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ゴルフシミュレーターが超高齢社会の主役に躍り出る!

ニュース 小川朗

介護業界でゴルフシミュレーターが大活躍している。実に3617万人(総務省の推計)。全人口の28・7%が65歳以上の高齢者となったニッポン。そうした状況下、注目キーワードとして上昇しているのが「フレイル・サイクル」。体力の低下によって介護状態へと陥っていくスパイラル状態のことを指す言葉だ。この難題を解消する「主役」となりそうなのが、実はゴルフシミュレーターなのだ。今回は介護業界の現場を照らす。

フレイル対策の主役に

免許を返納しても、介護状態になっても手軽にゴルフが楽しめる。それを可能にするのが、シミュレーション・ゴルフだ。実は巷の介護施設やシニア向けマンションで、ゴルフシミュレーターがすでに活躍している。

室内でゴルフのショットが楽しめ、18ホールを実体験できるシミュレーター。各メーカーが競うように開発しており、お値段も200万~500万円と、けして安い商品ではない。

それでも介護業界で活躍の場が拡大しているのは、「フレイル・サイクル」対策の主役になる可能性を持っているからだ。
団塊から上の世代の多くが今、フレイル(虚弱)という状態を経て要支援・要介護の領域へと向かっている。そのキッカケは、慢性疾患などに起因した筋力の低下。筋力・筋肉量の低下は基礎代謝量の低下を招き、活動量が減る。同時にエネルギー消費量もダウンしていく。

そうした状態では食欲がわかないため食事の摂取量も減る。タンパク質を始めとした栄養の摂取不足は低栄養状態を招き、さらなる筋力の低下を招いていくのが「フレイル・サイクル」だ。

この先にあるのが社会的交流の減少。そこに認知機能や身体能力の低下が加わると転倒や骨折、慢性疾患の悪化などを招くケースが多い。この時点ですでに要介護状態のレベルに入ってしまっている。

男性の高齢者に顕著なのは、人との接触を避けてしまう引きこもり状態。朝から晩までパジャマ姿でインスタント食品を食べてばかりでは、フレイル・サイクルに入っていくのも時間の問題だ。

2020年に高齢者の仲間入りをした団塊の世代は、現役時代にゴルフをやりまくった世代。だが体力の低下からリアルなゴルフからはリタイアする人が増えている。

そこで注目を集めているのが、歩かなくても18ホールをプレーできるシミュレーター。京都府木津川市の㈱アクティブは健康寿命延伸事業(ヘルスケア事業)と通所介護事業(デイサービス)などを行っている施設だが、ここにも2018年の1月からゴルフGOLFZONの最高級モデル(500万円相当)が設置されている。

代表者が、シミュレーター導入のキッカケをこう明かす。

「かつてはゴルフを良くやったけど、できなくなった方に、もう一度ゴルフの楽しさを思い出してゴルフをやってもらいたい、という思いからです。飛距離が落ちたのは仕方がないこと、1ヤードでも遠くに飛ばすには・・・運動の大事さを知りトレーニングに励んでほしい、そのトレーニングが自然と健康に結びつく。(導入の)タイミングがすこし早かったかな、という気もしますが、これから団塊の世代の方が増えてきますので、期待しています」。

群馬の「エムダブルエス日高 日高デイトレセンター」は、2013年のオープンと同時期から設置されているというから、介護業界では先駆け的存在。松本博所長は導入のいきさつをこう明かす。

「弊社の代表が設立に当たり、従来型では後期高齢者の方々の満足を得られないと考え、団塊の世代の人気スポーツであるゴルフに着目したからです。要介護3で左半身マヒの方でも、女性用のクラブを右手1本で打たれていました。『他のデイサービスでは物足りない』という方もおられるほど。見学の折にシミュレーターを見て通所を決めた方もいます」

写真キャプション=栃木のデイサービス施設内に置かれたゴルフシミュレーター

今年の8月に導入したばかりの「デイトレセンター・リヴァール長野」の江口明施設長は「シミュレーターが、前向きになるキッカケとなることを期待しています」と語ってから、こう続けた。「シミュレーターをプレーすることで『もう一度、ゴルフ場に戻ってゴルフをしよう』という気持ちになってくれれば、リハビリのモチベーションにもなりうるのではないかと思います」。

リハビリに成功し、再びフェアウェーに戻ってゴルフをする。そのためにリハビリも頑張る、となれば健康回復への好循環も期待できそうだ。

シニア向けマンションでも

「週に4〜5日はゴルフの練習をしています」。シニア向けマンションの「スマートコミュニティ稲毛」(千葉県)に住むAさんは、以前こう話していた。ここにはゴルフ好きにとって、たまらない練習環境が整っているからだ。

住居棟と140メートル離れた別棟のクラブハウス内に、シミュレーター2打席を含む5打席のインドア練習場が完備されている。キャディバッグ専用置き場の風景も壮観だ。入居者たちのキャディバッグがずらりと並べられていた。その数約150本……。

さらに徒歩約10分の所には70ヤードの屋外レンジまである。月額1000円程度の会費を払えば、これらのゴルフ環境を思う存分使うことができるわけだ(最新鋭のシミュレーター1台のみ、別途税別で30分200円がかかる)。練習熱心なゴルファーの中から、エージシューターも出現しているという。

この分譲マンションでは月額9万3239円(税込)で朝夕の食事のほか、クラブハウスの基本的なサービスを利用できる。入居者が集う2階のレストラン街は和食(洋食メニューもあり)・焼肉(水・木休業)・海鮮と3軒が揃い、中央にはテラス席も設けられている。夫婦で違うレストランのものが食べたければ、約15種類のメニューからそれぞれ選んで、中央のテラス席で食べられる。

「終活」への備えも万全だ。ケアマネージャー(介護支援専門員)も2人いて交替で対応。適切なケアプランを作成してくれる。

保健師・看護師も日中出勤しているから日々の健康相談もOK。フロントは365日・24時間体制で常駐しており、深夜にも救急対応する。体調が悪くなった場合にはお弁当の宅配もあり、食事に数日行かなかった場合には安否確認もしてくれる。

フレイルの状態から適切な治療や予防を行なうことが出来れば、健康な状態に戻ることができる。逆にそのままフレイル・サイクルに身を置けば、要支援・要介護状態にまっしぐらとなる。

健康と要支援との分岐点にあるフレイルの状態で、誰もが健康な状態に戻りたい。歩かずともできるゴルフシミュレーターが、その入り口の役割を果たしてくれるはず。デイサービス施設で体力がつけば、リアルなゴルフに戻っていくことも可能になる。

人生100年時代。ゴルフシミュレーターが活躍する場は、今後も広がっていくに違いない。

■小川朗の目

「大人の幼稚園なんかに、行きたくないからね」。デイケア施設に足が向かない理由として、シニア男性が語ったというこの言葉が、ずっと引っかかっていた。歌を歌ったり、体操をしたりというのは、確かにシニア男性には恥ずかしさを感じるプログラムだと思った
▼だがその結果、家に引き籠り、運動不足が続くと本文にも書いた「フレイル・サイクル」に陥ってしまう。理想はまずはゴルフシミュレーターを試し、思い切り楽しんでもらう事。その結果、再びゴルフ場に出てみたい、と思えればしめたもの
▼それが実現した折には、朝早い時間でのスループレーを楽しんでもらいたい。解放感いっぱいのゴルフ場で、歩きのゴルフが出来たら。もっといい。朝のうちに太陽光を浴びることができれば、セロトニンの分泌につながる
▼セロトニンと睡眠物質のメラトニンの相関関係はよく知られるところ。うつの予防にもなる。質のいい睡眠を取るためにも、太陽光を浴びることは重要。心身ともに健康になるキッカケが、シミュレーションゴルフとなれば、ゴルフ業界にとっても万々歳だ。


この記事は弊誌月刊ゴルフ用品界(GEW)2020年12月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

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小川朗

小川朗

山梨県甲府市生まれ。甲府一高→日大芸術卒。82年東スポ入社。「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女のメジャー大会など通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。フリージャーナリストとして本誌を始め、日刊ゲンダイで「ホントにゴルフは面白い!」(毎週金曜日)を連載中。

終活ジャーナリストとして「みんなの介護」でも連載中。日本自殺予防学会会員。週刊誌、ニュースサイトなど各方面に執筆中。㈱清流舎代表取締役COO。東京運動記者クラブ会友。日本ゴルフジャーナリスト協会会長。

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