特定サービス産業動態速報からゴルフ練習場が消えた

特定サービス産業動態速報からゴルフ練習場が消えた
特定サービス産業動態速報(以下「特サビ」と省略)が、2025年1月より経産省から総務省へ移管されて、その最初の公表(2025年1月分・3月26日公表)にはゴルフ場、ゴルフ練習場のデータがありませんでした。残念ながら、移管に伴い削除されたのです。これにより、2000年から毎月2ヶ月後に公表されてきた公的ゴルフ産業需要動向データは途絶しました。 各ゴルフ練習場は来場数(売上高)が急減した時、市場全体の動向と自社の実績を比較したいはず。特に震災やコロナ期には「自社の来場回数急減は他の練習場と比べてどうなのか?」を知りたくなる。そんな時に比較できる「全体動向」は特サビ長期データだけだったので、これに替わる需要動向速報データを一刻も早く構築する必要があります。

特サビの特質

[caption id="attachment_87610" align="aligncenter" width="788"] 表1[/caption] 特サビは貴重ですが、少し使い勝手が悪いデータでした。〈表1〉は特サビ最後(2024年12月)の長期データ〈月・実数〉ワークシートの抜粋です。12月は1万5066打席のゴルフ練習場から、合計利用者数159万7664人でした。 特サビはあらかじめ調査協力に同意してくれたゴルフ練習場(推定250)から、毎月回答を集計する定点調査でした。調査対象練習場は閉鎖等で時々組み替えざるを得ず、前後の連続性が損なわれます。そのため経産省は組み替え発生を明記していました。ですから、合計利用者数の変化を単純に「需要変動」として引用できません。その対策として経産省は、毎月の稼働打席数も同時に報告していました。稼働打席数は毎月微妙に変化しますが、「稼働1打席あたり利用者数」が計算可能であり、連続性が保証されます。

特サビ1打席データを直近12ヶ月移動合計で短期ノイズを除去

[caption id="attachment_87611" align="aligncenter" width="788"] グラフ1[/caption] 〈グラフ1〉は2019年12月~2024年12月の、特サビゴルフ練習場1打席あたり利用者数対前月増減です。 「合計利用者数」「1打席あたり利用者数」ともに季節要因、天候要因などで毎月大きく波動していました。この対策として筆者は「直近12ヶ月1打席あたり利用者数合計」を追加しました。毎月合計する12ヶ月の範囲を移動させるのです。季節要因、天候要因が除去されて、長期傾向が明確になります。コロナ特需は2021年11月の対コロナ前118%がピークで、2024年12月には104%まで縮小した長期傾向が明確に読み取れます。

特サビ代替は「カードシステム顧客来場履歴データ」しかない

特サビに替わるデータとして期待できるのが、一部のゴルフ練習場が導入しているカードシステムに基づく「顧客別来場履歴データ」で、筆者はこれしかないと断言します。 顧客カードシステム導入の目的は、フロントのコストカットや顧客を囲い込むポイント付与サービスにとどまっています。しかし定額プリペイドカードを除き、リライト型プリペイドカードやICカード、QRカードシステムは、来場者一人ひとりに決して重複しない顧客番号を与え、顧客番号別にすべての来場回数が記録、蓄積されます。その貴重な情報が活用されることなく眠っていました。筆者は10数年、複数のゴルフ練習場よりこのデータを抽出し、来場数の「変動要因」を分析する機会を頂きました。その結果、単に個別施設の変動だけではなく、ゴルフ需要全体の変動や、将来予測に有用な「法則」を発見できたのです。

パソコン手作業解析統合データ

[caption id="attachment_87614" align="aligncenter" width="788"] 表2[/caption] 前述のカードシステムから、筆者がパソコンによる手作業で抽出したデータが〈表2〉です。 ・顧客番号 ・直近12ヶ月の毎月来場回数 ・その前年12ケ月の毎月来場回数 ・それぞれの12ヶ月合計と対前年増減 のみで、個人情報は一切含みません。唯一の情報は顧客別月次来場回数変化です。このデータから以下の法則を発見しました。 ・来場回数はその顧客ゴルファーのゴルフ熱意を表す ・ゴルフ熱意は変化する ・ある12ヶ月間来場回数1回限りの顧客ゴルファーは翌12ヶ月70%以上再来場しない不安定顧客である ・ある12ヶ月間来場回数12回以上の顧客ゴルファーは翌12ケ月80%以上継続来場する安定顧客である ・30%の安定顧客が全体来場回数の80%を稼ぎ出す ・不安定顧客の安定化が個別ゴルフ練習場とゴルフ産業の将来を握っている

来場回数による顧客階層別分析

[caption id="attachment_87615" align="aligncenter" width="788"] 表3[/caption] 〈表2〉の来場回数を、 1.来場なし 2.不安定(直近12ヶ月12回未満) 3.安定(直近12ヶ月12回以上) と、3階層に分類。そして横軸に「直近12ヶ月来場階層」、縦軸に「それ以前12ヶ月の来場階層」とし、顧客数、来場回数をクロス集計したのが〈表3〉です。まず当該ゴルフ練習場は、直近12ヶ月の実働顧客数1万4437人、来場数3018回の増加が読み取れます。 さらに〈表3〉の灰色網掛けした9枠は「直近12ヶ月前年来場階層→直近12ヶ月来場階層変化パターン別」に集計されました。全体来場回数増加の「3018回」は〈表4〉のように8種類の増減要因別に増減回数と該当顧客数が分解できます。「全体来場数3018回増加」のみでは安心できません。その背後に4つの隠れた減少要因が存在し、9131人の顧客が合計2万6277回も全体来場回数を減少させていたのです。さらに来場階層の変化は「ゴルフ熱変化パターン」であり、最適な集客対策が客観的に検討できます。 [caption id="attachment_87616" align="aligncenter" width="788"] 表3[/caption] ・3来場なし→不安定 新来ビギナーが減っていないか? ・1不安定→安定 ビギナーが順調に安定顧客に孵化しているか? ・2来場なし→安定 競合ゴルフ練習場との競争に負けていないか? ・6安定→来場なし 大切な安定顧客が減っていないか? など、重要な着眼点が来場回数の変化からキャッチできます。

特許取得

筆者が考案した〈2・3・4〉の分析手法は、全て個人情報に触れず「顧客番号別」の月次来場回数履歴のみで可能です。ゴルフ産業需要調査研究所は、このプロセスのコンピュータープログラム特許(特許第7303508号)を取得しました。

特許分析をビッグデータに

[caption id="attachment_87612" align="aligncenter" width="788"] グラフ2[/caption] 日本シー・エー・ディー(株)は複数の優良ゴルフ練習場にカードシステムを構築提供し、その運用をサポートしています。練習場自身でカードシステムによる来場データを活用できるよう、分析システムを提供しており、個人情報を除外した来場分析に必要なデータを、練習場ごとに自社クラウドサーバに集結。そのデータを利用して、全体の動向を調査できる、単一の「全施設統合来場履歴データベース」としてまとめるプログラムも増設しています。 [caption id="attachment_87617" align="aligncenter" width="788"] 表5[/caption] 日本シー・エー・ディー(株)のシステムエンジニア、吉田広章氏が「全施設統合来場履歴データベース」に特許分析方法を組み込みました。その2021年12月以降の結果が〈表5・グラフ3〉です。 2024年12月時点で、特サビとの両者調査打席数を比較すると、特サビ稼働打席数1万5066に対し、日本シー・エー・ディーの打席数は1913と、13%しかありませんが、1打席当たりの来場数変化を特サビと対比し〈グラフ2〉としました。一致とは言えませんが、近似しています。カードによるデジタル入力なので、特サビのヒアリング調査よりも正確です。また、平均回数は筆者が安定顧客の閾値とした「12ヶ月合計来場回数12回」に極めて近く、かつ安定しています。

来場回数階層の経年変化が示す情報

[caption id="attachment_87613" align="aligncenter" width="730"] グラフ3[/caption] 〈表6〉は日本シー・エー・ディー(株)の「全施設統合来場履歴データベース」特許分析によるゴルフ練習場1打席当たりの指標で「調査対象期間:2025年3月」と「比較対象期間:直近12ヶ月前年」の増減です。「来場回数▲24・2」は「1打席当たり年間24・2人減少」を意味しています。

個別練習場の需要指標活用方法

2025年3月末時点で自ゴルフ練習場(自打席数60)の場合、〈表6〉の来場回数指標増減は▲24・2となるため、「▲24・2×60打席=▲1452」となり、自ゴルフ場実績減少回数が▲1452回ならば「全体市場動向並み」と判断できます。

全国市場規模推計の可能性

 この数値は「1打席当たり」です。全国ゴルフ練習場の総打席数が解れば全国合計も推計できます。ゴルフ産業需要調査研究所では定期的に全国全ゴルフ場調査を実施しています。2024年11月の最新調査では11万9000打席でした。 2025年3月末時点の実働顧客数1打席当たり減少数は▲1・2人なので、全国ゴルフ人口=▲1・2×11万9000打席▲14万5251となります。ただ、日本シー・エー・ディー(株)の取引練習場は、平均より上位施設が多いと推察されるため参考値です。次号から毎月〈グラフ3・表6〉を掲載します。 [caption id="attachment_87618" align="aligncenter" width="788"] 表6[/caption]
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら