大型扇風機の冷却効果検証―人工暑熱環境下での観察―

大型扇風機の冷却効果検証―人工暑熱環境下での観察―

大型扇風機はクラブハウス前だけにあっても意味がない

筆者が過去に発表した論文において、「18ホールのランドプレーの中でも特に、グリーン上で帽子内温度は急上昇する」ことを明らかにしている(Kita et al.,2019)。この研究で得られた知見から、真夏のコースラウンドにおいては、『グリーン上でのプレー前後に脱帽して通気すること』や、『パッティング前後には水分補給を欠かさないようにすること』などの提言を示してきた。 また、2024年3月9日にパシフィコ横浜で開催された、ゴルフ市場活性化セミナー(2024年春GMACセミナー)では、【地球沸騰化時代、夏のゴルフを安全に楽しむには ―ゴルフと環境とSDGsを徹底討論-】にシンポジストとして筆者が登壇し、『急がれるゴルフ業界を挙げた暑熱対策』として講演した。この中で、ハーフに3カ所程度、大型扇風機等によるクーリングエリアを設置し、1分程度の強風を浴びることなどを提案した。この背景には、近年クラブハウス前のみに扇風機がある場面を見かけるが、熱中症予防の観点からは殆ど効果が無いと思われることなどの問題意識によるものであった。 本稿では、大型扇風機による冷却効果がどの程度あるのかのエビデンスを探るためのパイロットスタディとして、人工暑熱環境下での大型扇風機による冷却効果の観察を試みたので紹介したい。

人工暑熱環境下において15分に1回の風を浴びる検証(2025年1月23日実施)

本研究では、猛暑下のラウンド中に風を浴びることで、着衣内や表面温度の低下にどの程度貢献するのかを見据えた検証であった。実験実施時期が真冬(2025年1月)であったため、屋内に人工暑熱環境を再現しての実験を行った。マネキンに黒色のポロシャツを着用させ人工太陽を模した白熱灯を照射した。実験開始時の実験室内温度は15.2℃、湿度34.4%、WBGT10.3℃であった。 マネキンAには45分間照射し続けた。マネキンBには45分間のうち15分ごとに大型扇風機の風を1分間(計3回)当てた。検証に使用した大型扇風機の風速は0.60~1.30m/sであった。ちなみに、一般的な家庭用扇風機の風速は0.15~0.25m/s程度である。この実験条件のもとで、着衣表面温度と着衣内温度を測定し比較検証した。

高温環境になればなるほど大型扇風機の効果が高まる

[caption id="attachment_86729" align="aligncenter" width="1000"] 図1 ポロシャツ「表面温度」の推移[/caption] [caption id="attachment_86730" align="aligncenter" width="1000"] 図2 ポロシャツ「着衣内温度」の推移[/caption] 今回の検証は、研究の手始め(パイロットスタディ)として行うため、まずは実験開始時の実験室内環境を低めに設定し実施した。データ収集の結果、【送風なし群】においては、着衣表面と着衣内温度はそれぞれ39.7℃と36.1℃まで上昇し続けたが、15分に1回の大型扇風機による【送風あり群】では最終温度において表面温度では27.2℃となりマイナス12.5℃、着衣内温度においては30.5℃となりマイナス5.6℃の差が認められた(図1)(図2)。 ポロシャツ表面温度およびポロシャツ内部温度のいずれにおいても、温度環境が高温になればなるほど大型扇風機による温度低減効果が顕著に認められた。15分での送風の際「表面温度」については送風後5分および10分後には送風なし群の水準に迫る温度上昇(回復)が見られたが、30分と45分の送風時のデータを見ると、高温環境になればなるほど、風の効果の有用性が高まり、表面・着衣内の両方の温度がより低く抑えられていた。 今回はマネキンを用いた検証のため、ヒトの体温や発汗、湿度等の影響が考慮されていない。今後、実際のラウンド時におけるフィールド検証が必要である。 追記:本稿の詳細は「日本ゴルフ学会第34回大会」で報告した。

参考文献

1)Kita,T et al.(2019)Changes in Temperature Inside a Hat During the Play of Golf ―Comparison of Hats with Different Shapes-,International Journal of Fitness, Health, Physical Education & Iron Games, Special Issue Vol6, No2, pp.163-166 2)北 徹朗(2024)急がれるゴルフ業界を挙げた暑熱対策、ゴルフ市場活性化セミナー(2024年春GMACセミナー)において「地球沸騰化時代、夏のゴルフを安全に楽しむには-ゴルフと環境とSDGsを徹底討論-」(2024年3月9日、於:パシフィコ横浜)、https://www.golf-gmac.jp/gmacseminar2024spring/(2025年2月6日確認) 3)北 徹朗(2025)大型扇風機による着衣表面と着衣内部の冷却効果観察-猛暑下ラウンドを想定した人工暑熱環境下におけるパイロットスタディ-、日本ゴルフ学会第34回大会(2025年2月26日-28日,於:宝塚医療大学宮古島キャンパス)発表抄録集
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら