クラシックマネジメントグループ株式会社で取締役副社長兼総支配人を務める谷水大祐と申します。弊社は九州を中心にザ・クラシックゴルフ俱楽部、佐賀クラシックゴルフ倶楽部、西日本カントリークラブを運営しており、福岡市内ではトラックマンを装備したインドアゴルフスクール&レンジ「Golf Days」の運営等を行う独立系の中小法人です。
関連会社にはスポーツタレントのエージェント・マネジメント業務を行うCMGスポーツマーケティング株式会社があり、代表取締役を務めております。清水大成プロ、後藤未有プロ、菅楓華プロ、リハナプロらトップアスリートの後方支援が主業務となります。
実は、前職でコンサルティングファームに在籍していた2017年に、本誌で「異業種から学ぶゴルフ界再考術」というタイトルで執筆経験があります。机上でゴルフ界を考えていた時代です。
現在はゴルフ場の現場で飲食の調理以外、ほぼすべての業務に従事して四苦八苦の日々。自然相手のゴルフ場経営は思い通りにならないのが常であり、当連載でも机上論ではなく、現場に基づく挑戦記を執筆してまいります。
タイトルの「上を向いて歩こう」は、ゴルフ場の価値を如何に高めるかを意識したものです。弊社のザ・クラシックGCは2020年「日本女子オープン」を開催し、2028年も開催予定。佐賀クラシックGCはJLPGA認定コースとなりますが、これらも価値向上の一環にほかなりません。
当社の始まり

当社は、私の曽祖父である谷水信夫が、1961年に京都と滋賀の境の山頂で小さなゴルフ場を開発したことに始まります。
信夫は1912年和歌山に生まれ、戦前は大阪で小さな鉄工所を営み、その後空襲被害の少なかった京都に移りました。京都ではお米のポン菓子の製造機業を展開し、当時珍しかった割賦販売で、関西では8割近いシェアを獲得したとの記録があります。食料危機の改善を見越した信夫は、娯楽の時代を予見して、映画館や旅館業へと事業転換しています。
1957年、霞ヶ関カンツリー俱楽部で開催されたカナダカップを信夫は現地で観戦します。中村寅吉・小野光一組がサム・スニードら世界の名手を抑えて優勝した瞬間、ゴルフブームの到来を予感して、帰りの電車でゴルフ場の開発を決意したそうです。
1961年、滋賀県の山頂で県内2例目のゴルフコースとして皇子山カントリークラブ(設計 谷水信夫)を開場。ゴルフ場としては土地が狭く、開発工事を引き受けてくれる業者もおらず、大学でゴルフをしていた二代目谷水雄三との二人三脚でゴルフ場を設計しました。苦労して資金を調達し、信夫の個人資金も投じて、18ホール・5200ヤード弱のコースを造り上げました。(※2021年皇子山CCは他社へ譲渡)
関西から九州の地へ
その後、銀行から広大な土地の情報を聞き付け、九州の開発に着手。1975年、福岡県北部に西日本CC(設計 ゲーリー・プレーヤー)を開場。1990年には同じく福岡県北部の丘陵地にザ・クラシックGC(設計 鈴木正一/改造 ベンジャミン・ウォレン)を、6年後には姉妹ブランドの佐賀クラシックGC(設計 中村享治)を開場します。いずれも「接待型」がコンセプトで、サービスや食事、館内の設えにこだわりました。
社内に「感動創造課」を設置したところに、弊社の経営方針の一端が表れています。お客様のおもてなしを第一に考える専門部署で、リッツカールトンのゴールドスタンダードに憧れを抱きながら、お客様の心に残るコミュニケーションに注力するのが同課の役割。
近隣には古賀GCや門司GC等、著名設計者による名門があります。歴史があり、確固たる会員組織の団結があり、ゴルフリテラシーも高い。一方で参入する立場の弊社としては、当時の名門が着目しなかったホテルのようなきめ細かいサービスで対抗する、カウンターポジションを目指したのです。
1991年にバブルが崩壊し、1週間に1件ゴルフ場が倒産する時代に突入します。弊社も会員権の償還対応で経営難に陥りました。幸い、事業清算をすることなく代をつないできましたが、ゴルフ業界を取り巻く環境は楽ではありません。人口減少やクラブハウスの老朽化、多様なスポーツの出現等、ゴルフ場業態の好転要素はなかなか見当たりません。
垂直軸が「背骨」になる
このような状況下、依存する親会社もなく、ゴルフ場単体で商いをしている弊社は、戦略軸の見直しを真剣に行っています。多くの同業者が様々な策を講じていると思いますが、弊社の場合はゴルフ場としての「本筋」(垂直軸)を伸ばすことにこだわっています。
ザ・クラシックGCではメジャー大会の誘致や海外設計家によるコース改修等、本筋を重視。私は前職のコンサル時代に菓子業界を中心に歩きましたが、本筋重視は当時の経験とも重なります。
菓子業の「垂直軸」は美味しいお菓子をつくることです。「水平軸」にはイベントを通じた地域交流や感動接客もありますが、そもそもお菓子がマズければ成果は期待できません。背骨があるから肋骨が機能するという考え方です。
ゴルフ場も同じではないでしょうか。サービスを磨き、交流イベントを行うことも非常に大事だと思いますが、本筋であるゴルフコースを磨かなければ、その他の努力は報われにくいと考えられます。業界のリーダーではない弊社の立場で、このようなことを書くのは気がひけますが、激動のゴルフ場市場を60年以上生きてきた中で肝に銘じていることです。
連載では、小さな会社が女子のメジャー大会誘致に挑戦した戦略的経緯や、スコットランドのデザイン会社と2年間のコース改修プロジェクトを行った体験記等を共有させて頂きます。ゴルフ産業がゴルファーを魅了しつづけ、異業種に負けない市場となることを皆様と目指してまいります。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年9月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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