連載の初回となった9月号では、弊社の成り立ちを中心に執筆しましたが、本号では経営戦略の基本となる考え方を述べてまいります。
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弊社は、福岡(ザ・クラシックGC、西日本CC)と佐賀(佐賀クラシックGC)で計3つのゴルフ場を経営しております。本社を置く福岡県は、福岡市を筆頭に人口が増え続けている街がいくつかあります。その要因は大学等の教育機関の充実、空港や新幹線駅へのアクセスの良さ、天神ビックバンや博多コネクテッドの二大プロジェクトの推進等で九州他県からの流入人口が多いことが挙げられます。
ザ・クラシックゴルフ俱楽部からは車で40分(距離30km)で中心地の福岡市中央区天神に辿り着きます。この街は近年、リッツカールトン福岡の開業に始まり、国内最大規模のシャネルの出店や、東京に次いでグーグルが支店設置を発表する等、将来性を感じさせる事業が次々と展開されています。
しかし、福岡県全体としては、2010年から人口減少傾向に入り、2020年は509万人、2030年には495万人と推測され、同年の65歳以上割合は30.4%(日本の地域別将来推計人口2018年より)と推計されています。このような状況を受け、近年弊社は地元やその近隣の「小商圏」のシェア獲得に加え、関東や関西等の「大商圏」から顧客誘引を図ることが経営課題となっています。
小商圏対応と大商圏対応
ゴルフ場の売上高は端的に、
「商圏内ゴルフ人口×獲得シェア×一人当たり消費金額」
で表せます。そこで、競合対策を打ってシェア獲得に励み、ショップやレストランでもう一品の提案をして客単価アップに努めますが、そもそもの母数となる目の前のゴルフ人口が減れば売上の維持・拡大は見込めません。従来は小商圏対応としてメンバーやコンペ幹事など、地元のお客様への密着軸(個人名での呼びかけやハレの日のお祝いなど)を磨き、売上の基盤とすることで十分でしたが、2015年前後より、減少する小商圏内人口に危機感を覚え、関東や関西などの大商圏からゴルファーを誘引し、自然減する客数を補う必要性を感じてきました。
このような単純な思考により、大商圏対応として、プロのトーナメントを開催し、全国的な知名度と価値を上げる運営に舵を切り始め、目安として、小商圏の売上を8割・大商圏の売上を2割に設定しています。大商圏優先に走りすぎると、コロナや災害時で来場者が激減するため、このような配分を考えています。
日本シニアOPと日本女子OP
福岡には、客単価4万円のにぎり鮨を提供する名店がいくつかあります。そのカウンターに並ぶのは地元の顧客に加えて東京や大阪の富裕層です。その一方で、大衆食堂に目を向ければ、地元の顧客が主な客層となります。つまり、単価が取れる、換言すれば付加価値のあるお店にならなければ、商圏拡大は見込めないということです。
弊社のザ・クラシックGCでは、経営課題として商圏拡大に取り組んでおり、その戦術として、2017年に日本シニアオープン、2020年に日本女子オープンを誘致して、「メジャートーナメントコース」という肩書きを全国のゴルファーに訴求しました。写真映えするような海も見えず、歴史が浅く、日本のトップ100選にも入っていないコースでは、この方法しか思いつかなかったというのが正直なところです。しかし、トーナメント誘致後の2018年頃から現在まで、毎年2000万~3000万円の売上伸長があり、一定の成果が確認できます。
全国のお客様を誘引する商圏拡大の手段としては、有料広告を打ったり、代理店と提携したりと、様々な取り組みが考えられますが、弊社は広告予算を設けていないため、トーナメントのようなニュースバリューのあるコンテンツをつくり、結果として広く伝わるオーガニックな宣伝広報を心掛けています。
入会動機の最大化と客層の最大化
先ほど、ゴルフ場の売上高は「商圏内ゴルフ人口×獲得シェア×一人当たり消費金額」で表されると書きましたが、弊社にはもうひとつ、参考にしている式があり、それは、
「入会動機の最大化×客層の最大化」
です。弊社はこれまで、年商2億円程度の小さなコースから10億円に達する大型コースを経営してきましたが、その「年商差」はこの式で説明できます。年商が小さなコースは入会動機が少なく・客層が狭い。年商が大きなコースは、入会動機が多様にあり・客層も広い。簡単に例を述べれば、
年商2億円のコースは、
入会動機
1)メンバーフィで安くプレイできる
客層
1)初心者
一方で年商10億円のコースは、
入会動機
1)メンバーフィで安くプレイできる
2)館内設備に鉄板焼やサウナがあり充実している
3)国内提携コースがあり、ゴルフ旅が充実する
4)トーナメントを開催しており、ステータスを感じられる
客層
1)初心者
2)中級者
3)上級者(トップアマ)
4)エリートプロゴルファー
となります。下に三角形の図を載せましたが、ゴルフ場の売上を伸ばすためには、この三角形を大きくすること(底辺:入会動機×高さ:客層)だと考えています。【底辺拡大】として、ゴルフを安くプレイする以外にいかに入会メリットを提示できるか。【高さ】として、初心者もなんとか挑戦することができ、セッティングに応じてエリートプロゴルファーも満足できるコースの汎用性を、いかに高めるかが弊社のもう一つの経営課題となります。
ハザードが多すぎる、全ホール砲台でグリーンが小さくパーオンできない等、難易度を高めすぎると「もう二度と来ない」と言われてしまうので、中途半端と評価されてしまうこともありますが、商売としてはコースの汎用性はとても大切だと考えています。
本稿に記したことの実践として、2028年の日本女子オープン誘致や、スコットランドの造成家による2年間のコース改修、他のグループコースにおいてもプロツアーのホストに立候補しております。九州という中央から離れた街で、このような挑戦をすることはとても難しいと感じていますが、挑戦は最大の防御という言葉を胸に、ゴルフ事業に邁進してまいります。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年11月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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