「PALM SPRINGS Family restaurant &Golf range」(パームスプリングス)のクラブハウス外観は、米国西海岸のお洒落なレストランを思わせる。横浜市港北区日吉にある2階36打席115ヤードのゴルフ練習場である。東急東横線日吉駅よりバス5分、徒歩18分のアクセスで、筆者は都心から車で40分弱であった。
当日は木曜日11時頃の到着だったが駐車場は満車に近かった。入り口の左側にあるレストランは女性客中心で賑わっており、練習場も女性が多いと感じた。このパームスプリングスを経営する株式会社グリーンクロス・代表取締役相原裕太氏、サービス事業部部長兼ゴルフレンジ支配人の前田裕史氏に取材した。
パームスプリングスは昨年11月、創業58周年を迎えている。開場は1967年、創業者は相原氏の祖父・章氏である。相原家は代々この地区の地主で、昔は日吉駅まで自分の土地があったとされる。章氏は大学卒業後、東急に入社し都市開発を担当していた。田園都市線の開発にも関わったという。東急は、東急田園都市線沿線のスポーツ施設やゴルフ練習場も開発していた。
章氏は東急の経験を生かす形で、自分の土地活用に、
「これから流行るだろう」
と、ゴルフ練習場の経営を決意。東急時代の人脈を生かして、現在の地に40打席115ヤードの「日吉グリーンクロスゴルフ練習場」を作った。翌年運営会社の「株式会社グリーンクロス」を設立している。また、1970年には現在のレストランの前身となる「レストラン グリーンクロス」を開業。その他、ガソリンスタンド、ホームセンター、賃貸マンションなど、土地を活用して事業を拡大した。

章氏は東急とのダブルワークで、家業の事業は章氏の妻で専務だった茂子さんの力を借りた。最初の練習場の名称「グリーンクロス」も、茂子さんが「グリーン上で球がクロスするのを見て、グリーンクロスと思いついたらしい」という。
レストランは1988年に改築・増設され、現在の名称「パームスプリングス」になった。カリフォルニアをイメージし、非日常的な雰囲気を作りたいとの思いから茂子さんが命名した。茂子さんはリタイアしたが、練習場の近隣に住んでおり「練習場の電気つけっぱなしですよ」とお目付け役を果たしている。
現代表の相原氏は、祖父の後を継いだ2代目である。相原氏の母親の由美子さんは相原家が実家で、結婚して柏村姓になった。由美子さんには男兄弟がなく、章氏の「事業は男に継がせる」との主義から、長男が柏村家の製造業を継承し、次男の相原氏が養子として母親の実家に入った。そのため小学生時代に相原姓に変わり、将来は相原家の事業を引き継ぐ路線に入った。
相原氏は中高まで野球に打ち込み、大学卒業後スポーツクラブに入社、2014年29歳で家業に入り、32歳で社長就任、現在39歳だ。
「私が練習場に入った当時は、お客さんはガラガラで、ボールやマットも汚かった。常連さんが朝から同じ打席で練習し、コーヒーを飲んで1日過ごしている状況で、売上も厳しかったですね」
そのような状況下、祖父の章氏は練習場をやめ、その跡地にスーパーを建設する案を示したが、
「ゴルフ練習場としてもっと出来ることがあると思い、続けることを進言。そこから経営を任されました。祖父は元気でしたが、『お前がやりたいようにやれ』と言ってくれ、プレッシャーを感じながら改善策を考えたのです。手始めにボールとマットをきれいにし、その後どんどん改善を加えて、練習場の骨格以外は全て変革しました」
その努力が実を結び、年間来場者は10万人超、女性比率4割という驚異的な数値になっている。取材した木曜日はレディースDAYで、「60分打ち放題&パスタorデザートで1500円」「60分打ち放題&ドリンク付き1000円」を実施中。レストランを上手に活用している。
5月5日はPALM祭り

筆者は多くの練習場を取材しており、他の施設も女性客対策をしているが「女性比率4割」は初めて。相原氏はその理由について、
「レディースDAYを始めたのは2017年から。近隣練習場のレディースDAYと被らないように木曜日に設定しました。また、2018年から“PALM祭り”を始めています。入場無料でフェアウエイを開放し、子供のお祭りを開催。屋台や縁日、夜は映画を上映して地域の家族連れが来場されます。5月5日の子供の日に開催することが地元の女性に読まれている“日吉新聞”に掲載されたことも、女性来場者が多い理由の一つでしょう。2019年にトップトレーサーを導入、内装をリニューアルするなどして女性の評価は高まっています」
2019年に「PALM SPRINGS Family restaurant &Golf range」と名称変更。家族や女性目線を意識した。前田支配人は商圏について、
「地元の港北区が中心で7割以上ですが、都内からのアクセスも良いので世田谷からも来場されます。自社運営のスクールは生徒が150名以上、女性中心に増えています」
相原社長がポリシーを語る。
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パームスプリングス レストラン[/caption]
「経営方針は“全員参加の手作り感動経営!”で、社員は家族と同じ。目標を達成する喜びを一緒に味わってもらいたいですね。練習場事業はサービス業ではなく、ホスピタリティ業だと思ってます。お客さんの立場で考え、女性、子供に優しい練習場。“PALM祭り”のように、子供がゴルフに触れるきっかけの場を提供したい。課題は、近隣に大型練習場があるので、当社の認知度をもっと上げることと、駐車場が不足していることです」
ゴルフ業界の課題の一つは女性ゴルファーを増やすことだが、パームスプリングスの成功事例には多くのヒントと可能性が詰まっている。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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