前回はゴルフ場の開場ラッシュについて、「預託金」制度に焦点を当てて説明したが、今回はゴルフ場ビジネスが瓦解した過程を深掘りして考えよう。
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言うまでもなく、1991年2月のバブル経済崩壊が発火点となった。急激な地価の高騰を冷やすために、政府は1990年、「総量規制」(不動産融資の伸び率を金融機関の総貸出の伸び率以下に抑える指導)に踏み切ったが、これがハードランディングの原因となる。「バブル三悪」と呼ばれた土地・株・ゴルフ会員権が一気に暴落してバブル崩壊につながった。
これにより、ゴルフ本来の目的(ゴルフコミュニティを通してクラブライフを楽しむ)ではなく、投機目的で会員権を購入した人々は大いに慌て、資産を失う危機感に支配された。
預託金に運用金利はつかないが、「元本は保証される」というゴルフ場との共通認識があっただけに、これを主張して返還請求に走る取り付け騒ぎが全国で起きたのだ。
会員には中小企業の経営者も多く、バブル経済の崩壊で会社の経営も危うくなった。返還された預託金を事業資金に充てる目論見もあったろう。その意味で返還請求は、皆、死に物狂いの形相だったのだ。
返還を求められたゴルフ場側は蒼白となる。会員権価格は将来にわたり上がり続けるという根拠なき「神話」を前提としたビジネスモデルは、弁済をまったく想定していない。本来、ゴルフ場の手元にあるはずの預託金は、すでに土地・建物等のゴルフ場資産に形を変えている。唯一の手段は、これらを処分して返還することだが、安値で処分しても預託金の額には到底及ばない。バブル経済の崩壊はゴルフ場の会員権制度にとって、まさに青天の霹靂であった。
ゴルフ場破綻と再生手続き
1991年、破産手続きの和議法に代わり「民事再生法」が施行された。この法律を簡単に言えば、再建計画(再生計画)の可決要件のもとで行う再建型倒産法の制度、となる。
裁判所から選任された監督委員のもと、再生計画案の策定並びに再生計画案の確定後に再生計画を遂行(リストラクチャリング)するという建付けで、この「新法」ができた背景には預託金の取り付け騒ぎが社会問題化したこともあった。民事再生法の申請を通し、預託金弁済を「帳消し」にして、身軽になって再生しようというものだ。
全国の破産コースでは債権者集会が連日開かれ、経営者は容赦ない罵声を浴びつづけた。結果、会員権として購入した権利の裏付け(預託)である保証金は90%以上カット(放棄)され、プレーの「利用権」のみ保護されることになった。
ゴルフライフは続けられますと、一見、綺麗事に聞こえるかもしれないが、要はゴルフ場が無くなるか、それとも債権棒引きでゴルフ場を残して利用権の保護を選ぶのか? 二者択一を迫られた多くの会員は、泣く泣く後者を選ぶしかなかった。
民事再生の適用で、潰れるはずのゴルフ場が命脈を保った。だが、その後もゴルフ場は静かに減り続けており、2002年のピークから約20年間で、約300のゴルフ場が姿を消している。そしてこれは、バブル崩壊という外的要因とは別に、ゴルフ場業界が抱える内的要因が影響していると筆者は考える。そこで、ゴルフ場が苦戦している理由を10項目にまとめてみた。
ゴルフ場が減った10の理由
1)民事再生法の初期段階では債権カット率が低く、二次破綻となって会員離れが起きた。
2)殆どのゴルフ場が会員の同伴や紹介なしに予約が取れる。
3)かつての開発ラッシュで地方にも多くのゴルフ場ができたが、現在は遠方に行かなくても近場のゴルフ場で手軽にプレーでき、特に関東商圏に需要が集中している。
4)メンバーとゲストとの料金格差が無くなっている。
5)預託金の殆どがカットされているので、会員権としての価値がないにも関わらず、年会費を払う義務とのバランスを欠いた歪な構造となっている。
6)接待ゴルフが極端に減少し、一部では復活しているが、接待需要は近場に限られている。
7)ゴルフ場施設の老朽化及びコース荒廃による客足の減少のスパイラルに陥っている。
8)ハゲタカファンドのゴルフ場再生には功罪あるが、プレー料金の破壊で低価格競争(大衆化)が起こり、特に地方では大打撃を受けている。
9)メンバーの高齢化と自動車離れ(免許返納等)で休会会員が増えた結果、年会費の減少による経営悪化が起きている。
10)築30~40年経過した施設(特にバックヤード設備:ボイラー、空調、水廻り、散水設備等)が想像以上に老朽化し、その修復資金が捻出できない。
以上の10項目に集約できるだろう。預託金返還の嵐は過ぎ去ったが、それでコトは治まらなかった。ゴルフ場は徐々に存続意義を失ってしまい、会員の猛反発を受けることもなく、自然死のように廃業している。
むろん、2003年3月の電力自由化で、太陽光パネル事業者が激増し、その矛先がゴルフ場に向いたことや、自然災害の影響も大きいが、ゴルフ場業界の「内的要因」も見逃せない。
この窮地を脱するにはコンセプトの練り直しが必須だと筆者は考える。かつての接待需要を意識した金太郎飴的な経営ではなく、個性を活かした多様な経営にシフトすることだ。名門の真似をしたドレスコードの押し付けをやめ、自社に合った顧客ニーズを丁寧に汲み取り、地方のゴルフ場なら地元密着を打ち出すなど「リコンセプト」の方法は沢山ある。
そこで次回以降、筆者が手掛けたリコンセプトの事例を紹介しよう。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年1月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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