変わってきた事情もある」
ただ、これまで培ってきたノウハウ、技術力を駆使してもなお、ゴルファーには分かりやすい性能表現が求められる側面もある。
「ウエイトの場所は、重心角にも影響する。24度の重心角は叩くと程よく捉まる。意識せずとも自ずとフェースはスクエアを向く。ゴルファーにアレコレ考えさせることなく」
時代の流れとともに、ゴルファーも変わる。それに応じて理論も変わる。変わることの善、変わらないことの善。いま新たな時代が始まろうとしている。
蜂巣と窪み 強靭なボディ

一方で、31gのウエイトはボディの外側に配置されている。故に、ボディの剛性が懸念される。ウエイトが配されたディープバック部分の肉厚は0.5㍉。軽量化を目指した故の厚さでもある。そこに31gのウエイトは、衝撃を助長する。そこへの答えが蜂巣。ハニカム構造。ウエイトの周辺に蜂巣型の構造を散りばめる。
「隙間なく余地を埋めるのが蜂巣の構造。構造的に強靭で、受ける力の分散力も高く、衝撃を吸収する」
サッカーのゴールネットは、その昔、網の形が四角形だった。ゴールが決まるたび、衝撃が加わり破れやすかった。それ故、六角形の蜂巣型に変わった。同じ理屈に通底する。それによって、ボディの剛性が増し、翻って31gの外殻のウエイトが成立する。
また一方で、ハニカム構造は他所にも配置された。クラウンの裏側である。軽さを追い込む上で、ボディだけではなく、クラウンにも仕事をさせた。0.5㍉のクラウンは、その薄さ故に貧弱。そこに先のハニカム構造をクラウンの裏側に施す。結果としてボディの剛性も向上する。
そして、フェース側のソールに配された二つの窪み。長い溝ではない。
「左右というのが肝。横方向のボディの剛性を強めて、ミスヒット時の振動を抑え、弾道の方向性を修正する」
エネルギー保存の法則。振動はエネルギー、そして音。そこからボールへと伝わるべき力が漏れる。伝わるべきパワーが漏れれば、「カムイ」の伝統である飛距離は実現できない。ボールの潰れも良い塩梅になる。そして、飛びを感じさせる打音を生み出す。余剰重量を生み出して、絶技を練ってもボディの弱さが表れれば、上級者が望む空を切り裂く飛び姿、そして爽快感は夢物語。四半世紀に続くもの創りのノウハウ、歴史は泡と化す。そして存在意義も消える。
故に、新たな挑戦が求められてきた。
「低重心系で飛ばすのが、それこそが『カムイプロ』。そして、思いついたらやってみる。どうなるのか? それが中条カムイだし、それがそもそもの『カムイプロ』」――。
原点回帰だけでは、単なる回顧の念。過去に戻り、俯瞰する。らしさを追い求めながら、培った技で新たな時代を創る。それが『カムイプロKP―01』。敢えて『01』とした。
始まりである。そして、生まれ変わった「カムイプロ」。その形が、『カムイプロKP―01』が世に問われる。群雄割拠の現代で、創業半世紀余りの老舗の底力は、想像をはるかに超える。そこに、『カムイプロKP―01』に、誰にも模することのできない神髄がある。