コロナ環境下で一時的にゴルフ人口が増えているという報道もあるが、人口減少や少子高齢化の推移を見ると、今後もゴルフ人口の減少傾向が続くことは間違いない。この連載では、筆者が提唱する「18−23問題」(2018年~2023年にかけてのゴルフ人口激減)に立ち向かうための改善策や基礎資料に基づく提言を述べさせて頂く。
「マナー違反実態調査」のこれまでの特徴
筆者はこれまでに、国内外のゴルフ場で生じたり見かけたりするマナー違反の実態について、ゴルフ場支配人や一般ゴルファーを対象に調査を重ねてきた。日本における調査では「スロープレー」が毎回ダントツ1位に挙げられる。この傾向は、オセアニアを除いて、ヨーロッパ、北米のゴルフ場支配人に対する調査でも同様の結果であった。
日本の支配人調査結果が、海外とは特に異なるのが、毎回2位として「ドレスコード違反」が挙げられる点である。海外の場合、1位のスロープレーに続いて2位には「無作法な態度」とか「汚い言葉で罵る」などが多く挙げられている。
日本の場合、例えば、2009年の発表データでは、1位のスロープレーが25・0%、2位のドレスコード違反が21・0%であり、4ポイントの差しかなかった。ちなみに3番目に挙げられた「ボールマークやディボットの未修復」は10・8%であった。日本のゴルフ場では、他国に比較して「ドレスコード」が重んじられている傾向があり、上位にドレスコード違反が挙がったのは日本のみであった。
今回、数年ぶりに日本のゴルフ場支配人に「ゴルフ場で見られるマナー違反」について調査をしたので概要を紹介したい。
首都圏の支配人67名が指摘するマナー違反の1位は「スロープレー」
首都圏(1都8県)のゴルフ場支配人67名に『貴ゴルフ場でよく見られるマナー違反の上位3位はどんなことでしょうか』と質問した(調査期間:2020年8月31日~10月30日)。その結果、最も多くの支配人が1位として挙げたのが前回同様「スロープレー」(65・7%)であった。そして2位も「ドレスコード違反」(37・3%)であった。※パーセンテージは順位内の回答割合
過去の調査と同じく、今回の調査でも上位2位には「スロープレー」と「ドレスコード」の回答が集中していた。3位に比較的多く挙げられたのは「打ち込み(あおり)」、「禁止エリアでの喫煙」、「目土をしない」、「ボールマーク」、「バンカー直しをしない」などの記述であった。
我が子に対してプロ志向の高い親ほどマナー意識が低い(2016年の論文)
2009年6月に日本プロゴルフ協会が「PGAジュニアゴルファー育成プロジェクト」をスタートさせ、2010年4月には日本女子プロゴルフ協会のGBD(ゴルフ・ビジネス・ディビジョン)が主導となって「LPGA 放課後クラブ」を開校させるなど、2000年代後半頃から子どもに対するゴルフ活動が活発化した。
その一方で、親に怒られたくない一心でスコアを誤魔化すなどの行為をする子どもが散見されることなど、複数のメディアが報じるようになったのは2010年代前半頃からである。しかしながら、この事象については、子どもの問題と言うよりも(ミスショットで怒鳴り散らすなど)親が悪いのではないか、という意見が多かった。
当時、先行研究や調査が行われていなかったことから、筆者が「子どもをゴルフスクールに通わせている親」に対する調査を行い、研究報告として『プロ志向の高い親ほどルールやマナー遵守の意識が低い』という結果を論文として発表している(北、2016)。この結果には賛同する声が多く大変反響が大きかった。
今回の調査では、この先行研究の結果に基づき「親のマナー」に特化して質問を行った。
親のマナー違反を「よく見かける」は7・5%
支配人に対して『近年、ジュニアゴルファーが増えていますが、子どもよりも、その親たちのマナーについて問題視されることがあります。貴ゴルフ場では親のマナー違反について見かけることがありますか』と質問した。
その結果、
・よく見かける 7・5%
・たまに見かける 38・8%
・見かけることはない 50・7%
という結果が得られた(無回答3・0%)。
「よく見かける」および「たまに見かける」と回答をした支配人には、具体的にマナー違反だと感じる内容を自由記述してもらった。その内訳を見ると、回答内容には大きく以下の2つ傾向が認められた。
①服装の乱れとあいさつの仕方
②コース内レッスンや1人2球以上を使用してのラウンド
多く挙げられたものとして「挨拶をしない」とか「挨拶が偉そう」などの記述が多い。また、ラウンドしながら何度も打ち直しをさせたり、指導しながらプレーしていることから、スロープレーの発生を懸念したり、他の客からのクレームを気にする記述もあった。
しかしながら、今回の調査では、半数以上の支配人(50・7%)が「見かけることはない」と回答しており、一時期報じられたほど、態度の悪いふるまいが目立つ親は少なくなっているのではないか。
いまゴルフ場に求められるのは「誰もが楽しめる場の提供」を創出する方策の検討
筆者の先行研究では、約6割のゴルファーが「ゴルフ場で腹の立つ経験」があり、その半数以上が「他のグループの客」に対して腹を立てていた。そして、腹を立てた具体的な場面としては「スロープレー」が特に多い(北、2018)。これについては、以前の連載においても述べているが、初心者や高齢者はラウンドに時間がかかることが多く、腹を立てた側も、腹を立てられた側も、ゴルフ市場にとっては決してプラスにはならない。
コアゴルファー層の超高齢化が進む中、高齢ゴルファーに「現役引退」を思い止まってもらうことや、なかなか上手にクラブに当たらない初心者ゴルファーに「新規参入」(継続)をしてもらうために考えられるべきポイントには、実は共通点が多い。誌面の都合上、詳細は過去の連載等をご覧頂きたいが、例えば、本人は急ぎたくてもスロープレーと感じさせてしまわざるを得ないようなしぐさや動きになる人たちがいる。ゴルフ場に集った客同士が共存し、お互いに楽しく過ごせる場の創出を実現するためのアイデアは幾らでもあるのではないか。
参考文献
1.北 徹朗(2018)ゴルフ産業改革論、株式会社ゴルフ用品界社
2.北 徹朗(2016)ジュニアゴルファーのマナー違反と親の態度― 子どもをゴルフスクールに通わせる親に対する調査―、体育研究50、pp.7-12
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年11月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら