トランプ大統領の再登場
ドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に再任されました。トランプ大統領は1月20日の大統領就任から1か月の間に、前政権の政策を矢継ぎ早に取り消しています。
2017年から21年までの第一次トランプ政権の時代に逆戻りです。2020年に政権を失ってからの4年間、民主党のバイデン大統領がトランプ時代の政策を大きく変更、環境保護よりの政策を進めてきました。しかしトランプ氏の返り咲きで、再び環境受難の時代が始まったようです。
トランプ大統領は今回の就任直後にエネルギー開発の促進、アラスカの資源開発推進、国家エネルギー非常事態宣言、パリ協定からの脱退、洋上風力発電への開発制限など大規模な政策変更を発表しました。
まず、温暖化防止を目的とするパリ条約の脱退を決めました。予想されていたとはいえ、世界は動揺しました。なにしろ世界で2番目に多く二酸化炭素を排出している国が「温暖化など知らないよ」と言い出したのですから。
なかでも化石燃料産業への支援強化策は、温暖化防止どころか温暖化「推進」政策と言えます。石油や天然ガスの採掘に対する環境規制を緩和し、アラスカでの開発では自然破壊に目をつぶることにしています。
石油を始めシェールガスなどの採掘が推進するよう各種規制を緩め、「掘って、掘って、掘りまくれ」と勇ましい掛け声を発しています。返す刀で電気自動車の義務化の撤廃、支援の見直し、さらに環境保護庁の権限縮小と政策の転換を実施し始めました。
レーガン政権時代
[caption id="attachment_88811" align="aligncenter" width="788"]

COP27では、日本が主導してパリ協定6条(市場メカニズム)ルール理解促進や研修の実施等を支援する「パリ協定6条パートナーシップ」を立ち上げた。写真中央は西村環境大臣(環境省ホームページより)[/caption]
今回のような政策は、以前にもありました。レーガン大統領の時代です。1981年に就任したレーガン大統領は今回のトランプ大統領と同様に反環境政策を実施したことで知られています。
私は1990年に「アメリカの環境保護運動」(岩波新書)を出版しましたが、その中で次のようなことを書きました。
レーガン政権の8年間は、環境保護グループにとって悪夢の時代だった。環境保護局の予算は大きく削られ、カナダとの酸性雨の問題は何の進展も見せなかった。環境政策は後退を重ね、経済優先の政策がすっかり幅をきかせるようになっていた。
しかし、その間、チェルノブイリ原発事故(1986年)、酸性雨、砂漠化など国境を超える環境破壊が各地で発生し、さらに温暖化、森林減少、野生生物の減少といった地球的規模の環境問題が深刻な課題として認識され始めました。
レーガン政権の環境政策は徐々に批判の対象となってきました。このため1988年の大統領選挙では、共和党のブッシュ氏と民主党のデュカキス氏が対決しましたが、両陣営とも環境問題を大きく取り上げることになりました。時代は大きく動き始めたのです。
デタントの影響
[caption id="attachment_88813" align="aligncenter" width="750"]

世界の国別CO2排出量は中国が断トツ、ついでアメリカ、日本は5位(エネルギー・経済統計要覧2024年版を基に筆者作成)[/caption]
レーガン政権の環境政策が批判され始めたのは、温暖化など地球環境問題の出現ですが、もう一つ大きな政治的影響がありました。それはデタント(東西両陣営の緊張緩和)でした。
旧ソ連のゴルバチョフ書記長が進めたペレストロイカ路線により、人類の最大の課題である核戦争の恐怖がやや遠のき、その背後から地球環境問題が顔をのぞかせ始めたのです。
国連総会でシュワルナゼ外相が地球環境問題での委員会の提唱を行うなどソ連は環境保護に積極的な姿勢を示し始めたことも影響しました。
そもそも環境問題は目に見える被害がすぐ現れず、慢性病のようなものです。それに対し、核の問題や経済の急変は骨折のような緊急を要する課題です。
通常は緊急性がある課題が優先され慢性的な問題は後回しになります。特に地球環境は目に見えにくく、緊急性の課題が多い時には後回しになることが多い。しかし慢性病も放っておくと癌になったりします。命取りにもなる。
このように、1980年代後半になると地球環境問題の恐ろしさが認識されるようになり、レーガン大統領も出席した1988年のアルシュ・サミットでは地球環境問題が主要な課題になりました。
アメリカではブッシュ氏が大統領になり、環境問題はやや進展を見せましたが、まだ不十分でした。続くオバマ大統領になってようやく環境保護が大きな課題となり今日まで続いてきました。
環境冬の時代を乗り越える
そしてまた反環境主義が前面に乗り出してきた。世界第一の大国アメリカが自己主義に閉じこもってしまうと、その影響は計り知れません。環境だけでなく、世界秩序の無視などにも繋がり、これまで営々として築き上げてきた民主主義という政治形態も脅かされようとしています。
しかしながら、この30年、アメリカは揺れながらも地球環境問題に貢献してきました。アメリカの市民の声に期待しながらなんとかこの4年間を乗り越えたいと思います。
今回は少々理屈っぽくなりましたが、環境問題と国際政治とが互いに絡み合って進展していることをお伝えしました。
温暖化はゴルフ業界も無視できない課題です。アメリカ国民も夏の暑さや山火事、ハリケーンなどは大きな問題と考えるでしょう。
日本も積極的に取り組まなくてはいけません。
13.気候変動に具体的な対策を
この項目での主な具体策
すべての国々で災害や自然災害に関する強靱性及び適応の能力を強化する。
気候変動対策を国別の政策、戦略及び計画に盛り込む。
気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する。
国連気候変動枠組条約が、気候変動への世界的対応について交渉を行う一義的な国際的、政府間対話の場であると認識する。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2025年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら