本誌のギアインプレッションでお馴染みの永井延宏プロが9月、北海道で開催されたユニークな大会に参加した。まだ、コロナの第三波が同地を襲う前の秋口のこと。地元関係者の熱意と工夫で実現した大会だった。
ゴルフ界活性化のヒントに溢れていたので、同氏のレポートをお届けしよう。(文・永井延宏、文中関係者敬称略)
新しい形のミニ大会
思えば昨年の今頃は、ZOZOチャンピオンシップでのタイガー・ウッズ優勝の余韻に浸り、「来年はオリンピックとあわせて2回楽しめるね!」と第2回大会に期待を寄せていた。それが、まさかコロナ禍になるとは誰も想像できなかったろう。
USPGAツアーも3月から中断となり、日本ツアーは開幕戦から男女共に中止が相次いで、コロナ禍はプロゴルフ界も直撃した。
他のプロスポーツも同様の影響を受けているが、球団と契約する野球やサッカー選手とは違い、プロゴルファーは個人事業主なため、なかなか厳しい状況である。それでも自粛期間を自分のゴルフを見直す好機として、ツアー再開後に活躍している選手は多い。
現状、開催しても無観客試合が大半だが、地上波のテレビ放送だけではなく、インターネット中継やライブ配信などで視聴を楽しんでいるゴルファーも多いと思う。コロナ禍はマイナス面だけではなく、新たな視聴スタイルを普及させてもいる。
そんな状況下、この秋頃からプロゴルファーの「仕事場」として、地域密着型のミニトーナメントの話題が目立つようになった。ゴルフ場や地元企業が主催者となる大会や、ゴルフ界のインフルエンサーやプロゴルファーが旗振り役で資金を集める大会など、ツアー競技に比べると規模感はかなり小さいが、地元密着型で開催されている。
プロゴルファーにとって職場(試合)を作ってもらえることは大変ありがたいし、コロナ禍で停滞気味のゴルフイベントを開催して、地元のアマチュアゴルファーを巻き込みながらゴルフを盛り上げるのは大切な活動。コロナを機に、地元主導の大会が増えるのは歓迎すべき動きでもある。
被災、そして復興

そんな中、北海道のエムアール茨戸カントリークラブより「9月にトーナメントを開催するので参加しませんか?」との誘いを受けた。筆者の主業務はティーチングであり、北海道には毎年関東から生徒さんを連れてゆき、現地の生徒さんと交え3組程度のゴルフ合宿を行い、このコースにもお世話になっている。そんな縁で連絡を頂いた。
案内によると、9月のシルバーウィークを使って2日間の「マッチプレー選手権」を開催するとのこと。大会ポスターのキャッチフレーズには「一歩づつ前に進もう!MR(ここ)から…」とあった。
早速、GoToトラベルキャンペーンで見積もりを取ると、6日間1泊付き往復航空券込みの行程で1万7500円とリーズナブル。すぐに予約を入れて「参加します!」と返事をした。
会場となるエムアール茨戸カントリークラブはJR札幌駅からクルマで30分程度の好立地。茨戸川沿いのフラットな地形に陳清水プロが18ホールを設計したもので、茨戸CCとして昭和41年の開場後、50年以上にわたり札幌市北部の住民を中心に「一番近いゴルフ場」として愛されてきた。
ところが、2018年秋の北海道胆振東部地震により、コース内に亀裂が生じるなどのダメージを受け、一時は復興を断念して閉場となった経緯がある。
その再生に取り組んだのが、札幌で放射線医療機器のメンテナンス会社を経営する山川武だ。山川は、札幌市北24条にあるインドアゴルフ練習場のハルサンゴルフを数年前に買収し、自らゴルフ好きということもあるが、健康産業での社会貢献を理念としてゴルフ界へ進出している。
屋号としている「MR」は、山川のマウンテンとリバーの頭文字をとったとのことで、北海道の大自然への愛着も強いのだろう。
その山川が、札幌市民に愛されたゴルフ場を、練習場に続いて買収したことは地元で話題になった。一連の活動について山川は以前、
「年間3万人の地元ゴルファーが来場するゴルフ場を再生することは、市民の健康とコミュニティーの維持に繋がる。練習場との相乗効果もあるので、ゴルフを通じて市民の健康で文化的な生活に貢献したい」
との想いを語っていて、社内にスポーツ部門を創設し、ゴルフだけでなくスポーツ全般への進出準備も整っている。
その情熱を受けてゴルフ場再興の現場を担ったのが、今大会の運営実行委員会を取り仕切った杉本幸与だ。同氏はハルサンゴルフの支配人として、長らく地元ゴルファーと接してきた。
昨年、山川によるコースの復興が決まってから、8月のリニューアルオープンまでの間、杉本らの声掛けで、多くの地元ゴルファーがボランティアでコース整備に通ったという。そのため新生「MR茨戸CC」は、市民ゴルフ場の色合いが濃い。今回の「MR BARATO OPEN」は、一連の努力の集大成といえるだろう。
回復したコンディション

私は試合の3日前から北海道に入り、練習ラウンドを兼ねて、毎日現地の生徒さんにラウンドレッスンを行なった。
驚いたのはコースコンディションだ。もともと、茨戸川を眺めながらの18ホールは、大きな落葉樹に囲まれて、アメリカ東部の名コースを思わせる雰囲気があったが、ターフの状態が素晴らしい。
特にグリーンは試合に向けて仕上げていて、杉本によれば「試合当日は12フィートが目標」だった。
実は、昨夏の仮オープン時にもプレーしたが、その時はまだ半年以上の閉鎖期間で荒れた状態から、十分に回復できていない感があった。それが1年後には試合に向けてほぼパーフェクトな仕上がりだ。関係者の頑張りを思うと頭が下がる。
秋の北海道は、私のおススメのシーズン。ターフコンディションとしては、夏を過ぎて少し気温が下がってきた頃がベストで、木々が色づきながらも、まだ半袖でプレーできる。もうひとつの楽しみであるプレー後のグルメも、秋の味覚が食卓を彩り満足度が高い。
MR茨戸CCは市民に一番近く、JR札幌駅からは30分、ススキノからは40分。道外からのゴルファーにも是非訪れてもらいたい「隠れた宝石」だと思っている。
さて、大会要項を見てみると、この2日間のマッチプレー選手権、なかなか面白いフォーマットだ。
まず、大会初日は朝7時からのショットガンスタートで、アマチュアゴルファーを交えて18ホールの予選ラウンドが行われる。そこからマッチプレーへ進出する16名を選ぶのだが、まずはプロの上位10名。次にシニアプロの上位2名。そしてアマチュアのグロス上位2名に女性ゴルファー上位2名が勝ち抜けとなる。
この16名が初日の午後に1回戦8マッチを行って、2日目は8名の勝者による9ホールの準々決勝からスタート、計7マッチで優勝者を決めるというスタイルだ。
賞金総額は180万円で優勝は50万円。山川が代表のMRグループが資金を投じたものだ。また、初日の予選会の「アマの部」はダブルペリア方式のコンペで、協賛品を含む豪華賞品が用意されていた。
私自身、マッチプレーを戦うのは仲間内での経験はあるが、オフィシャルな試合では初めて。なんとかシニアプロの上位2名に食い込み、マッチプレーまで勝ち上がりたいと思い、出場を決めてから練習に励んできた。やはり試合は、ゴルファーにとって何よりのモチベーションになる。
無念の予選落ち‥‥
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当日のスコアーカード[/caption]
試合当日となった9月21日は晴天だった。スタート表を見ると41組が全て埋まり、164名のエントリーで、北海道プロ会からは40名のプロゴルファーが参加。主催者推薦枠で唯一道外からの参加となった筆者を加え、41名のプロが入るプロアマトーナメントだ。
大会実行委員会の杉本の狙い通り、グリーンは素晴らしい仕上がりとなった。スティンプメーターで13フィートは、たしかに速い。アマチュアゴルファーにとっては貴重な経験であり、これに立ち向かうプロの技を間近で見ることができるのも貴重だろう。
むろん、コロナの感染対策も念入りだった。具体的にはハウス内でのマスク着用と受付時のソーシャルディスタンス確保。5人乗り乗用カートでのセルフプレーで、スコアはナビゲーションへの入力でプレー後のスコアカード提出は無し。昼食も4名がけのテーブルを41卓用意して弁当でとるなど、感染を未然に防いだ。
私は10番スタートの第2組で、地元の生徒さんを含む3名のアマチュアと共にスタート。
11番でボギーが先行するも、その後12、13番で連続バーディを決めて1アンダー。14番も1ⅿちょっとに付けて3連続のチャンスがあったが、カップ際の傾斜が強くて決めきれずパー。それでも15番を終えてリーダーボードの上位に居たが、16番でフェアウェイど真ん中からの150ヤード(8番アイアン)をグリーンに乗せられず、寄らず入らずのボギー。続く17番パー5は会心のドライブから残り230ヤードをクリークでグリーンそばまで運ぶ狙いのショットが、左崖下の隣ホールまで落としてダブルボギー。
18番もいいドライブが、わずか左でフェアウェイバンカーに入りボギーとなり前半は39。完全に流れが崩壊して、後半もダラダラとボギーが出る展開で、高速グリーンの激ピンにやられ、トータル80で予選落ち。シニアプロ2名のカットラインは74だった‥‥。
さて、予選ラウンド後はクラブハウスでのランチを挟み、いよいよマッチプレーの1回戦へ。ここからが面白い。
本来、マッチプレーのフォーマットは予選1位と16位、2位と15位などの組み合わせになるが、この大会は勝ち抜きのカテゴリーが4つあるので、独自の方式を採用している。
それぞれのカテゴリーから勝ち上がった選手が紹介されてからくじを引き、その結果で8マッチ16名の枠へ選手を割り振っていく。その後、アウトとインで4マッチずつに分れて1回戦がスタートした。
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北海道プロゴルフ会会長千葉晃太プロ[/caption]
北海道プロゴルフ会会長の千葉晃太プロが次のように話す。
「北海道にはローカルの試合が5つほどあるんですが、今年は全て中止となり、道内のプロゴルファーは寂しい思いをしていました。今回の試合ではまず、仲間と久しぶりに会えたことが嬉しかった。また、私自身も試合があるため練習に身が入り、久しぶりにゴルフへの充実感がありました。参加プロは皆、同じ想いだったと思います。
こういう素晴らしいコースコンディションで、多くのアマチュアゴルファーの方に支えて頂きながら2日間の試合に参加できるのは、本当に感謝しかありません」
筆者も旧知のプロ仲間と久しぶりに会うことができた。皆、今日のグリーンの難しさの中での自分のプレーぶりを語る顔は、苦戦しながらもどこか楽しそうで、同業者ながら「この人たちは、ホント、ゴルフが好きなんだなあ」と改めて感じたものだ。
通常営業にも負担は少ない
試合から2か月が経ち、このレポートを書きながら改めて思うのは「MR BARATO マッチプレー選手権」の開催方法が、ゴルフ場と主催者にとって負担がなく、非常に効率がいいということだ。このような手法があることをゴルフ界への提言としたい。
まず、初日は41組フルエントリーでのショットガン方式だった。この試合ではアマチュアゴルファーの参加費はプレー代と昼食代込みで1万5000円(コースメンバーは1万円)。123名のアマチュアゴルファーが参加している。
そして、2日目のマッチプレー準々決勝からは、ゴルフ場は通常営業を行いながら、その中に2サムでのマッチプレーを組み込んで、パスさせてもらいながらマッチを進めていく。これはクラブ選手権の際によく使われるやり方なので、大半のゴルフ場がノウハウをもっている。
ということは、この2日間のマッチプレー選手権、ゴルフ場の通常営業に大きな負担なく開催できるということになる。それでいながら、地元のプロゴルフ会なども巻き込んで、プロゴルフの興行としてカタチが作れているのが興味深い。
初日午後の1回戦8マッチは、観客もコース内立ち入り可だったが、誰かが解説者を務めながら手持ちのカメラでコースの素晴らしさを紹介し、マッチプレーの様子をインターネットでライブ配信できれば、コンテンツとしての価値が高まり、イベントの意義が深まると感じた。
女子高生とプロの真剣勝負

抽選による1回戦は、メダリストの小西奨太プロとアマチュア1位の蛯名和明さんの対戦。小柄な小西プロに対して、立派な体格から豪打を放つ蛯名さんの戦いは興味深い。
また、女性ゴルファー枠で勝ち上がった西澤里世さんと政田夢乃さんは、ツアー出場経験も豊富な地元プロを1回戦で撃破。西澤さんは北海学園札幌高校の現役ゴルフ部員で、政田さんは高校を卒業してプロテストに備える身。この二人が2回戦で当たって政田さんが準決勝に進出した。
その政田さんを準決勝で破って決勝戦へコマを進めたのは、1990年代にレギュラーツアーに参戦し、現在はシニアツアーで活躍している清家和夫プロ。女性ゴルファーとシニアプロが戦う9ホールのマッチプレーは、真剣そのもの。インターネットでライブ配信したら面白いコンテンツだったと思われるが、清家プロが面目を保った。
反対側のブロックでは、予選1位の小西プロが順調に勝ち上がり、準決勝は予選2位の植竹勇太プロとのマッチを制して決勝進出。決勝は小西プロと清家プロのマッチとなり、小西プロが勝っての完全制覇を遂げ、予選メダリストの賞金3万円とマッチプレーの優勝賞金50万円を獲得した。
ちなみに、私を含む予選敗退のプロにも「17位」として一律の賞金が配られている。ちょうどGoToトラベルの旅費と同じだったので、それがチャラになった。こういうところにも、主催者の温情を感じる、素晴らしいトーナメントだった。
今回、このマッチプレー選手権に参加して、コロナ禍の中でのゴルフイベントの重要さと、それに関係するプロゴルファーの役割を改めて実感した。
依然、先行き不透明なコロナ禍では大きなイベント開催は難しいが、感染対策を講じながらのローカルなイベントは、今後のプロゴルフ界にはとても大切なものとなるだろう。
負担のない開催方法も多々考えられるので、是非、皆さんの地域でも取り組んでは如何だろう?