突如登場の『VATICゴルフ』 実はキャスコの地クラブだった
大矢晃弘
1982年生まれ、神奈川県出身。
中央大学卒業後、俳優としてテレビや映画に出演してきた経歴を持つ、異色の記者。
ゴルフをこよなく愛し、2018年5月株式会社ゴルフ用品界社入社。
自分が発信する記事で、ゴル...
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どのような企業であれ、「社名」を世間に広げてPRしたいのが本音だろう。SNS流行りの昨今では、ユーチューバーなどインフルエンサーを起用した「売名」に、あらゆる企業が躍起でもある。
そんな折、逆に「社名は表に出しません」と強調するのがキャスコ広報担当の渡部洋士氏だ。
キャスコ地クラブ市場参入の経緯
ゴルファーなら一度は聞いたことのある社名だろう。派手さはないが、対象者を絞り込んだユニークなクラブ開発を手掛け、ゴルフボールやグローブ等の消耗品にも注力している。「KASCO」のゴルフグローブは一時、高級品として持て囃された。 その同社は11月6日、新ブランド「VATIC GOLF」(バティックゴルフ)を立ち上げる。2種類のドライバーヘッド『タイプA』(7万2000円)と『タイプC』(7万7000円)。 ヘッド単品で販売する「地クラブ市場」へ参入するが、本来なら大々的に発表したいところだろう。 敢えて社名を隠すのはどういったことか? 渡部氏の説明を聞いてみよう。 「実は、3年ほど前から地クラブ市場を攻めようとの構想はあったのです。だけど地クラブのメイン販路はこだわり派のゴルファーが集まる工房です。 当社はこれまで『ドルフィンウエッジ』や『UFO』など、アベレージゴルファー向けの『お助けクラブ』で認知されました。つまり、地クラブのイメージとは一致しない。 そこで、別事業として新ブランドを立ち上げて、キャスコの名前を出さないことに決めたのです」 世間には多くの商品があるが、中でもゴルフクラブはブランドイメージに左右されやすい商品といえる。特に米国メーカーは莫大な契約料をプロゴルファーに支払って、プロの活躍により自社製品の優秀さと知名度の向上を目指す。 反面、キャスコは中級のアベレージゴルファーに好まれるイメージが、上級者相手の地クラブ市場でマイナスに働くという懸念があった。それを解決するために、社名を出さない選択をしたわけだ。敢えて今「地クラブ」のなぜ?
新ブランドの『VATIC』は、「VICTORY」と「AUTOMATIC」を合わせた造語で「クラブが自動的に勝利へ導く」との意味を込めた。 蛇足ながら「造語」をブランド名にする商品は多く、他社の商標権を潜り抜けるのが困難という事情もある。それはともかく、ロゴはVマークに月桂樹をあしらったもので、月桂樹の花言葉は「勝利」と縁起がいい。 「報道向けの資料には、商品の背景としてキャスコの存在に触れていますが、エンドユーザーに対しては一切社名を出しません。そのためウェブサイトやSNS、ユーチューブチャンネルなどの全てにおいてブランド専用のものを開設します」 キャスコが今、改めて地クラブ市場を攻めるのには理由がある。近年、ゴルフ市場では出来合いの「吊るしクラブ」ではなく、売り場で個々にフィッティングする販売が一般的で、そこに対応する必要性を実感したからだ。 この面で強いのがゴルフ工房。一般的には「エプロンをつけたおじさんが作業していて、なんだか怖い」という印象かもしれないが、人気の工房はフィッティングやカスタマイズ技術に定評があり、上級者ゴルファーの信頼も厚い。 「フィッティングと地クラブは不可分な関係です。近年はバルドやエポン、ロマロ、BB4といった地クラブが独自の立ち位置で人気です。その地クラブを扱う工房にはコアなファンが多いため、そこに商機を見出しました。 一部の大手メーカーもパーツ販売をしてますが、営業マンが足繁く工房を訪問しているわけではない。その一方、大半の地クラブメーカーは少人数だから工房を周りきれません。 当社は全国に営業所があり、工房と密なやり取りが可能だから、結果的にはゴルファーのささいな声も聞くことができる。その強みを生かそうとなったのです」 大手メーカーがヘッド単体を販売する際、メイン商品のサブ的な位置づけになる。一方、小資本の地クラブメーカーはそもそも人員が少ない。その点キャスコは、ゴルフ場への営業を含めて広範な営業網を敷いている。その意味で『VATIC』は、流通戦略の観点から生れた商品といえるかもしれない。2つのヘッドをラインアップ
「タイプA」はネックを長く、ロフト・ライ角の調角が可能なオールチタンヘッド。基本的には工房を経由してキャスコの工場で調角する。 一方、「タイプC」は可変構造で、ゴルファー自身が調節できるカーボンクラウンとチタンの複合ヘッド。 「工房とは相思相愛を目指し、量販店との差別化を提案します」 取扱店は同一商圏で1~2店舗に絞って競合を避け、まずは工房・専門店を中心に80店舗、その後100店舗への供給を目指していくという。 コロナ禍に揺れた今年、多くのクラブ工場が集まる中国で生産がストップ、結果的に「在庫調整」の役割を果たし、販売量を追求する従来の手法が通用しなくなっている。 「量よりも利益」を重視するためには、ゴルフ熱が高い顧客が集まる工房が最適地。キャスコの地クラブ戦略は、そんな世相を反映している。昨日多く読まれた記事TOP25
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