工房探訪 ゴルフ工房バーン 元美容師のクラフトマンは 右脳左脳を使ってギアを診る

工房探訪 ゴルフ工房バーン 元美容師のクラフトマンは 右脳左脳を使ってギアを診る

中古チェーンの修理を受けて信用と新規顧客を作る 

ゴルフ工房バーン 埼玉県川越市。関越自動車道の川越ICと三芳ICの中間地点で営業する練習場・トミーゴルフプラザ。その駐車場片隅のプレハブで営業するのがゴルフ工房バーンだ。代表でクラフトマンの吉井兼一氏は、元美容師という経歴。30歳で独立して美容室を経営し、独立時にゴルフにハマった。 「自分の美容室を持ってからケガの少ないスポーツをしようとハマったのがゴルフで、道具を自分で改造するため、個人でも工具が購入できるジオテックゴルフコンポーネントで工具を揃えました。美容室のバックヤードが工房になっちゃいましたよ」  40歳でセミリタイアし、ジオテックのテナントショップ(埼玉県ふじみ野市)の店長を3年ほど経験。2011年に独立し、2014年からトミーゴルフプラザの片隅で営業している。 「美容師の道具はハサミですが、使い手の意向を汲んで刃先を研いでくれるプロが少なくなり、時間もかかってしまう。だから、自分でやるようになりました。同じようにクラブもリシャフトを量販店に頼むと1週間以上かかることおありました。だったら自分でやろうと。それが最初のきっかけで、仕事にしたわけです」 常連客は50人程度。紹介で新規顧客が増えているが、中古チェーンからの修理依頼を受けており、そこから顧客になるのが3割を超えるという。 「中古チェーンは製造物責任法(PL法)の問題があり、リシャフトなど修理をやりたがりません。加えて、リシャフトされたクラブの売り戻し価格は、10分の一程度と査定額が低い。それで修理依頼を当社の名前で受けて当社の名前で領収書を用意すると、あとあと屋号や住所を見てゴルファーが来てくれるわけです」  中古チェーンとの持ちつ持たれつの関係で、常連客を増やしている。

ターフの取れ具合でライ角調整を行う

[caption id="attachment_65008" align="alignnone" width="788"]ゴルフ工房バーン 取材当時は練習場駐車場の片隅だったが、現在は練習場内で営業している。[/caption] 練習場の片隅で営業するからといって、練習場をフル活用するかといえば、そうではない。 「練習場にベッタリだと、トラブルが起きたとき練習場に迷惑がかかります。なので、ほとんどフィッティングはゴルフ場です。年間50〜60回のラウンドですが、ほとんどが常連客と行っていますね」 そこで観察するのが、アイアンのターフの取れ具合。目標に対して真っ直ぐ構えていて、インパクトゾーンのクラブ軌道がスクエアな場合を前提とするが、 「インパクトで取れたターフの形を見ますね。飛球線に対して真っ直ぐなターフでも、ヘッドが抜けた時のターフの形がフェース幅に対してヒール側が短く、トゥ側が長い台形のターフなら、ヒールからヌケているということになります。ハンドアップや手首をインパクトで返している場合が多く、チーピンやフックになるケースが多いです」  その場合は0.5度刻み、最大± 1度程度でライ角を調整するという。この台形は様々な形にあり、それによって調整方法を考えるという。このターフの取れ具合には深さもあり、インパクト直前が深くヘッドが抜けた時が浅い場合や逆のケースもあり、 「ラウンド中には飛んでいったターフの形ばかり見ているかもしれません(笑)」  もうひとつ注意していることがあるという。それは、 「僕が行っているのは、フィッティングというよりミーティング。どのような弾道を将来的に打ちたいのか、ということです。常連客には、『新しいクラブを作りたいから飲みに行こう』という誘いもあるくらいで、それを一番重要視しています」  客が望むことと、工房マンが勧めること。その折り合いをコミュニケーションで解決するのは、美容師業で培った会話力だという。

リグリップはロゴの真ん中を見ずに、ロゴの余白の幅を合わせる

ゴルフ工房バーン 美容師で培った技が生きるのはほかにもあるという。それがグリップ交換だ。 「グリップを交換する時、多くのクラフトマンはロゴのセンターとグリップエンドの印を合わせますが、僕の場合は違うんです。グリップのチップ側のロゴには左右に余白がありますが、その幅を同じ幅にします。これは美容院でいうところのカットと同じですね」  カットの場合、顔の骨格はひとそれぞれだから、左右対称のヘアースタイルにするのは難しい。そこで耳の上の髪の厚みを同じにすると、左右対称のバランスの取れた髪型になるのだとか。  その時の注意点はグリップ交換もカットも同じで、 「片目をつぶって見るのではなく、両目で見るのが基本です。片目だと右脳または左脳しか使わない。それでは正しく見えていると判断できません。だから両目で見るのが基本なんです」  ターフの取れ具合やグリップのロゴの余白を見るセンスは美容師時代に培われた能力だが、感覚重視なのはデータに表れにくい領域で活躍してきたからだろう。手先も器用だというから、こんなクラフトマンが研磨師になれば、超一流になるのかもしれない。 ■企業情報 〒350-1151 埼玉県川越市今福1293  トミーゴルフプラザ内 TEL:049-293-2116 FAX:049-293-2097 http://www.golfbarn.jp [caption id="attachment_65011" align="alignnone" width="788"]ゴルフ工房バーン 2019年1月からはトミーゴルフプラザ練習場の建屋の中で営業中。[/caption] 2020年11月現在、ゴルフ工房バーンは練習場内で営業。工房も以前の2倍ほどの広さになっており、ゴルファーが店舗内で待つこともできるようになっている。また、代表でクラフトマンの吉井兼一氏は練習場連盟のインストラクター資格を取得。ゴルフ場を中心としたラウンドフィッティングが変わっていないが、現在はインストラクターとして常連客のスイングにも言及しているという。 この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2019年7月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものです。