「アメリカのスイング理論は変わったのかもしれません。その影響で、日本でもカウンターバランスが静かに広まっている、そんな可能性を感じます」
ノッケから、何やら難しいことを言うのはジオテックゴルフコンポーネントの桜井暢彦氏だ。同社はゴルフクラブのパーツを組み立てるコンポーネント会社の老舗であり、一般ゴルファー向けに組み立て講習会を開くなどコンポーネントビジネスの普及を図ってきた。
今年10月、カウンターバランスのウエイト交換式グリップ『スイッチグリップ』の販売に乗り出し、風向きの変化に逸早く対応した。

そもそもカウンターバランスとは何か?
簡単に言えば、ゴルフクラブの両端であるヘッドとグリップの重量配分で、スイング時におけるクラブの操作性等を整えるもの。バランスをカウンターさせることで、ゴルファー個々の最適な振りやすさを追求し、フィッティングの際に用いられる。
今回、同社が投入したグリップは4種類で、うち3タイプがグリップエンドのウエイト(重量物)を交換できる。2タイプの標準仕様はグリップエンドに2gの蓋が付いて計45g。パターグリップ1タイプは2gの蓋が付いて標準重量は80g。オプションで交換可能なウエイトが4~30gまで8種類用意されており、
「フィッティングに関わる商材の充実を図るため、米国のスイッチグリップ社(フロリダ州)と輸入代理店契約を交わしました」(桜井氏)
で、その効果はどういったものか?
「当社の計測結果ですが、ドライバーで2gのウエイトをグリップエンドに装着すると、クラブのバランスポイントは5ミリ、バット(手元)側に動きます。ノーマル状態で2g装着されているため、仮に30gの重さだと28gプラスで72ミリ重心が動く計算です。
これでスイングウエイトは7・5ポイント軽くなり、シャフトの挙動や打ち出し角への影響、さらにヘッドスピードが上がるかもしれません」
グリップの重量をいじることで、そんな効果があるという。
関西のショップで月間700本
同様の仕組みの別商品「ツアーロックゴルフ」を販売するのがスポーツティエムシーである。先の「日本女子オープン」では優勝者から3位までの選手が使用クラブの一部に採用しており、ツアー界でも広がりを見せている。
そのせいかどうか、関西の専門店では爆発的なヒットを続けているという。第一ゴルフ姫路本店(兵庫県姫路市)の入江道弘専務が人気ぶりをこう話す。
「当社の5店舗合計で、月平均700本ほどフィッティングしています。すべてのユーザーに効果があるとは言えませんが、効果を体感するゴルファーは多いですね。
量販店との差別化、そしてリシャフトやヘッド交換の次のフィッティングとして期待できる。フィッティング料は1本3000円なので利益にも貢献しています」
これまでゴルフクラブのカスタマイズはヘッドやシャフト交換が主流だったが、グリップのウエイト調整で効果があれば財布にもやさしいだろう。専門店にしてみれば、フィッティング料は「技術料」だから高い利益率が期待できる。他店との差別化にも役立つだろう。
ところで、冒頭の台詞についてである。「アメリカのスイング理論が変わった」とはどういうことか? この点について、GEWのギアインプレでもお馴染みの永井延宏プロに聞いてみた。
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ティーチングプロ 永井延宏氏[/caption]
「まず、昔は振り子型のスイングだったので、身体の正面でボールを捉えるクラブしかありませんでした。その際、クラブを比較する基準がスイングバランスだったのですが、現代のクラブは軽量化が進んだため、振り子スイングではクラブの出力は出にくいんです。
出力を出すためには、テイクバックを深くして、クラブ重量を背中で背負うイメージで体幹で振る。そうしなければクラブの出力が出にくいんですね。その時に大事なのが手元の重量感です。手元で重量を感じることで深くテイクバックでき、体幹で振れる。これで出力が出やすくなります。
その意味でグリップ側に重量を付加するのは、理に適っていると思いますね。デシャンボーの太いグリップも、同じような効果を狙ったのだと思います」
クラブの進化がスイングを変える。フォーティーン創業者でクラブ設計家の竹林隆光氏はかつて、「ヒトはクラブの『重心』を振っている」と語り「重心理論」の草分けとなったが、以後、日本のクラブメーカーは高反発フェースの追求に走り、米国メーカーは慣性モーメントの追求で飛球が曲がりにくいヘッド設計に注力した。
両者の違いが日米のツアープロのスイングに影響を及ぼし、永井プロが指摘する「体幹で振る」が主流になった。その結果、カウンターバランスが注目を集めたという流れだろう。
百聞は一見に如かず。探求心が旺盛なゴルファー諸氏、一度試してみては如何だろう。