リコンセプトの「原体験」を振り返る

リコンセプトの「原体験」を振り返る
連載を始めるにあたり、私のゴルフ業界におけるバックグラウンドを紹介する。 特段ゴルフが好きでも、興味があったわけでもなく、税理士の次男として生まれた筆者は将来、 税理士になるものと思っていた。そのため高校卒業後の2年間、大原簿記学校の税理士本科へ進学した。 1年が経った頃、兄が税理士になることを決めたため、自分は兄とは別のビジネスの世界に入ることを決意したのだが、専門学校卒ゆえ学歴の壁は高く「学歴不問、能力主義、幹部候補生募集」の3要素を備えるベンチャー企業を探すことにした。その企業が、たまたまゴルフを生業とする千成グループ(後のSTTグループ)だった。入社は1983年。以後41年間、ゴルフ業界に携わっている。

幹部候補生研修

オーナー社長のポリシーは「幹部候補生たるものは現場を知らずして幹部になれるか!」であった。そのため入社式直後の合同研修を終えるとすぐ、現場であるゴルフ場へ配属された。同社は当時、千成ゴルフクラブ(栃木)と千代田カントリークラブ(茨城)の2コースを保有・運営しており、同期は2班に別れて各コースで研修に入った。 筆者の配属先は千代田CC(18ホール)だった。当時13番ホール横の林の奥にプレハブ小屋があり、3DKの間取りに同期4人の生活が始まる。2人は各1人部屋、残りの2人は相部屋となるが、毎週くじ引きで部屋変えをして、プライベート空間を楽しんだ。 まず、コース管理課に配属され、地下足袋にヘルメット姿で来る日も来る日も芝草刈り……。誰でもできる手押しモアによるラフ刈りから始まり、グリーン刈りや3連モアを乗りこなす技術を、約5か月掛けて習得。次にハウス内に配置されてポーター、ハウスメンテナンス、ウエーター、フロント、事務所等、あらゆる部署を体験した。今思えばありがたい経験ではあった。 筆者は生まれも育ちも東京である。本社が「六本木」だったことも入社動機のひとつで、夜の街をビシッとスーツを決めて闊歩する、そんな淡い期待もあったのだが、実際は芝刈りの毎日で「俺はこんなところで何をしてるのか?」と悩んだ一時期もあった。しかし、とにかく忙しく、幹部候補生として同期に負けたくない!との想いが支えとなってやりきった。同期はいつの間にか去ってしまい、3DKを一人で過ごす。 約1年後、本社配属の辞令が下り、経理部に入る。経歴書に簿記1級・珠算2級・販売士3級等の記載があったからだろう。

プレステージCCの誕生

入社3年後の1986年7月。倒産した旧・梓ゴルフ倶楽部(36ホール)を189億円で落札した。この落札を機に財務部が設立され、筆者はそこに抜擢される。資金繰りの専門部署が必要だったからだ。 今も鮮明に覚えているのは、決済の場に小切手を用意したときの光景である。チェックライターで小切手をタイピングする際、当時のチェックライターは99憶台の桁しかなく、手書きで「金壱佰八拾九億圓也」と書き込んだ。それを三井信託銀行丸の内支店の応接室に持参・決済したときは、さすがに緊張した。 この旧・梓GCの敷地は約60万坪の規模であった。オリジナルのゴルフ場の姿は山岳コースで、パー3ホールでは、パターで転がして崖から落とした方がグリーンに乗る確率が高いほど、無理のある地形とコースレイアウトだった。 敷地内には3つの山があり、その山をすべてダイナマイトで粉砕。大量の土砂を谷に埋め、まったく新しいコースに造り変えた。名称も「プレステージカントリークラブ」に変更して、1988年7月に再オープン。グループとしては千成GC、千代田CC、グランドスラムCCに次ぐ4番目のコースとなった。 プレステージCCが会員を募集した80年代後半は「青田売り」ができた時代である。青田売りとは、未完成のゴルフ場の会員権を売ることで、バブル時代、ゴルフ場の乱立につながった一因と言える。 プレステージCCの初回販売価格は特別縁故募集で1口2500万円であった。コンセプトは、法人接待用の高級ゴルフ場で、上場企業又はそれに準ずる企業の役員以上が「記名人」になれる、という高飛車な姿勢で販売した。 振り返れば、隔世の感がある。 落札に際し、三井信託銀行を幹事行として、他ノンバンク7社から合計189億円の資金調達をしたのだが、この時(1985年)の長期プライムレートは7.5%で、これにスプレッドレート(上乗せ金利)で約9%という高金利での資金調達。ゼロ金利時代では考えられない利率の借入で落札したことになる。

リコンセプトの実体験

このプレステージCCを落札する前に、自社で千代田CCを完成していた。千代田CCのコンセプトは「法人向けの財界サロン」で、入会制限が厳しく、一部上場企業の役員以上しか記名人になれなかった。 千代田CCの初代理事長には三井物産の現役社長が就かれた。そのため二木会(三井グループ)系列はもちろん、白水会(住友グループ)、三菱金曜会(三菱グループ)、芙蓉会(芙蓉グループ)、三水会・みどり会(三和グループ)、三金会(第一勧銀グループ)という6大グループが選ばれて入会したのである。 日本を動かす錚々たる顔ぶれが集ったが、このコンセプトメイクの背景には、三井物産会長が当時話した、 「これからは大衆の芋を洗うような混みあったゴルフ場ではなく、人数を絞り、選ばれし者のみが入場を許されるコースが必要だ」 とのアドバイスがあったからだと聞いている。アドバイス前、千代田CCの会員権は茨城県の平均相場に近い300万円で売り出していたが、アドバイス後に会員権の購入者に全額返還をして、一旦リセットした経緯がある。コンセプトを作り直すことで、異なるゴルフ場に生まれ変わる。筆者が「リコンセプト」に関わる原体験であった。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年10月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら