STM、国内生産でも勝てる「長浜工場」竣工 今こそ日本の強い「現場」を
浅水敦
1971年東京(板橋区)生まれ、埼玉育ち。(株)明光商会入社後、7年半シュレッダー&パウチッ子&ボイスコールの営業(新規開発営業部→第3直販部配属、外務省、宮内庁、旧富士銀行、日本興業銀行、大手宗教法人を担当)...
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新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、にわかに深刻さを増しているのがグリップの不足だ。大手グリップメーカーが大幅な生産調整を行ったことに加え、米国で需要が急速に高まっていることから「グリップ争奪戦」が起きており、価格の高騰も懸念されている。その争奪戦の渦中で、国内生産に舵を切った国内メーカーがある。滋賀県長浜市にSTMが誇る新工場がいよいよ本格稼働。敷地面積300坪、成形機をはじめ混合器や乾燥機など1億2000万円を投じ、ヘッド塗装、研磨ブースも完備する。
「エラストマー素材では国内最大規模でしょう」
と話す同社の中村成守社長はいかにも体育会系の風貌で、プロゴルファーであり工房マンでもある。その中村社長に導かれ新工場を見学した。グリップ製造ラインに整然と並んだ射出成形機(7台)は、黙々と加工をこなす。事前にコンピューター制御された混合器に材料を配合すれば、色ムラが発生することなく量産可能だとか。
これにより、24時間・週7日の稼働が実現するが、
「現状の生産キャパは12名体制で、月産5万本・年間60万本が精一杯。人材を育成しながら早い段階で24時間体制に移行したい。年間120万本が目標です」
と鼻息が荒い。標榜するのは、「国内最大のOEMグリップ製造メーカー」で、既に大手クラブメーカーのグリップ生産にも着手している。以下中村社長との一問一答を再現しよう。
国内生産のメリットは。
「まず、開発・設計部門は国内が中心なので、生産もそこに近いほうがいい。カントリーリスクが少ないことも良さですね。海外では単純労働が基本で、人材のレベルにもバラツキがある。それに対して国内では、現場の創意工夫によって、工場が自ら進化し成長する。また、当社では一人が複数工程を担当するセル方式を導入しているので、効率的な生産ができるよう、一人ひとりが考える余地があります」
例を挙げると?
「技術的にはさらなる自動化も不可能ではありませんが、費用対効果を考えると、現段階では人手の方が適した工程はまだ多い。グリップの色付け(ブランド刻印部分)はその最たる例で、機械と人手を最適な形で組み合わせています」
デメリットは?
「金型は中国製と比べると割高になりますが、ここは考え方の違いですね。日本製は世界ベスト3に入るレベルで非常に品質が高く、その耐久性は比べ物になりません」
納期は?
「スタンダードな色合いでしたら500本で基本30日。自社工場稼働後はオリジナルで多種多様なカラーが作れるようになりました。小ロット対応も可能です」
外部から工場長を新たに招聘した。
「工場長はパナソニック出身の成型エンジニア。製品化するために金型の構造に合うオペレーションプログラムを組んで精度の高いものを作っていく、という役割です。私ですか? 主に材料メーカーとの折衝と工場内で様々な添加剤をブレンドしながらテストを繰り返しています。配合量を変えるだけで無限にグリップが作れる。ヘッド塗装と研磨もやりますよ」
塗装と研磨スペースも本格的ですね。
「グリップ以外のOEMも必要な事業と考えていて、ゴルフメーカーと海外工場を繋ぐ中継基地になれれば。既に折衝を始めていますが、国内でどれだけのスペースと設備を持っているかが問われますし、まだ一棟空いているのでそこでアッセンブルもできる。メーカーと海外工場との間にいくつもブローカーが入っているケースも珍しくなく、そこをクリアにして、メーカーのヘッド修理はもちろん再塗装も忠実に再現する。中国から納品されたクラブが国内でメンテナンスできるような雛形を作りたい。時間と手間を大幅に削減できるはずです」
3年後の目標は。
「我々は後発でエラストマー 素材のグリップメーカーとして参入しましたが、ナショナルブランドの採用がまだまだ少ない。エラストマー素材の特性を持って、国内生産でこういうモノが作れますよ、というのを理解してもらうのが先決だと考えています。日本国内で一緒に開発に取り組み、素晴らしいグリップが作れるのであれば、海外で作る必要はありません。まずはそこをアピールしていきたい」
5年後は。
「様々な会社に工場を見てもらい、グリップの生産をSTMに任せたい、開発を手伝ってほしいというカンパニーになっていたいですね。見学はいつでもウエルカムです」
中村社長はこの工場を「夢ファクトリー」と名付けた。ニッポン生産の物語が始まった。