理由は何であれ、現役を退いた高齢者がゴルフを止めると、それがきっかけで運動や人と関わる機会を喪失、社会的に孤立して一気に老け込むことが懸念されます。老化が進み、フレイルから要介護になると健康な状態に戻ることは出来ません。
フレイルとは、加齢により筋力や認知機能などが低下し、心身が老い衰えた状態です。健康と要介護の中間で、この段階であれば機能回復が期待できるので、フレイルの初期段階で対策を施すことが大切。
その第一歩が、自身にフレイルの危険性がどの程度あるのかを把握すること。そのために多くの自治体が実施しているのがフレイルチェックです。
先日、神奈川県と三浦市、そして三浦市フレイルサポーター連絡会の3者が共催するフレイルチェックイベントが三浦海岸の行政センターで開催されたので行ってきました。
フレイル予防で大切なのは「栄養・口腔機能」「身体活動(運動・生活活動)」、そして「社会参加」の3つだと、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢先生は話します。この3つの観点からフレイルの危険度を知るのがフレイルチェックで、簡易チェックと深掘りチェックがあります。
前者は測定器を使わず、指輪っかテストという、ふくらはぎの筋肉量を指で測るものと、全11問に「はい」と「いいえ」で答える問診(イレブン・チェック)があります。
指輪っかテストは、両手の親指と人差し指で輪をつくり、その輪で利き足でない方のふくらはぎを囲めるかというもの。指とふくらはぎの間に隙間ができる人は下肢の筋肉量が少なく、サルコペニアの可能性があります。(図1)
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(図1)フレイルチェックの一つ「指輪っかテスト」(資料提供:東京大学高齢社会総合研究機構、公益社団法人かながわ福祉サービス振興会「かながわフレイルなび」より)[/caption]
サルコペニアとは、加齢により筋肉量が減少し、筋力が低下することです。メタボという言葉の浸透により、太っていることは不健康とのイメージがありますが、高齢者にとっては体重減少の方が危険です。筋肉量が低下すると立つ、歩くなど日常生活の基本動作がおぼつかず、転倒リスクも高まるからです。
深掘りチェックは、先述の3つの観点から測定器などを使って細かくチェックします。「口腔ケア」では、歯をグッと噛む時に使う筋肉を手で触って確認します。面白いのは「パタカテスト」です。口腔機能測定器で「パ」「タ」「カ」を一定時間で何回言えるかを計測します。これで滑舌の良さが分かります。
「運動」では、メジャーでふくらはぎの太さを、握力計で握力を、体組成計で手足の筋肉量を測定します。それぞれ基準値以上ならば筋肉が維持できていると判断され、椅子から片足で立ち上がり、ふらつかずに立てるかもチェックします。(図2)
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(図2)フレイルチェックの様子。体組成計を使って筋肉量を測定しています。[/caption]
健康維持に必要な社会参加
「社会参加」では人とのつながり、組織参加、支え合いなどの項目をアンケート形式でチェックします。設問は「昨年と比べて外出の回数が減っていますか?」「一日に一回以上は誰かと一緒に食事をしますか?」など簡単なもので、結果は点数化されます。その点数が基準未満の人には「家族や友人とのコミュニケーションを意識しましょう」「興味のある活動を探して参加しましょう」などのアドバイスが書かれています。
フレイル予防には、この社会参加が重要視されます。フレイルには、ロコモティブシンドロームやサルコペニアといった「身体的フレイル」だけでなく、うつや認知機能低下による「心理的・認知的フレイル」、そして独居や孤食、外出頻度の低下という「社会的フレイル」の3つが影響して起こるとされているからです。外出頻度の低下から食欲不振、体重減少、身体機能の低下、更には社会的に孤立して生きがいを失う「負の連鎖」が最も危険だと、先述の飯島先生は警鐘を鳴らします。
日本公衆衛生雑誌(2019年)に興味深いデータがあります。ある地域の介護認定を受けていない65歳以上の高齢者4万9238人の悉皆調査によると、運動習慣があり、文化活動やボランティアなどの地域活動もしている人のフレイルに対するリスクを1とすると、運動習慣はあるが、文化・ボランティア活動などをしていない人のリスクは6・4倍になる。更に運動習慣もなく、社会活動もしていない人のリスクは16・4倍に跳ね上がります。
フレイルチェックイベントは「フレイルサポーター」が中心になって行っています。フレイルサポーターは一定の研修を受け、地域の健康づくりの担い手として活動するボランティアです。今回もグリーンのTシャツを着たボランティアが、講義をしたり測定を手伝ったりイキイキと活動していました。彼らはボランティア活動を通じて自らの健康寿命も延伸させているのです。(図3)
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(図3)「フレイルさっポーター」と呼ばれるボランティアに支えられているフレイルチェックイベント[/caption]
ゴルフ事業者も自治体と協力してフレイルチェックイベントを開催しませんか? コースではハーフターンの昼食時間やプレー後に、練習場では練習の合間に参加してもらい、逆に、フレイルサポーターにゴルフ体験を促せば喜ばれると思います。「フレイル」ではなく「健康ゴルフ度チェック」と名称を変えれば参加のハードルも下がるでしょう。
下肢の筋肉量や握力はゴルフスイングに影響し、歯を食いしばる時に使う咬筋や顎を動かす側頭筋を鍛えると、身体バランスの向上や全身の筋力アップに繋がります。人とのつながりやコミュニティも、ゴルフを楽しむ上で大切な要素です。
健康的にゴルフを楽しむためのチェックが、実はフレイルチェックになっていて、自身の健康度を知ることが出来る。そして危険度の高い人には適切な指導を行い、行動変容を促すことが出来れば、高齢者のゴルフ寿命延伸につながるはずです。