リコンセプト目線による女性ロッカーRoomリノベーション

リコンセプト目線による女性ロッカーRoomリノベーション
ゴルフ場のクラブハウスのゾーニングで最も重視すべきは、女性が利用するスペースの充実であると筆者は考える。そのため、リコンセプトを行う際は女性の気持に配慮するが、その必要性はコロナ期に起きた女性ゴルファーの動向によって重要度が増してきている。 コロナ特需で約60万人(矢野経済研究所「ゴルフ市場に関する調査(2022年版)」調べ、以下同)のゴルファーが増えたとされる。その内訳は新規ゴルファー43%、休眠復活ゴルファー57%だが、驚くのは男女比が男性56%、女性44%で拮抗していること。 とりわけ新規参入ゴルファーでは、20代、30代の女性は増加した人数の78%を占めるとか。コアな女性ゴルファーのゴルフ場来場率は平均20%未満とされ、依然として70代、60代、50代の男性が圧倒的に多い。せっかく増えつつある女性ゴルファーを離脱させないためにも、リコンセプトの役割は非常に大きいと考えている。 特にSNS時代における女性インフルエンサーの拡散力は、現代のゴルフ場経営において軽視できない力をもち、ファッション要素が大事になる。 ゴルフファッションは宮里藍さんのへそ出しで物議を醸した時代に火がつき、今では日本や韓国を中心にブラッシュアップされたゴルフアパレルが多くの女性の心をつかんでいる。80年代バブルのスキーブームがファッションで着火した現象と、二重写しの観がある。 ゴルフウェアを着て微笑む投稿はフォロワー数のアップにつながりやすく、バズりやすい。特にInstagram、Facebookにゴルフの投稿が激増して、第四次ゴルフブームの一因になった。そんな時代におけるリコンセプトの目線は女性ウケする仕掛けが外せない。というよりも、最重要視しなければならない。

昭和感からの脱却

その目線で現状を俯瞰すると以下のことに気づかされる。まず、バブル崩壊の1991年以降、新設のゴルフ場は殆ど誕生していないが、少数の新設コースはいずれもハイセンスな雰囲気を漂わせ、昔ながらのゴルフ場と比べておしゃれ感が段違いだ。旧来のゴルフ場はコストをかけた割にダサく、時代の変遷を感じさせる。 新しいゴルフ場は、多額な建設費をかけず建屋をコンパクトで機能的にしながら、トータルの建設費を抑えている。その反面、内装やFFE(Furniture=家具、Fixture=什器、Equipment=備品)にコストをかけてセンスの良さを漂わせる。 ダサい、やぼったいという感覚は、建屋よりも内装やFFEの部分で強く印象づけられる。古臭く、時代遅れのFFEは、同じ古さでも歴史を重ねた重厚さとは本質的に違う。 この連載で筆者は、バブル時代のクラブハウスに異常なコストが投じられ、もはや成金趣味の残滓として老境をさらす現状を嘆いてきた。バブル期のクラブハウスのFFEは、ダサい、やぼったいとの意味で昭和感満載なのである。 むろん「昭和感」が全て悪いわけではない。例えば昭和初期のモダン建築の部類に入るクラブハウスは、令和の時代になって再評価され、むしろ価値が上がっている。そのようなモダン建築に合わせた家具類は素晴らしいものが多い。そのことを誤解なきよう言及しておく。 さて、バブル時代のFFEは材質にこだわり高価だったが、バブル崩壊後の暗黒時代に放置され、毀損しているものが多い。かつてはオーナーの一声で決まった高級品の「大人買い」が影を潜め、現場責任者が「3社見積もり」で値段を叩くように購入した。失われた30年の昭和・平成時代、つまり長期デフレの時代に安普請のFFEに入れ替えられて、豪壮なクラブハウスとのミスマッチが悲哀を誘う。そんな没落感がダサさの正体だと筆者は思う。 [surfing_other_article id=87029][/surfing_other_article]

想定されていない史実

ゴルフ文化が日本に伝わり百十数年経った。ゴルフ発祥の地スコットランドでは、クラブハウスの玄関に「No dogs or women allowed」(犬と淑女お断り)と描かれた看板があったと伝えられる。往時のゴルフ&ソサエティークラブの生い立ちは、世の中の旦那衆が奥方からエスケープして、憩いの場を求めた仲良しクラブ。居心地がよく、これぞ男のロマンだと美化した考えが根底にあったのではなかろうか? このような背景を理解するとクラブハウスのゾーニングは、男性の空間は充実していても、女性向けの空間はそもそも想定していなかった。  日本におけるゴルフの普及は、第一次ブームの1957(昭和32)年以降徐々に広まった。当時の日本のゴルフ場数は推定116コース。その後急速に増え続け、1989(昭和64)年には1772コースとなり、ピーク時の2460コースまで突き進む。以前もこの連載で詳述したが、社用中心だった日本のゴルフが女性に冷淡だったのも頷ける。 その冷淡さを、今も放置しているゴルフ場は多い。ゾーニングにおいては女子ロッカー室、女子浴室、女子トイレなどは建築時に想定されず、付け足しの改装を繰り返し、取って付けたかの如くみすぼらしい。 まだある。ゴルフ場の入会に関する会則では、女性会員の定数を定め、女性は女性からの譲渡しか受けられないゴルフ場も多く、ジェンダーレスの現代にあって平等とは言い難い部分が多々あるのだ。 ちなみにR&Aのオフィシャルルールブックでさえ、2016年までは男性(his)を対象としたルール規定が受け継がれていたことは意外と知られていない。そのひとつが旧規則13‐1「ボールはあるがままにプレーする(Play the Ball as It Lies)」という規定だった。

リコンセプト5つの目線

前置きが長くなった。本題に入ろう。筆者が行うプロデュース&コンサルティングでのリコンセプトは、以下の5つの目線を重視して取り組んでいる。 1)豪華さよりも機能的であること→ゴルフ場側の清掃や維持管理が楽で、且つ、使用する側(お客様)も導線を含め使い易いことを基準とする。 2)非日常空間の演出→家庭ではもったいなくて買えない!または使用できない!を、ワンポイント入れることを基準とする。 3)Simpleで洗練されていること→奇をてらったものではなく主張し過ぎず、しっかり印象に残る雰囲気の演出を基準とする。 4)清潔感を体感できること→絶えず埃やゴミは目につかず、いつも事前に清掃されています!という安心感を醸し出すことを基準とする。 5)あったらいいな!を揃える→ドライヤーを始め各種Amenityなど普段使いしているものと比較できるものはワンランク・ツーランク上回る商材を導入することを基準とする。 このような目線で筆者は女子ロッカーRoomのリノベーションに取り組み、手前味噌だがお客様とゴルフ場より高評価をいただけている。 記載した5項目に照らして常にトレンドに敏感となり、今後手掛けるリノベーションをアップデートしながら、ゴルフ場で過ごす時間が居心地良いと多くの女性に思っていただけるよう邁進したい。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら