海に沈む国
南太平洋に浮かぶ数々の島嶼国は今、温暖化による海面上昇に苦しんでいます。島が沈む危機が現実のものになっているのです。これらの国ではオーストラリアやニュージーランドに移住する人が増えています。国を追われる人の悲しい顔がテレビで映しだされます。
しかし、ちょっと考えてみると、これら島嶼国には海面上昇の責任がないことが分かります。ながい間、石油を大量消費し、二酸化炭素など温暖化物質を空に吐き出してきたのは主に先進諸国です。途上国はつい最近まで温暖化物質をたくさん排出してきていません。中国やインド、ブラジルといった「途上国を脱している国々」は、かなりの排出量がありますが、太平洋の島々のように多くの途上国は温暖化物質の排出量が少ないにも関わらず、温暖化の被害をまともに食らっているのです。
これってなんかおかしいですね。どうしてこんなことが起こるのか。それを理解するには、世界の環境破壊の歴史、地球規模の環境問題と温暖化の歴史などを少したどる必要があります。
ストックホルムの環境会議
[caption id="attachment_86512" align="aligncenter" width="788"]

26回COPで、SNSを通して海面上昇の危機を訴えるツバルのコフェ外務相
(Facebook より)[/caption]
1972年、スエーデンのストックホルムで国連人間環境会議が開かれました。この会議は世界各国で頻発する様々な公害に対する初めての大きな国際会議でした。会議では「かけがえのない地球(Only One Earth)」がテーマとなり、26項目の「人間環境宣言」が発表されました。
このストックホルム会議がその後の環境問題についての大きな国際会議の始まりでした。しかしこの時、先進国と途上国との間に深刻な亀裂がありました。途上国は「我々は公害が欲しい」と叫んだのです。
その意味は「先進諸国は産業革命以来様々な公害物質を世界にまき散らし、自然資源を使い放題使って現在の発展を成し遂げた。我々はこれから発展しようとしているのだ。先進国がしたように我々も煙を出し、樹木を伐って発展したいのだ」ということでした。
確かに、日本でも戦後は黒煙が町を襲い、焼け跡に家や工場を次々と建設するために山林を伐りまくりました。学校の校歌に「煙もくもく発展の証し」などと歌われていたのです。
途上国の言い分もわかります。しかし、その言い分をも巻き込んで地球全体が壊れ始めているのも事実です。先進諸国は悩みました。
そしてケニヤのナイロビに国連の機関としてUNEP(国連環境計画)を設置し、世界の環境課題を解決する努力を継続することになり、途上国との対話を続けることになったのです。
途上国も公害に悩む
それから10年後、ナイロビで国連環境計画(UNEP)の管理理事会が開かれました。この会議では日本が大きな役割を果たし、GEWの2024年6月号に書いたように、日本の提案で「環境と開発に関する世界委員会」の設立を決めました。この委員会は後に持続可能な発展という概念を打ち出しています。持続可能な(sustainable)という言葉は以後、環境問題解決のためのキーワードとなります。
[surfing_other_article id=83238][/surfing_other_article]
一方、この会議ではもう一つ重要な変化がありました。途上国も環境問題の重要性に理解を示し始めたことです。それはストックホルム以来の10年間で途上国でも公害が頻発するようになっていたためでした。
ナイロビ会議では「環境問題は浪費的な消費形態のほか貧困によっても増大する」として先進国と途上国との共通の土俵ができ始めました。
リオ・サミット
[caption id="attachment_86513" align="aligncenter" width="788"]

国連会議に出席した筆者(右)左はストロング事務局長、2番目はテッド・ターナー氏。[/caption]
そのまた10年後、1992年6月「環境と開発に関する国際連合会議」がブラジルのリオデジャネイロで開かれました。世界172か国が参加し、首脳が100人以上出席。企業やNGOなど4万人以上が集まり、史上最大の国際会議と言われました。
この会議で温暖化防止の国際協力が一歩を踏み出しました。気候変動枠組条約が提案され、その場で締約国の署名が始まりました。これを受けて、1995年にドイツのボンで第一回締約国会議(COP1)が、次いで97年に日本の京都で開催されました。以来、会議は連綿として続き、今年は11月にアゼルバイジャンのバクーで第29回締約国会議が開かれます。
しかし、先進国の責任論と途上国への資金支援問題というお金の問題がネックとなってなかなか進みません。科学技術による努力、環境経営の普及、法律の整備など徐々には進展していますが、歩みは遅い。
その間にも世界各地で温暖化による被害が増え続けています。先進国も途上国も共に被害が出ている。もはやけんかをしている場合ではないはずです。
会議を引っ張るリーダーが欲しいですね。人類すべてに関係しているのだからみんなが協力すべきです。でも自己主張が出る。今こそ人間の知性が試されています。
島嶼国が海に沈んでからでは遅いのです。
気候変動に具体的な対策を
SDGsの13項目です。その具体策として 1)全ての国の気候関連災害や自然災害に対する強靱性や適応能力を強化する 2)温暖化防止対策を国の政策、戦略に盛り込む 3)気候変動の緩和、適応などについて教育や啓発を強化する 4)開発途上国のニーズに対応するため、2020年までにあらゆる供給源から年間1000億ドルを共同で動員するコミットメントを実施するとともに、速やかに資本を投入して緑の気候基金を本格始動させる 5)後発開発途上国及び小島嶼開発途上国に対して、気候変動関連の効果的な計画策定と管理のための能力を高めるメカニズムを推進する。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年11月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら