おしゃれな目土バッグの導入で プレーヤーのコースへの愛情が育つ

おしゃれな目土バッグの導入で プレーヤーのコースへの愛情が育つ
今年も酷暑が予想され、ゴルフ場のメンテナンスが難しくなりそう。グリーンの被害も今から心配だ。そこで今回は芝生について解説したい。まず、日本のゴルフ場で採用されている芝の部位と芝種は、 ・ティーイングエリア=高麗芝 ・フェアウェイ=高麗芝 ・ラフ=野芝 ・グリーン=ベント芝 このような構成で使い別けるコースがほとんどで、日本の気候に配慮した設定といえる。 高麗芝は別名「日本芝」と言われ、暖地型。一方のベント芝は「洋芝」と言われ寒冷地型に分類される。ちなみに洋芝=ベント芝と一言で括られがちなのだが、ベントには100種以上の品種が存在する。 観賞用(庭園用)とは異なるゴルフ場の芝は、スポーツターフとして日々研究されている。グリーン用は繊細なボールの転がりを追求するほど葉先が細く、アップライトに立って生育することが求められる。近年は地球温暖化による異常気象に耐えられるよう、寒冷地型でも暑さへの耐性を備える改良もテーマになる。 バブル創成期、日本のゴルフ場のグリーンに使われた品種はペンクロスが一般的で、当時は第二世代だった。現在は第六世代まで進化している。 フェアウェイでベント芝が使われるのは、北海道などの寒冷地に限られる。この地域のゴルフ場は、全ての部位が単一の芝種で構成され、刈高を変えることでフェアウェイラインを変化させることができる。戦略性が高いトーナメントセッティングへのアレンジも容易にでき、汎用性が高く理想的だ。 しかしながら日本の大半のゴルフ場は、気候の制約からフェアウェイの芝は高麗となる。高麗芝は乾燥に強く、土壌中の水分が少ない環境でも比較的我慢ができ、踏圧にも強い。暖地型だが寒さにもある程度耐えられるため、その万能性から多くの地域で採用されている。 散水設備においても、高麗芝を採用するゴルフ場ほどスプリンクラーの設置数が少なく、造成コストが抑えられるメリットがある。ただし近年の酷暑下では、高麗芝の乾燥が深刻化し、コース管理も夏場は散水業務に追われている。つまり、寒冷地型並みの散水設備が必要になってきているのだ。

目土バッグ導入の背景

次に、目土について説明しよう。ショットで削り取られた芝生は放置すると再生されない!このことを筆者は強調したい。フェアウェイやグリーン周り、パー3ホールでのティーショット時にダウンブローで打ったりダフった場合、芝は削り取られディポット跡が残る。 削り取られたこれらの部位には、前述のように高麗芝が使われている。高麗芝の特性は、ライナー(匍匐茎)を伸ばし、その先端や節から、芽や根が成長するため、横に広がりながら芝面を形成する。この時、削り取られたまま放置するとライナーを伸ばせず、つまり住み家を造れず、削り取られたディポットはいつまでもそのままの状態となるため、住み家をちゃんと用意すべく目土(砂)を補充しておく必要がある。 それ以外にも目土を施す効果はある。たとえば・・・。 ・ディポット跡に目土(砂)をして表面を平らに整えると、次にプレーするゴルファーが不公平なライを避けられる。 ・排水性の改善効果があり、ディポット跡がぬかるむことを防止できる。 ・地表面を平らにすることで、ボールの転がりやショットへの影響を抑制できる。 つまり目土には、多くの効果が期待できるわけだ。 その目土の効果を、ゴルファーに認識させたいと筆者は以前から考えていた。そんな折、約10年前からゴルフ愛好家に普及し始めた「ターフエイド」という、オシャレで使い勝手が良い目土バッグの存在を知った。 製造販売元を調べたところゴルフライターの高梨祥明氏(ポジション・ゼロ株式会社:千葉県)に辿りつき、連絡をして訪問した。高梨さんはEditorであり、Creator兼Craftsmanと多彩な人。「ターフエイド」製品化の経緯や想いを聞くにつけ、芝草に対する思い遣りや考え方に筆者は共鳴。ゴルフ場用にカスタマイズして導入したい旨を伝えると、快諾を得、ゴルフ場への導入に動きだした。 ただし幾つかのハードルがあり、特に価格が難問だった。この目土袋は個人のゴルフ愛好家向けなため、贅沢な造りで目土袋としては高額(税込7810円)で、業務用にアレンジすれば更に価格は上がってしまう。そこで業務用ではなく、来場者への新たな価値観の提唱としてこの目土袋を位置づけることにした。リコンセプトの発想だ。

価値観の見直し

[surfing_other_article id=87034][/surfing_other_article] 筆者が取り組んだ施策は「ターフエイド」をコースAccessoryの一部と位置づけ、削られたターフをプレーヤー自身が楽しく目土をするという、新たなゴルフ場文化の構築であった。 プレーヤーに業務用の古びた目土袋ではなく、洒落たバッグで楽しんで目土作業をするスタイルを定着させたいと試みた。この目土袋は、持ち手がバッグの中腹にも付いていて、そこを持つと水平にバッグが傾き、目土作業がやり易いことも好都合だった。また、目土袋と目土ステーション(目土箱)のアイコンを同一化させ、アイコンで双方をつなぐことで補充の意識付けも行う。メンバーシップ色が濃いゴルフ場ではコースを労わる光景を見かけるが、そのスタイルをゴルフの嗜みとして演出したいと考えたのだ。 業務用に際してカスタム化にも着手した。耐久性の向上(持ち手部分を強化し繰り返しの使用に耐えられるよう変更)と、オリジナリティの追求だ。ゴルフ場名をオンネーム化することで、各コース独自のブランドイメージを高めたもの。 この「ターフエイド」の導入により、主として以下の3つの成果が確認できたことは何よりも嬉しかった。 ・目土作業の促進:ゴルファーが積極的に目土を行うようになった。 ・意識向上:目土の重要性が広く認識され、芝生の維持に対する意識が高まった。 ・利用者からの評価:おしゃれで使いやすいバッグとして、メンバーから高評価を得られた。 筆者が提唱するリコンセプトは、コース内における標識など物質的なものばかりではない。ゴルフ場の個性や思想に合わせた生き残り策には、そのコースならではのスタイルやメッセージ性、こだわりも大事な要素になってくる。それが定着・熟成していくことで、ゴルフ場の品格や居心地の良さ、独自の世界観が世代を超えて受け継がれてゆくと思うのだ。 また、酷暑下の芝生管理は激務である。プレーヤーが目土を行えば作業員の労働が軽減され、効率化でき、そのコースの雰囲気は思い遣りに満ちたものになるはずだ。それがリコンセプトの本懐でもある。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年6月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら