埼玉県所沢市。全64打席、250ヤードの広大な練習場・新富ゴルフプラザがある。ここは今では珍しい「コースボール」が打てる練習場だ。一方、この練習場にコースボールを供給しているのが、ロストボール販売業の老舗・アイゴルフ。同練習場のボールへのこだわりを創業58年の技術力で支えている。そこでGEWでは、若き2代目経営者同士である、新富ゴルフプラザの坂東枝美子専務と、アイゴルフの岩崎陽平社長による対談を掲載。「練習場とコースボール」に込めた想いについて語ってもらった。
新富ゴルフプラザの最大の特徴は「コースボール」が打てるということですが、まずはそこに込めたこだわりについて教えて下さい。
坂東 分かりました。当練習場では1990年の開業時よりコースボールを使っています。創業者である父が熱心なゴルファーだったということもあり、ゴルフ場に近い本格的な練習ができる場所にしたかったんだと思います。
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新富ゴルフプラザ[/caption]
岩崎 当社も多くの練習場と取引がありますが、大半は「レンジボール」を使っていますよね。コースボールが打てる練習場は、各都道府県に1場あるかないかくらいです。
練習場が約2400か所なので、2%程度。少ないですね。
岩崎 僕がこの業界に入った1998年頃はコースボール使用の練習場はまだ数多くありました。ただ、色々な事情で次第にコースボールで練習するという文化を守れなくなってしまったんでしょうね。
それは何故なのでしょうか?
岩崎 一番の理由はコスト面ですね。レンジボールの方がコースボールに比べて10倍の耐久性があると言われていて、買い替え頻度が少なく済みます。
それはかなりの違いですね。
坂東 当練習場も毎月1万球ずつ、年間12万球を毎年入れ替えています。
岩崎 レンジボールなら年間4万球程度でしょうね。12万球なら3年分になります。それだけに新富ゴルフプラザさんは希少な練習場ですよ。
坂東 ありがとうございます。父が他界し、私がこの練習場の経営を継いだのは6年前なのですが、その時にこの練習場の強みを再度考えてみたんですね。そこでスタッフやお客様にヒアリングしたところ、「コースボール」という声が多かったんです。生前、父もボールにはこだわっていて、自ら集球室に入って良いボールと悪いボールを仕分けていたらしいんです。
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新富ゴルフプラザ 坂東枝美子専務[/caption]
岩崎 それはすごい。
坂東 昨年の開場35周年の時にキャンペーンを実施して、350人のお客様にアンケートを取った時も、8割の方が「コースボール」が当練習場の魅力だと答えてくれたんです。これはもう何が何でもコースボールを残して、さらにブラッシュアップしたいなと思ったんですね。お客様には常に品質の良いボールで練習してもらいたいので、毎月1万球の交換は当社のこだわりですね。
「150ヤード」を極めるコースボールのメリット
練習場でコースボールを使うメリットはどんな点でしょうか?
坂東 一番は「打感」だと思います。コースボールはレンジボールに比べて打感が柔らかいですよね。
岩崎 そうですね。レンジボールは耐久性を重視しているので、硬質のカバーが使われていて打感も硬くて重たい。フェースに当たった瞬間に「ガチッ」とした感触がありますからね。一方、コースボールは柔らかい打感で、フェース面に吸い付く感じがあります。レンジボールもワンピースとツーピースがあって、ツーピースなら柔らかい打感になるのですが、やはり完全に同じではありませんからね。
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アイゴルフ 岩崎陽平社長[/caption]
坂東 実は以前別の業者さんからレンジボールに変えませんかと提案されたことがあるのですが、コースボールの打感の良さを評価してくれるお客様が多いので見送りました。
岩崎 それにレンジボールはコースボールに比べて一般的に10%~20%程度、飛距離の正確性が落ちる構造になっています。
坂東 まさにその飛距離に関連してなんですが、新富ゴルフプラザのコンセプトは、「150ヤードを大切にする」ということなんですよ。ゴルフで重要なのは150ヤード以内の精度を上げることで、そのためには正確な距離を把握することだと考えています。ただ、岩崎さんがおっしゃるように、レンジボールはコースボールと飛距離の正確性が違うので、それに慣れてしまうと、実際にコースに出た時に距離感が合わなくなってしまう。150ヤード以内にターゲットを多く配置しているのもそれが理由で、日頃から練習場でもコースボールで正確な150ヤードを磨いてほしいんですよ。
フェアウェイを見ると、坂東さんの狙いが実によく分かる構造になっています。
岩崎 それとコースボールはモデルごとに風の影響なども考慮してスピン量が調整されています。一方、レンジボールは一般的にスピンがかかりにくいため、低い弾道になりやすい。その分、左右のブレが少なくなる傾向にありますが、やはり実際の球筋とはズレが生じます。
よく練習場では真っすぐ飛ぶのに、コースだと曲がるという人がいますが、ボールの違いも影響していそうですね。
岩崎 はい。番手ごとのスピンやボールの高さを知ることもゴルフには重要なのでコースボールで練習する利点は大きいと思いますね。それと今言ったように、ボールが上がらないので無意識のうちにボールを上げようと力んで煽り打ちになります。練習場で逆に下手になっちゃうということもあるんですよ。
坂東 実は1階の5~7番打席に練習場で初めて「ラプソード」の弾道測定器を導入しました。最近はトップトレーサー・レンジやトラックマンレンジなど、弾道測定器を入れている練習場が増えていますが、使用しているのはレンジボールなので、コースボールにデータを変換してくれているとは言え、やはり正確な弾道データではないと思うんですね。その点、コースボールなら補正などせず、本当の意味で正確なデータを知ることができます。
それは大きな利点ですね!
岩崎 それとね、例えば新しいドライバーを買ったら、やっぱりコースボールで試したいじゃないですか? あとコースボールは球が統一されていない一方、様々なメーカーやモデルが混ざっているので、一度に色々なボールを試せるメリットがあるんですよ。自分のエースボールが見つかるかもしれない。
坂東 当練習場は1球1球こだわって練習する熱心なお客様が多いので、アプローチ用とショット用でモデルごとに分けている方もいます。色々なモデルを打てるのはそういった利点もあると思うんです。あと練習場の悩みで多い、レンジボールにコースボールが混ざるということがないのも利点です。
岩崎 お客さんが自分のバッグからコースボールを出して打っちゃうという問題ね‥‥。これ本当に多くて、ある練習場だと半年で1万球のコースボールが混在していたことがあったくらいですよ。
坂東 多いですね!
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左:アイゴルフ 岩崎陽平社長/右:新富ゴルフプラザ 坂東枝美子専務[/caption]
岩崎 きっと練習場で自分のボールを打っちゃう方は癖になってるんでしょうね‥‥。それに回収ボックスを置いていても、意外と出てきたコースボールをそのまま打っちゃう人が多いんですよ。
コースボール出たからラッキーみたいな。それによって起きる問題って何でしょうか?
岩崎 一番はネットへのダメージが大きく、補修費用がかかるということですね。
マナーもしっかり守れるゴルファーにならないといけませんね。
岩崎 本当にそうですね。その点、最初からコースボールを使っている新富ゴルフプラザさんは、そういった問題が起きないんですよ。
それに奥行きが250ヤードあるのでネットまで届くということもまずなさそうですね。
坂東 はい。男性でも200ヤード飛ばす方は少ないので、奥のネットに直接当たることは非常に稀ですが、品質管理のために月に1回はネットの点検を行っています。
高品質のボールを供給するアイゴルフの技術力
練習場でコースボールを使うメリットはよく分かりました。次に気になるのがボールの品質ですが、その辺りはいかがでしょう?
岩崎 練習場に納品している「コースボール」は、いわゆる「ロストボール」です。ロストボールとは周知のようにゴルフ場でOBや池に入ってしまったボールのことで、それを当社が仕入れて、洗浄と選別をし、練習場に供給しています。
選別は自動ですか?
岩崎 多くの女性スタッフが全て手作業で行っています。品質を見極めるのに慣れた熟練スタッフです。
坂東 手作業なんですね!
岩崎 はい。自動化も検討しましたが、やはりそこは人の目でやった方がいい。その代わり1日にそんなに多くは選別できませんが、手作業にすることで納品先の求めるご予算や品質に合わせてランクを細分化できます。
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新しいコースボールの納品風景[/caption]
打席を見てきましたが、『プロV1』とか結構良いモデルも供給しているんですね。
岩崎 そこはバランスですね。ハイブランドばかりに寄せてしまうと練習場さんの負担も増えて良くないし、玄人志向に見えて何となく来にくい練習場になっちゃう。そこは選別の機微というか、バランスを意識しています。その中で、新富ゴルフプラザさんの場合はカラーボールや企業ロゴが入ったボールは混ざらないようにしているのと、「練A」という練習場向けの中で一番高品質のコースボールを卸しています。
坂東 ボールに入っている「新富ゴルフ」の黄色い文字や線も岩崎さんが提案してくれて、実は今日初めて見たのですがイメージ通りでとても気に入っています。
岩崎 ありがとうございます!
坂東 実は私が継ぐ前はボールに赤の線を入れていたんです。ただ赤は色が落ちてクラブにつくと目立つというお客様の声が多かったんです。
岩崎 一般的なレンジボールは基本的に赤い線ですからね。赤は「持ち出し禁止」という警告の意味合いは強くなります。
坂東 そうなんですよね。何かしらの目印は入れたい。でもお洒落にもしたいという中で、岩崎さんがボールの白に近い黄色を提案してくれたんです。
岩崎 当社も青や緑など色々な色を試しましたが、黄色なら剥げても目立ちにくいし、まとまるとキラキラ光って見える。その提案を坂東さんが採用してくれたので、他の練習場と差別化できていると思います。
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ボールのロゴに被らないように黄色い線と「新富ゴルフ」の文字が綺麗に印刷されている[/caption]
坂東 本当に綺麗ですよね。「新富ゴルフ」の文字もとても良い。実はこれも最初「Shintomi」とローマ字で入れていたんですが、もっと目立つようにしたかった。それで岩崎さんと相談する中で、このフォントでこの大きさで「新富ゴルフ」と入れてみたらどうかとご提案をいただき今回の形になりました。黄色のおかげでこれだけ大きく文字を入れているのに悪目立ちしない。すごく気に入りました!
岩崎 ありがとうございます。実は印刷方法にもこだわっていて、印刷と言っても、インクジェット、オフセット、レーザーなど色々な種類がありますが、当社が採用しているのは「PAD(パッド)転写」という方法です。
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PAD 転写の様子[/caption]
特殊な方法なんですか?
岩崎 はい。ボールは球体なので平面のものに比べて印刷するのが難しい。特に今回のようにボールを一周するように印刷するのはボールメーカーもなかなかやりません。ロゴやモデル名はボールの4点に印刷されているじゃないですか? ネームサービスもワンポイントが多いのはそれが理由です。一方、PAD転写は帯状の柔らかい型を使って、ボールに沿うように印刷できるため、球体でも対応できます。ただ、業務用のPAD印刷機は高額ですし、型の幅もボールに合わせて微妙に調整しなければいけないので、ここまでやっているボール屋は珍しいと思います。
一日何球くらい印刷できるんですか?
岩崎 頑張って作業しても数千球が限度ですね。新富ゴルフプラザさんの場合は、今言ったようにボールにぐるっと1周印刷するので、数日かけて作業しています。
坂東 そんなに時間がかかっているとは知らなかったです!
岩崎 それと細かいですが、黄色い線と「新富ゴルフ」の文字が、ボールメーカーのロゴとロゴの間に印刷されるように都度手置きで調整しています。自動化だとそこまではできませんから。
手間とコストがかかることなんですね。
岩崎 はい。やはり当社は同業者の中でもパイオニアでいたい。ボールの買取りから洗浄・選別・印刷まで一気通貫で内製化できているボール屋はなかなかないと思います。そのために他ができないことを常に探っていますね。
坂東 さすがですね!
新富ゴルフプラザの高品質のコースボールにはお二方のこだわりが凝縮されているんですね。
練習場×コースボールのこれから
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左:アイゴルフ 岩崎陽平社長/右:新富ゴルフプラザ 坂東枝美子専務[/caption]
今はレンジボールも価格が高騰しており納期もかかります。もっとコースボールを採用する練習場が増えても良いような気がしますね。
坂東 そこは客層やニーズによっても変わると思いますね。レンジボールの統一感が良いという練習場もあると思いますし、距離のない練習場だとネットの交換頻度も上がってしまいます。
岩崎 それにレンジボールの耐久性は魅力です。ただ、確かにレンジボールは価格が上がる一方で、半年から1年先まで入らないという状況の中で、コースボールに戻す練習場が出てくる可能性もあります。そこは全部がコースボールにすべきだということではなくて、練習場ごとに特色があって良いと思うんです。その中の一つにコースボールという選択肢があればいいと思う。2028年からボールのルールが変わるという中で、飛距離ばかりではなく「アプローチが上手い人が勝つ」とか、ゴルフ練習場もSDGsに取り組まないといけないという中で、「コースボールはエコ」だとか、色々な打ち出し方ができると思います。いずれにしても当社は練習場のあらゆるボールのニーズに応えられる体制でいます。
坂東 私も今後ボールのルールが変わり、コースボールの飛距離を落として、飛ばないボールに変わると聞いた時に、益々コースボールが使いやすくなると思いました。つまり飛ばしではなく、打感の良さと距離の正確性が今後重要になってきて、150ヤード以内の大切さを訴えている当練習場と親和性があると思いました。
最後にまとめをお願いします。
坂東 岩崎さんと初めてお会いしたのは10年くらい前で、すごくエネルギーのある方という第一印象は今も変わりません。ボールの黄色いマークもそうですが、当社の身になって色々提案してくれるので助かっています。年代も近いし気軽に相談できるのも心強いです。これからもボールの品質含め一緒に取り組んでいきたいですね。
岩崎 ありがとうございます。坂東さんはパワフルで、常に挑戦するという考え方が僕と似ていて仕事していて心地良いんですよ。女性の練習場オーナーとしても唯一の存在だと思いますね。これからもよろしくお願いします。
【動画】コースボールが打てる練習場「新富ゴルフプラザ」を紹介
今や希少なコースボールを打てる練習場、新富ゴルフプラザ。そこで打てるボールは、アイゴルフの長年の技術力が入っているものだということが分かった。コースで即役立つ距離感を磨きに、同練習場を訪れてみてはどうだろうか。
最後に新富ゴルフプラザの紹介動画を観てもらいたい。